前へ進め、お前にはそのがある

>変化と不変 -act05-







現れた敵の忍は五人。
まるで最初から計算されていたかのように、上がった鉄格子により銀時達は二対四で分断されてしまった。
背後では銀時と全蔵が激しく武器を交わしているがその会話のテンションの落差は激しい。
さっちゃんと薫に至っては、最初の言葉で既に女の醜い争いが始まっている。
だがそんな事を気にしている間もなく、達の前に立つ三人をどうにかしなければならない。


「フン、あの桂がこんな優男とはな。おまけに他三人はガキ」


勝率がどうのと後ろで言っているが、わざわざそんな勝率をはじき出さなくともまともにやりあって勝てる相手では無い。
だからかどうかはわからないが、そっと桂からカレーの皿を渡された。一体どうするのかと思っていたが、突然の神楽の言葉で理解する。


「カレー用意!」

「カレー用意!? ないない! 当たり前のようにいわないで! もってるワケないでしょ、そんなモン! ってさん持ってるし!?」

「いや、これは今渡されて・・・・」


一応言われて構えてみたはいいが、しかしパンダ手袋ではどうにも安定が取り辛い。
一度置こうかと思っていたがそんな暇もなく、そのカレーを持って挑みかからなければならなくなった。
だが相手に投げつける前に、そのカレーは手から皿ごと滑り落ちてしまう。
しかも相手の放ったカレーを四人は仲良く頭から被る羽目になり、熱いとのた打ち回る。
出来立てホヤホヤな湯気を立たせるカレーの熱さを身をもって知った達だったが、敵も同じ目にあっているはずと思い見れば
振り返った相手の顔には不敵な笑顔と、物を噛み砕くように動く口。



「食ってるぅぅ!?」

「あのお皿の上に乗ってたカレー全部! どんな早食い!?」

さん、驚く所が違います! でも、なんてこった。僕らの技は完全に見切られていたってのか・・・」



悔しそうに顔を歪める新八だったが、の横で桂は不敵に笑う。
しかしカレーを頭に被った状態でかっこつけられても、如何せんかっこよさも半分である。
その一見、勝ちを取ったような顔の桂に何をしたのかと思っていたが、突然相手が皆、腹を抱えてうずくまってしまった。
どうやらカレーの中に下剤を入れていたらしい。それもかなり即効性で強力な物を。
だがそのおかげで、神楽も大変な状況に陥ってしまった。



「てめっ、何てことしてくれんだ。小腹がすいて、ちょっとつまんじまったじゃねーか」

「お前も食ってたんかィィ!!」



桂の仕掛けた罠にはまったものの、それだけでは戦意を失う要因にはならず、なおも挑んでこようと立ち上がり
分身の術を使ったが本体はすぐに見破られ新八の蹴りによって沈められた。
次には己の肉体に直接変化をもたらす術だったらしいが、それも裏目に出てしまう。
立て続けに二人を倒した新八に、とうとう最後に残った一人は先ほどから勝率がどうのと言っていたが今もその計算をはじき出しつつ
逃げようとするが、しかし大人しくここで逃がすわけもなく桂と新八の踵落しによって倒されてしまった。

自分達の敵は倒したが銀時たちは一体どうしているのかと、そちらへ目をやればの眉間に皺が寄る。
銀時と全蔵は何か妙な動きをしながら口論をしているが、それは今の状況にまったく関係なくまるで中学生の昼休みのような状態だった。
の気持ちをそのまま言葉にしてツッこむ奉行だが、注意しながらも二人のどうしようもない質問に答える辺り同類なのだろうと内心思う。
さっちゃんと薫は最初からなにやら陰湿な空気を感じさせていたので、ワザとと思えるほどにそちらに関心を持たないいようにしてたのだが
隔たりなど鉄の格子一つである。話は筒抜けだった。
なにやらテンションがいつも以上に低い銀時だったがそれでも新八は早く片を付けなければと声を上げるが、しかしどうにも銀時はやる気が無いらしい。
そうこうしている内にさっちゃんと薫の口喧嘩はやがて取っ組み合いへと変化していった。

