前へ進め、お前にはその足がある
>変化と不変 -act03-
一通り着替え境内のど真ん中でさっちゃんが忍の極意について語っている。
しかしその話の内容の半分もは頭に入っていない。
目立つようなことは厳禁だと言ったさっちゃんだったが、新八がすかさずツッコミを入れた。
それも当然だろう。明らかに忍にあるまじきカラーリングの衣装を約一名を除き、着せられているのだから。
「どこが隠密!? カラフルすぎるだろ、コレ! ロクレンジャーか!?」
「いいえ、ゴレンジャーよ。だって一人はマスコットだもの。欠かせないでしょう、マスコット」
「それって明らかに私ですよね!? 否定できる要素がどこにも無いぐらい立派なマスコットだよねこれ!?」
さっちゃんの言葉に反応したのは。
その耳には黒い丸い耳のついたカチューシャ。手には肘まで嵌めるパンダの手袋。足は中がブーツ式になっているが結局外見はパンダの足。
衣装を渡す際、さっちゃんは中身が見えないように有無を言わさずにへ渡してきたが、まさかマスコットにされるとは思っていなかった。
忍装束5人組はまだいいとして、は自分の格好を見て明らかに一人浮いていると項垂れる。
「、気にすんな。俺なんかアレだよ。カレー食う時気を使うぞこの真っ白い格好。それに比べたらオメーのほうがマシだって」
「アンタはいい加減カレーから離れろよ!」
軽く肩を叩きながら慰めになっているようでなっていない銀時の言葉に、とりあえずは頷いておく。
着替えも終わり、時間もあまり無いと言うことでさっちゃんは早速始めると言って何処かへと向かいついていった先は商店街。
周りの視線が少しだけ気にはなっていたが何も見なかったことにしては何とか自己を保つ事にした。
一体ここで何をするのかと、疑問の顔を浮かばせていれば数多くの忍者はここで修行をつんだと語る。
「さっちゃんよォ、で・・・具体的に何をやるわけ?」
「アレを見て」
銀時の問いに指し示した先には一軒の本屋。何の変哲も無い本屋であるが一体そこで何をするのか。
隣で聞こえた銀時の万引きをするのかという、どうしようもない答えは、さっちゃんの容赦ない手刀で却下された。
「いい? これから店員にも客にも気づかれることなく、好みのエロ本を買ってきなさい」
「はァァ!? なんですかそれェェ!? そんなん、忍者と関係ねーじゃん!!」
予想外過ぎる修行内容に口元を引きつらせながら呆然としていたが、さっちゃんはさも当たり前のような顔をして正式な試験内容だと言ってのける。
新八のツッコミに対しても平然とした態度で歩き出し、説明をしながら手本とばかりにいとも簡単にこなしていった。
流石、幕府に今でも仕事を依頼される忍だと感心する点もあるが、その手に持たれている本が尊敬の念を半減させてしまっている。
銀時達もできるわけが無いといった態度だが一人、桂だけはやる気があるらしく片手にカレーを持ったまま歩き出した。
カレーを置いていけという銀時と、離すなと言う神楽。桂は迷う事なく神楽の言葉に従う姿には呆然とするばかり。
「・・・神楽ちゃんって、ある意味最強かもしれない・・・」
「まあ、相手はあの桂さんですし」
ただ事の成り行きを今は見守る事しかできないと新八は、迷う事なく歩いていく桂の後姿をただ見つめているしかできなかった。
本の前に立った瞬間、まるで前からすでに取る本を決めていたかのような素早さで一冊抜き取る。
あまりの素早さに驚いたが、桂の活躍もそこまでだった。
カレーを零してしまい、何故か血を軽く吐き出して倒れてしまう。零れたカレーはそのままに、さっちゃんは襟元を掴んで引き摺り戻してきた。
次に意気込んで挑戦したのは神楽だったが、その結果も無惨なものとなってしまう。
「しょーがねーな、俺がやるしかねーか。こう見えてもガキの頃は忍者ゴッコとかやってたんだぜ」
「頑張って銀サン」
言いながら本屋へ向かったが本を手に取るどころか、姿を消してしまう。
一体どこへいったのかと暫く辺りの様子を窺っていれば、ガタガタと音を立てて現れたのはゴミバケツ。
