前へ進め、お前にはそのがある

>家族 -act02-







定春が巨大化をして数日が経った。
その突然の出来事が原因なのかは判らないが、妙な夢を見る事は無くなり今では普段の元気を取り戻している。
しかし一難去ってまた一難。夢見の悪さの次は定春の謎の巨大化に悩まされている。
今ではポッカリと屋根に穴が開き、先日には突然ニュースのアナウンサーがやってきた覚えがあるが、正直何を言ったのかは覚えていない。
色々と重なりすぎて脳みその記憶容量が一杯一杯なのかもしれないと、は頭を抱え始めていた。
そんな時、バイトが休みの日に朔からに来て欲しいという電話が入り、今は朔の所にいるのだが来て早々
何か悩み事でもあるのかと聞かれて驚く。
顔にどうやら出ていたらしい事に気づき、どんな顔をして街中を歩いてきたのかと思い返しては恥ずかしくなった。
一体何があったのか。突然呼び出してしまったのだから悩みぐらいは聞こうという朔の好意を素直に受取ると
今までに積もりに積もった悩みを話せば穏かな口調で返してくる。


「まあ、そんな事が・・・」

「しかも、銀さんが妙に怪しい犬語翻訳機とか言うのを貰ってきたんですけどね・・・。
 私、それで『握力で全て解決しようしてるおかげで女としての自分も握りつぶしてる』なんて・・・なんて・・・・」

「あらあら」


思い出してもあまりにも悲しい結果だった。
あの万事屋にいるのだから多少は腹黒い所もあるだろうが、あそこまで真っ黒だとは流石にも予想はしていない。
項垂れるの肩に優しく手を置く朔は、宥めるようにその背を撫ぜてくれた。


「・・・まあ、それはともかくとして。食費とかもそうですけど、あの大きさじゃ周りの方へ迷惑が掛かっちゃうし・・・」


これからどうなるのかとはまた溜息をつきながら言えば、朔は一言残して店の奥へと入ってしまった。
時間にして一分も経っていないだろう。すぐに戻ってきた朔の手には紙袋。


「皆さん、お疲れでしょうから。気休めかもしれないけれど、よければこれを食べて」

「え、いいんですか?」

「ええ。だって、お団子は食べてもらうために作るんですもの。
 それに、さんを呼んだのは新作のお団子の試食をしてもらいたかったからなの」


中には朔の作った団子が何種類か入っていた。
疲れてきているであろう万事屋にいる者達の事を考えはそれを受取ると、深く礼を言って万事屋へと帰っていく。
が万事屋を出てくる時、銀時達はお登勢の店へと行くと言っていた事を思い出し、一度階段へと踏み出した足を戻す。
中へと入ればなぜか銀時は項垂れていた。


「どうかしたんですか?」

「・・・まいったなー、オイ。まさか全国ネットでチャック全開してたとはよー」

「え?」


どうやら先日ニュースの直撃インタビューで銀時はとんでもない状態だったらしい。
それが放送され、項垂れているらしいがにはかける言葉が見つからない。
キャサリンが無許可に作ったであろう定春を模した饅頭を食べながら出て行けと言ってくるが
饅頭はともかくとして迷惑をかけているのは確かである。それについて反論も異論もなく、銀時もただここらが潮時だと言う。



「マナーも守れねー奴にペットを飼う資格はねーもんな」

「銀さん」

「デモ捨テルニシテモ、アンナ大キナ犬トナルト大変デスヨ」


「捨てる? バカ言うな」



キャサリンへの反論には銀時へ振り返れば、表情はいつもと変わらない。
だがその目は確かに、真っ直ぐと見据えているようにも見える。



「途中で放り出すくらいなら最初から背負いこんじゃいねーさ。
 どっか広いトコにでも引っ越すか」



「銀さん・・・・・・あの、私、神楽ちゃんの所行ってきます。
 あ、これ、朔さんから新作のお団子。試食らしいんで、後で味の感想聞かせて下さいね!」

「おい、・・・」



呼び止めようとしている銀時の言葉を聞かず、はそのまま店を出て階段を上った。
屋根へと梯子をかけ、足を滑らせないよう慎重に登ればそこには定春の頭の上で傘を差す神楽と定春。
神楽が定春へ何かを言っているようだが、足元へと意識を集中しているための中では言葉として理解されない。
やっとの事で定春の所へと行けば神楽がに気付く。



・・・」

「二人分なら、少しは違うでしょ?」

「・・・うん」



も神楽と同じように定春の頭の上に乗り傘を差せば、少しの間だけ無言が続く。
雨音や傘や屋根に当たり跳ねる水音だけが響く中、何かが風を切る鋭い音が聞こえた。
それが何か理解する前に次に聞こえたのは硬いもの同士がぶつかるような音。



「キャイン!!」

「定春!!」

「石!? どこから・・・っ!」



風を切る音は投げられた石。鈍い音はそれが定春の額にぶつかった音だった。
突然の事に驚き、神楽とは定春の上から降りれば目の前の道路から次々に投げられる石と罵声。
定春を化け物と蔑み、出て行けと叫ぶような声。
石から守る為に神楽は定春の前で傘を広げて定春は化け物などでは無いと声を張り上げる。
神楽の隣に立ち、も同じように傘を広げるが降り注ぐ石は勢いを増していくばかりだった。



「定春、普通よりデカイけど。でも・・・。その分優しさもデカイネ!!
 定春のことなんにもしらないくせに! 勝ってな事言うな!!」

「うるせェ、妖魔の使いが! お前も消えろ!!」



投げられた石が神楽の左目蓋を直撃し、切れたそこからは血が流れ出す。
倒れた神楽へと駆け寄ると助け起こし石を投げつけていた者達を睨みつける。
神楽が、定春が一体何をしたと言うのか。
沸々と湧き上がる怒りを言葉にしようとしただったが、後ろでメキメキと音が響き屋根が半壊し
埃や煙が上がり周りを取り囲むようにして立っていた人々がうろたえ始めた。
神楽とが振り返れば、更に体を大きくし、まるで狛犬のような顔に変貌した定春が屋根の上に立っている。
低く、鋭く威嚇するように唸り出し、体勢を低くしていく定春を見ての頬に冷や汗が一筋。




「ま、まさか・・・・・・。ちょ、ちょっと待って! さだは 
「わおおぉぉぉぉん」




の呼びかけも定春とは思えない響くような遠吠えによって掻き消されてしまった。
定春が屋根から飛び出す瞬間、咄嗟の事で思考など無い行動。
ただ目の前を流れていく白い毛並みへと手を伸ばし、触れたものを掴んだ。
屋根から下りれば止まる事はなく走り出す定春。動きに合わせて揺れる尻尾にしがみ付く神楽とはただ只管止まれと言うが
定春が止まる気配はなく、一瞬後ろを振り返ったが見たのはお登勢の店から出てきた銀時と新八の姿だった。





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