今ならば奉行の隙をついてエリザベスを助けられるかもしれないと考えたは、少しずつ奉行が高みの見物をしている近くまで行く。
しかし本物の忍者でもない限り目の前の壁はよじ登る事などできはしないだろう。
方法を考えているだったが、その耳に届いた爆発音に似た音。振り返れば全蔵の姿がなく、下からクナイが飛び出す。
不意に鼻につく甘い香りが漂った。見れば薫が花弁を撒き散らしている。


「忍法『呪縛旋花』! 私の毒バラの香りをかいだ者は身動き一つとれなくなるわよん!」

「銀さん!」

「チッ」


微かにだが流れてきた香りをかいでしまったも、少しではあったが全身に痺れを感じた。
元より鉄格子が助けを阻んでしまっている事が歯痒く感じていたが、さっちゃんの九字が聞こえた次には、花の香りに混じり独特の臭みのある匂いが漂う。
九字を唱えながら納豆を練るさっちゃんは、その匂いによって花の香りを掻き消していた。
箸を投げ捨て、手に粘つく納豆を絡ませ全てを銀時目掛け投げつけ、納豆塗れとなった顔のままにやりと笑う。
床下より背後を取った全蔵だったが、銀時の反撃によって敗北し、次いで薫もさっちゃんの最後の一手によって納豆塗れになって倒れてしまう。
あまりの惨状に、は正直素直に勝利を喜べなかった。

達を閉じ込め、二分にしていた鉄格子は神楽によって破壊され、神楽は厠へと駆け込んでいく。
間に合えばいいがと心配する新八の隣で、桂は絶叫した。その原因は神楽が、奉行に向かい投げた鉄格子によって、串刺しとなったエリザベスの姿。
一瞬それを見て驚き桂と同じ様に慌てそうになったが、銀時の冷静な一言で我に返る。


「なァ、ヅラ。アレおかしくねーか、中から綿みてーのが」

「あっ、ホントだ。それに血とか何も出てませんよ」

「あり?」


いまいち状況が飲み込めない銀時たちに聞こえた全蔵の言葉。
それはあれが、エリザベスの人形であるという事実。桂を捕まえる為に奉行がわざわざ作らせたのだと言う事だった。


「お前ら、だまされてたんだよ。ププッ 
ブフッ!」


最後の笑いに苛立ったは、先ほど落してしまったカレーをかき集めそれを全蔵の顔に皿を押し付けるようにしてぶつけた。
そして、今回のこの騒動は全て桂の早とちりと、喧嘩をした事を忘れていた事に原因があった事実に全員怒りを押さえることなく
桂へと怒りの制裁をあたえる事となった。








後日、はさっちゃんに会いにとあるカフェにきていた。


「いらっしゃいませニャン」

「今度は猫耳カフェですか・・・」


まったく変化の見えない無表情な接客マニュアル通りの言葉に、は引きつり笑顔をするしかなかった。
席に着いた所でさっちゃんへとが差し出したのは普通の茶封筒。受け取り中をみれば、数枚のお札が入っている。
それは銀時によって均等に分けられた先日の仕事の報酬だということなのだが
正しく言い直せば桂を袋叩きにした後に、その財布から抜き取った言わば追いはぎのおこぼれのようなもの。
しかしあそこまで苦労して、カレー塗れになったりなどしたというのに最終的な結果が、勘違いだったという事実に
普段なら止めるであろう、銀時の行動を止める事は無かった。

さっちゃんは仕事は仕事と割り切っている性格の為、特に何を言うでもなくそれを懐へと入れた。
今はカフェの店員として仕事中のさっちゃんを、これ以上引き止めておくわけにもいかないとはお茶を頼んだ。
やはり語尾にマニュアルなのだろう、「にゃん」をつけつつも接客をするさっちゃんは妙に不気味である。
暫くしてお茶を持ってきたさっちゃんは、動きは普通の店員としてのものだがその間、へ向けられた言葉はまったく違うものだった。


ちゃん。たとえあなたと銀さんの関係が変わったとしても、私は変わらないわよ。私とあなたはライバル」

「さっちゃんさん・・・」


お茶を置きながら、視線をへ向けたがその表情はどこか誇らしげに、しかし不敵な笑顔。


「恋をするのは自由だもの。せいぜい私に取られないように、気をつけることね」


さっちゃんの言葉に数回瞬きをすると、は同じように笑みを浮かべた。


「望むところです」



の言葉を聞くとさっちゃんは一瞬笑みを深くしてすぐに「ごゆっくりどうぞ」と言って去っていった。





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