前へ進め、お前にはその足がある
>温もり -act10-
エイリアンが鎮圧されたあと、真選組は後始末に追われ連絡を受けた救護班が駆けつけた頃、漸く先ほどの騒ぎが落ち着き始めた。
最初に星海坊主が逃がしていた事もあってか、手当てを受ける人たちはほとんどが軽傷ですんでいた。
神楽はすぐに星海坊主が救護班の元へと連れて行ったらしく、姿が見えない。
は横目に何処かに行こうとする銀時の姿を見て、呼び止めようとしたが一瞬足に痛みが走りうずくまってしまう。
「さん?」
神楽を飲み込んだ核へと飛び下りた時に足を捻った事は自分で気付いていた。
だがそれを気にしていられるような状況ではなかったし、何よりも痛みを感じていなかった事もあり今まで忘れていた。
やっと落ち着いた所で全身の緊張が解けたせいもあるだろう。ここに来て痛みがぶり返してきたらしい。
うずくまったに気付いた新八が声をかけるがすぐに立ち上がり大丈夫と言う。
そんなの前に立った銀時が突然抱きかかえて歩き出した。
「え! ぎ、銀さん!?」
「お前バカだろ、足捻って何が大丈夫だ。無茶すんじゃねーよ」
「で、でもこの体勢は・・・俗に言う姫抱きでは・・・・」
「何? なんか文句があるんですかー?」
「・・・・・恥ずかしいじゃないですか・・・・・」
顔を手で覆い隠して俯くを一度視線を向け見ながら、銀時は読めない表情をしている。
そのまま救護班のいる救護テントへと連れて行き足を捻っていると伝え、銀時はそのまま来た道を戻っていった。
銀時も腕を怪我していたが、がその事で銀時を呼び止めようとした時には既にその姿はなく「してやられた」と顔を顰めた。
捻ったといってもそう酷くも無かったようで、軽い手当てを受けた程度ですみすぐに銀時を探しに行こうと立ち上がろうとしたとき
の視界に入ったのはテントの奥にまだ眠ったままの神楽の姿。
「あ・・・・あの、すいません。あの子は・・・」
「ああ、先ほど手当てが終わって眠っているんですよ」
「・・・・・神楽ちゃん・・・・」
軽傷の者がほとんどとは言っても、怪我人の人数は多いようで救護係の者はそのまま他の怪我人の元へと行ってしまった。
はゆっくりと神楽が眠るベッドの脇に立つと、その頭を優しく撫ぜる。
ふと、怪我をしたであろうわき腹に視線を向ければ服は汚れたままだったが、破れた部分から見えた肌は綺麗に包帯を巻かれていた。
ハタ皇子達から神楽が助けてくれたという事は既に聞いている。その事を思い出し、は小さく微笑んだ。
「ねえ、神楽ちゃん。私は感謝してるよ。言葉に出来ないくらいに。
最初に声を掛けてくれた事に、本当に感謝してる」
ここに来てから沢山、この手に掴みきれないほどの大切なものが胸に溢れている。
たくさん大切な人と出会えた。
たくさん思い出ができた。
居場所ができた。
恋をすることができた。
最初に声を掛けてくれたのが、その全てのきっかけ。
「たとえそれが気まぐれでも偶然でも、構わない。私は、凄く嬉しかった」
本当ならちゃんと起きている時に伝えたいと思っていたが、しかし今を逃せばもう伝えられないのではと感じたは、静かに言葉を続ける。
「ありがとう」
夕日が照らす街並みを眺めながらはゆっくりとした足取りで歩く。
空の青を焼くような朱色。汚れた自分の姿。その二つがに一つの思い出を脳裏に蘇らせる。
まだ両親が居た頃。そして親戚に引き取られた後。の周りの環境が変わっていく中、一つだけ変わらずにいたものがあった。
それはたった一人の友人の存在。幼い頃から夕日が沈む前まで一緒に泥だらけになって遊びまわった。
両親が居なくなり親戚に預けられた後、対応に途惑う大人たちに気を使う。
取り囲む環境がどんなに変わろうとも、その友人だけは変わらずに接してくれた。
気にしないという考えを、気にするなと自分に言い聞かせる言葉に変え。
目の前の事から目を逸らして、痛む心からも目を逸らしていた。
それでもいつか膝折れる時もある。その時の、唯一の逃げ道だったのがその友人だった。
変わらず接する友人はに怒り、共に泣き、笑い、喜ぶ。
取り繕うことなく本気でぶつかってくる友人の存在はとても大切で、何よりの心の支えだったが
それでもはその時の自分の状況から、一歩前に踏み出すことができずにいる事を申し訳なくも思っていた。
踏み出した先がどうなるのか。それが怖くてできなかった。
まるで堰を切ったかのように溢れ出す感情をそのまま言葉にして、ぶつけた事があるが友人はの背中を強く叩き、笑い飛ばした。
は一瞬、背中に痛みが走ったような錯覚を覚えるが、その時の友人の言葉と優しさを思い出して思わず微笑む。
足を止めて歩きつかれたと道の脇に座り、空を見上げた。
半分ほど暗くなった空には星が瞬き始める。
「おい、オメーはこんな所で何してんだ?」
「銀さん・・・」
「ったく、足捻ってんだろーが。何こんな所まで歩いてきてるんですかー?」
呆れた表情で歩み寄ってくる銀時を座ったまま見つめていただが、先ほどの事を思い出しまた顔に熱が集まるのを感じた。
案の定、先ほどと同じ様に抱きかかえられて必死に抵抗するが聞く耳をもたないと言った様子の銀時に
やがて諦めたは溜息を零して極力意識しないように別の事を考えようと必死に頭を働かせる。
「そ、そうだ! 銀さん、腕の怪我は・・!?」
「さっきが居ると思って、救護テントまで迎えに行った時についでにな」
「あ・・・・・そうですか・・・・と言うか腕怪我してるなら尚更、これは怪我に良くないんじゃ・・・」
を抱える銀時の両腕は使われている。
どちらにも体重が掛かっている事を考えると、手当てしたばかりの腕には優しくは無いだろうと思って言ってみれば
銀時は特に表情に変化は見られず、歩く足も止まる事は無い。
「ウダウダ言ってんじゃねーよ。それとも何? お前は銀さんと一緒にいたくないの?」
「別にそんな事言ってないじゃないですか。ただ私は怪我のほうが心配で・・・」
「俺の怪我なんか、唾つけときゃ治るって。それよりオメーの怪我のほうが俺は心配です」
だから大人しくしておけと言われてしまえば、それ以上は何も言えなくなってしまう。
俯きなるべく銀時の事を意識しないで置こうと目を瞑っていたが、途端に不規則な揺れに不安を感じて無意識に銀時の着物を掴んだ。
の様子を盗み見るようにして確認した銀時は溜息をついた。
「あんまり心配かけんじゃねーよ」
呟かれたその言葉は、の耳には届いてはいなかった。
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