前へ進め、お前にはその足がある
>家族 -act04-
球場へと入った定春は遠吠えをすれば、その隙にとうとうは定春の上から降りることが出来た。
に気付くことなく銀時達の方へ走り出した定春を囲むように、五人は片手にグローブ。阿音は更にボールを持って立つ。
「よっしゃ! プレイボーイぃぃ!!」
「いや、プレイボールでしょそれ!?」
「オ”イぃぃぃぃぃ、どこ投げてんだァァ!!」
阿音から新八へ向かって投げられたボールは、軌道を大きくズレてしまった。
必死になって走る新八へ、阿音はとんでもない事を言う。
「いけない! 球を落としたら込めた験力がパーよ!! 絶対に落しちゃダメ!!」
「それを早く言えェェ!!」
阿音の力を込めた球を五人で投げあい、五芒星の軌跡を描きその中に定春を閉じ込める事によって
定春の狛神としての覚醒、暴走を解くことが出来るのだがそのボールを落としてはならない。
それは大事な事ではあったが事態が事態である。説明している暇が無かったのだろう。
新八は選手が控えるベンチ席へと頭から突っ込みながらも、ボールは見事グローブに収めるが、新八へ向かって定春が走ってくる。
投げろと言われボールを百音へ向かって投げたは良いが、それをとる事はできずアゴにぶつけて鼻血を出して倒れてしまった。
隣にいた銀時が咄嗟に走ってボールを取り、すぐに神楽へ向かって投げた。
上手く行くと思った矢先、その軌道上に定春に追われ逃げる新八が現れ避けられる事もなくそれは百音同様、新八のアゴにぶつかり高く上へと跳ねた。
「え”え”え”え”え”え”!!」
「新八ィィィィ! てめー、何でそんな所にいんだァァァ!!」
阿音が必死になってカバーに走るがどうやっても、それは間に合いそうに無い。
それは神楽の蹴りによってなんとか地面につくことなく次へとつなぐ事が出来た。
はホッとしながら、そのボールの軌道の邪魔にならないようにと後の方にいようと後退りで下がっていたのが悪かった。
下がりすぎたことに気付かず、踏み外してベンチ席へと転げ落ちてしまう。
「アダッ!! イタタタタ・・・・・・え?」
打ったお尻を擦りながら起き上がると、目の前とは言いがたい距離ではあったが、グローブを持って立つ百音の姿。
どうやら神楽によってつなげられた最後の球を取るべき銀時がいない代わりに、それを受け止めるようである。
しかし先ほど新八から投げられたボールを受取れなかった百音の姿から、あまり運動は得意では無さそうであり
遠くで阿音も向かってくる豪速球を受け止める事など出来はしないと言う。
かくなる上はが受取るしかないかと、ボールと百音から視線を外すことなく手探りでグローブを探し始めるの耳には静かに、だが確かに百音の言葉が届いた。
「あの子をあんな化け物にしてしまったのは私達です。
どんな事情があったにせよ、一つの命を捨てるような所業をしてしまったのだから・・・」
の目の前で、百音は怯む事なく立っている。
たとえ無理だといわれてもけして諦める事もなく、ただ逃げる事はもうやめにしようといって。
「あなた達はあの子がどんな姿になろうと、決して手放そうとはしなかった。
神子とか・・・、ペットとかそんなことも関係なしに。ただ一人の家族として、あの子を必死に護ろうとしていた」
飛んでくるボールからも、自分達のした事からも目を逸らさずに。
「今からでは遅いかもしれませんが、私もあの子の家族になりたい。だから、もう逃げない」
全力で受け止めるために、逃げずに。
「全てを、この手で受け止めます」
家族を護る為に。
「百音さん・・・」
「あの子をこの手で・・・受け止め・・・ ぶふォ」
百音の言葉は最後まで紡がれる事はなく、飛んできたボールを顔面で受け止めてしまい、ボールは高く上がってしまった。
ベンチ席から駆け出そうとしたは目の前から走ってくる銀時を視界に入れ、その動きを止める。
逃げる事に限界があった新八は、今にも定春に襲われてしまいそうな状態。
はとっさに掴んだ物を一瞬にして何か理解すると、銀時へと迷わずそれを投げた。
「銀さんッ!!」
投げたバットを受取った銀時は倒れた百音の前で構える。
高く上がり失速したボールはゆっくりと落ちてくる。
「よくやったよ、お前。あとは、俺に任せな」
ボールを見据え、思い切りバットを振りぬいた。
「定春ぅぅぅぅ!! 目を覚ませェェ!!」
「!!」
勢いよく飛んでいったボールを神楽に背を支えられた阿音は、確りとそのグローブに押さえ歪ながらも五芒星を作り出し定春の暴走と覚醒は押さえられた。
気を失っている定春に縋りつき、神楽は泣きながら定春の名を呼ぶ。
も定春の所へと駆けより、土などで少しボサボサになった毛を撫ぜるとそのまま抱きついた。
「良かった・・・定春・・・本当に良かった」
暫くすると定春は目を覚まし、気付いた神楽は先ほど以上に喜んだ。
それに気付いた銀時は阿音達との会話を終わらせてきたのか、いつもと変わらないような気だるげな歩き方できたと思えば
ただいつものように、帰るぞと一言言ってそのまま球場の出口へ向かって歩き出す。
定春の隣に寄り添うようにして歩く神楽と新八。もその横を歩きながら銀時の後を追った。
外へ出ればマスコミや野次馬など、沢山の人垣があったがそれらを一切気にすることもなく悠然と歩いていく。
街中でも近づいてくるものはなくただ皆遠目で見ているだけだった。は定春の横から離れ銀時のところへ駆けよりその手を繋ぐ。
「ねえ銀さん。帰ったら皆でお団子、食べましょうね」
「あー・・・残ってたかな・・・?」
の言葉に銀時が開いた手で後頭部を掻く仕草をすれば、変わらずは笑いながら繋いだ手を少し大きく振って大股で数歩歩く。
銀時はへ視線を向けると視線に気付いたのか、顔を向けた。
満面の笑みを浮かべながら、嬉しそうに更に繋いだ手を半ば振り回すようにして振り出す。
「いだだだっ、ちょ、ちゃん痛い、痛いんですけどコレ」
「ひねた言い方するからですよー」
何がそんなに嬉しいんだか、と銀時が思うほどには嬉しそうな顔をして振る腕を止めた。
「残ってますよ。数が足りなくっても分ければいいんです。だって家族なんですから」
の言葉に神楽たちは笑み、銀時も微かに笑ったがそれに気付かれまいとするかのように
先ほどのお返しだと、がしたように今度は銀時が繋いだ手を振った。
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