銀時が中に入っている事は明らかである。そのやり方を汚いと思う新八たちだったがさっちゃんの評価は甘い。
「さすが銀サン。発想が違うわ」
「「なんか甘くねェ!? ひいきだよ、ひいき!」」
「何? 文句あんのダブルカレー」
そこから始まったさっちゃんと桂の口喧嘩だったが、神楽それを制止する。
そもそも喧嘩をしている場合でもないと思うのだが、どう止めようか迷っていたの視界にとんでもないものが映る。
ゴミ収集車がきたと思えば、ゴミバケツをまるまる回収してしまった。押しつぶされる嫌な音が響き渡り、暫しの沈黙が流れる。
「・・・・・・ねェ・・・、ヤバいんじゃないスか、アレ」
「き・・・気のせいでしょ。ホントは誰も入ってなかったんじゃない?」
「そうだよね、あんなん入ってたら死んじゃうもんね」
「え、そう・・・なんですか? じゃあ銀さんは一体どこへ?」
「ヤツはアレだ・・・自然へ帰ったのだ」
全てを無かった事にしようとしている皆の動きに途惑いながらも、も半ば流され気味でそれ以上何も言えなかった。
現実逃避も兼ねて回ってきた新八の番。
しかしその動きは至極普通で、誰一人、元より新八の事など気にかけていない様子に皆呆れがちだった。
そこで現れたのはボロボロな姿の銀時。その格好を見て皆口にはしないものの、先ほどのゴミバケツの中に入っていたのだなと思う。
本人はチンピラに絡まれたなどといっているが、誰一人としてそれを肯定も否定もせず、なんともいえない視線のみを投げかけた。
「じゃ、じゃあ、最後はアナタよ。ちゃん」
「え・・・やっぱり私もですか?」
「当たり前でしょう」
さっさと行って来いという視線を向けられ、それ以上何も言えなくなってしまったは渋々本屋へ向かって歩き出した。
しかし正直獲物に問題がある。好みのエロ本といわれても、そんなものあるわけが無い。
たとえ、万が一にでもあったとしても銀時の目の前で手にするという事が恥ずかしくてたまらない。
一体どうしたらと考えながらも、本屋への距離などさほどあるわけもなく到達してしまう。暫しラックの中に並ぶ本を眺めていただったが
一つ、の目を引く本があった。それに迷わず手を伸ばし、本を掴もうとしたのだが本を掴む前にその手は止まり、意気消沈の様子で銀時達の元へと戻ってきた。
どうかしたのかと問われたは、呟くようにして理由を話す。
「この手じゃ・・・本が掴めません」
手に嵌められたパンダの手袋。まさにパンダの手を模したその形状では、本を掴む事などできはしない。
そこは盲点だったと、さっちゃんはそれを外して再挑戦を許してくれたがにしてみれば不合格で良いから終わりにして欲しいのが今の心境。
結局それは叶わず手袋を銀時に預けて再び本屋へと向かって歩いていくこととなった。
そして今度は、先ほど手にしようとしていた本を迷う事なく掴みそっとレジにお金を置いて出て来た。
「フン、なかなかやるわね。で、どんな本を買ってきたの?」
「あ、これです」
「・・・百円でできるおかず? ・・・お前・・・」
「だって、経済的に考えれば素敵だと思いません!? 百円でできちゃうんですよ!」
「、ゴメン・・・銀さんもうちょっと努力するから・・・」
目尻を押さえつつの肩に手を置き言う銀時だったが、それでも百円で賄える晩御飯のおかずについて熱く語り始めるは止まらない。
それ以上魅力的なものなどありはしないと、力説するがもちろんさっちゃんから貰った評価は不合格。
だがは不合格でも何でも、今後の万事屋の経済状況を左右する本が手に入った事の方が重要で、内心満面の笑みだった事は誰も知らない。
そしてその六人を影で見つめている人物が居た事も誰一人として知る者は居なかった。
夜も更けた頃、空に浮かぶのは満月。
それを背にして奉行所の屋根に立つ六つの影。
「忍者戦隊ゴニンジャー、マスコット熊猫。参る」
かっこつけながらも、内心腑に落ちないだった。
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