前へ進め、お前にはその足がある
>変化と不変 -act02-
朝早く、突然の電話で呼び出された銀時達はファミレスに着ている。
目の前には桂が居るが、そちらより皆の視線はただ一点に集められていた。
「どうした? 食べんのか。金の事は気にするな。今日は俺がもつ」
「・・・・・・・・・手ェつけるんじゃねーぞ、てめーら。この顔は何か企んでる顔だ。またロクでもねー話もちかけにきた顔だよ、こりゃ」
「邪推はよすがいい」
テーブルの上に並べられた食事は、最近切りつめ生活を強いられていた銀時達にとって、ある意味目に毒な物だった。
隣でも生唾を飲み込みながらただ只管我慢をしている。
上手い話には裏があるという。ここで下手に手をつけては一体また、どんな事に巻き込まれるかわかったものでは無い。
そう思いつつ新八の言葉に耳を傾け、何とか鼻腔を擽る食欲をそそる香りや鉄板の上でいまだ弾ける肉の焼ける音などから目を逸らしていたのだが
の努力空しく、隣では早々に誘惑に負けた二人が目の前の食べ物に手をつけてしまっていた。
「ホント甘ェーよ。特にこのチョコ、とろけそーだよ」
「すいませーん!! おかわりいいですか!?」
ちゃっかりとおかわりを要求する神楽は既に我慢などかき込んだご飯事胃のブラックホールの中だろう。
銀時に至っては、最近甘味を禁止していたせいもある。二人の姿には溜息を零した。
「・・・まあ・・・予想はしてましたけどね・・・」
桂に言われるままついていった先は奉行所だった。松の木に登り、桂は今回の仕事の内容を話す。
どうやらエリザベスが捕まってしまい、それをなんとしても救出したいらしいのだが傍らで聞く銀時は
しっかりあの後パフェを三杯お代わりしたにもかかわらず、やる気は無いらしい。
甘味所のフリーパスをちらつかせるが、天秤にかけても大きな偏りが生じる取引だ。
ベンチに座りながらは道行く人の視線に気付かぬ振りをしつつ、二人の会話を聞いていた。
「新八君・・・そろそろ切りつめ生活は終りにしようと思うんだよね。色々我慢できなくなるから」
「そうですね。それが良いと思います」
「じゃあ、酢昆布買ってもいいアルカ?」
「うん、いいよ。よく我慢したね、神楽ちゃん」
こちらから頼んだわけでは無いが、神楽は切りつめ生活を始めてから酢昆布を買わなくなった。
理由は聞いても「なんとなく」としか言わなかったが、神楽なりの努力だろう。は神楽の頭を撫でながら誉めれば、少し照れくさそうな顔をする。
銀時達のほうは話しが一区切りいたのか、銀時が帰るぞといいながら降りてきた。
桂はいいのかと聞こうとしたがそれより先に桂の静止の声が響く。だがそれを聞く気は無いのか、三人の足はまったく止まらない。
はどうしたらいいのかと一瞬、その足を止めたが銀時に手を引っ張られそれ以上、どうする事も出来なかった。
だがそれで振り切れるわけもなく、纏わりつく桂に痺れを切らし仕方がないと結局は依頼を受ける事になってしまった。
なんだかんだと文句を言いながら歩く銀時と、それに対し変化球な返答をする桂。
その二人の後ろをなにも言わず、やや距離を置きながら歩く三人はこれからどこに行くのかなどまったく聞いては居なかった。
「ようはアレだろ? 上手く忍び込んで助けられればいいんだろーが」
銀時の足が止まった店は「くノ一カフェ」という、一種のメイドカフェ的な場所らしい。
一体ここで何をするというのか、皆目検討のつかない達はやはり説明を一切されないまま中に入ることになる。
開いた席に通され座った所で、銀時は通路を歩く一人の店員を呼び止めた。何気なくが顔を上げればその人物と目が合う。
「あ・・・さっちゃんさん」
「あら、銀さん」
銀時しか目に入っていないのか、の言葉には返答が無かった。
しかしさきほど目があった次に、鋭い視線を一瞬感じたが今はそんな素振りは一切無い。
気のせいだったのだろうと思ったの横では、銀時が奉行所に忍び込む事を説明していた。
突然忍者にしてくれと頼む銀時にさっちゃんは一言で切り捨てるが、あまり人の話を聞いていない銀時は見当違いな事を桂に教える。
忍者にする以前に、幕府相手に下手な事はできないとさっちゃんは協力する気は無いらしい。
仕事の依頼が今でも来るのだといいながら携帯を取り出したが、銀時が容赦なく木刀で木っ端微塵にしてしまった。
「てめっ、なめてんのか。仕事中に客の前で携帯いじくってんじゃねーよ」
「・・・・・・フン、厳しいのね」
「何で赤くなるの? 何で赤くなるの?」
「と言うかこんな狭い所で木刀振り回さないで下さいよ、銀さん・・・」
当たったらどうするんだと言うだったが、そんなの頭を軽く叩きながらそんなへまはしないと銀時は平然とした態度をとる。
それに抗議しようとしたが、先ほどの視線をまたさっちゃんのほうから感じそちらへ向くがやはり、視線は外されている。
桂が幕府との繋がりがなくなったのならばと協力を呼びかけようとしたが、さっちゃんは今の仕事が忙しいからと断り別の客の元へと飛んでいってしまった。
通路に顔を出して飛んでいったさっちゃんのほうを見ていたが銀時へ振り返る。
「・・・で、どうするんですか銀さ・・・銀さん!? それ、いつのまに!?」
赤いフレームのメガネ。どう見てもさっちゃんのめがねであるそれを、銀時がかけている。
先ほど別の客の方へと飛んでいく瞬間に掠め取ったのだろう。そのあまりの神業に唖然とするしかなかった。
一方メガネを取られたさっちゃんは、客に対してサービスという名の暴挙をしでかしている。
店長に明日からこなくていいと言われながら、客の胸倉をつかんで揺らしていた。
「おーい、こっちこっち」
「!」
「眼鏡忘れてったぜ」
「いや、忘れたんじゃなくて掠め取ったんじゃ・・・」
「なに言ってんの。忘れ物をかけただけだぜ俺は」
は口元を引きつらせながら言うが飽くまで忘れものだと言い張る銀時は、桂と共に席を立つ。
二人して店から出て行く後姿を呆然と見つめる横で、新八はさっちゃんへと謝罪をするがさっちゃんはどこか恍惚とした表情をしていた。
一体どうしたのだろうかと思ったがその理由はすぐに判明する事となる。
結局店もクビになったさっちゃんは銀時に言われるまま、忍としての特訓を桂に施すことになったが依頼を受けた以上、銀時達も一緒である。
暫く時間をくれと言われた後、集合したのは神社の境内だった。
そこで手渡された何かの衣装。忍としての衣装なのかと思いそれぞれがそれを境内の物陰で身につけるととなったが
一人、だけは暫しその広げられた衣装を見つめ固まっていた。
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