前へ進め、お前にはそのがある

>温もり -act09-







「貴様らァァ、このオッサンが目に入らねーかァァ!!」

「今撃ったらもれなくこの央国星皇子、ハタ様も爆死するぞォ!! もれなく国際問題だぞォ!!」


と共に降りた新八たちは迷うことなく、ハタ皇子を盾にする事にした。
撃てるものなら撃ってみろ、と言った様子で声を張り上げ銀時が告げた五分。その時間だけでもいいから攻撃はしてくるなと内心祈る。
そんな達の姿を見て当然驚いているのは星海坊主。
一応覚悟はしてきたのだろうが、それでも撃ってこないだろうかと不安げな様子のジイとハタ皇子だったがそれはあえて無視をした。


「・・・ったく、あの天然パーが。来るなら来るって最初から言えってんだよ。
 どうせ、来ると思ってたけどね。天邪鬼が」

「まあ、銀さんはそう言う人だからね」


星海坊主はいまだ達を見て黙り立ち尽くしている。その表情は驚いた顔だったが実際、何を考え何を思っているのかはわからない。
は背を見せたまま星海坊主へと言葉を向けた。



「星海坊主さん。あなたは、人は簡単に変われないと言いました。
 確かにそうです、人は簡単に変われません。」


銀時と神楽を信じて目の前に浮かぶ戦艦を睨みつけて続ける。


「でも、変わる事を諦めたら、変われるものも変われなくなると思うんです」


「・・・オメーは・・・」


たとえその考えを甘い考えだと切り捨てられたとしても、それがここで得たの答え。
は別にその答えを否定するならしてもいいと思っていた。自分の考えを押し付けるようなマネもする気はない。
ただ、何もかも諦めて立ち止まっている事だけはしてほしくは無い。たった一歩でもいいから、前へ進んでみれば違う世界が見えてくる。
神楽という大切な家族がいるならなおの事、諦めてほしくないと願った。

それをただ、伝えたかった。はたして、の思いが伝わったかどうか、それはわからない。


二度、三度と瞬きをしたは、初めて戦艦の異変に気付く。
砲台にエネルギーが集まっているような様子が、その視界に飛び込んできた。


「・・・アレ、なんか・・・撃とうとしてない?」

「ウソ・・・、ウソだろオイ。皇子だよ。仮にも皇子だよ」


「ヤバイってコレ! 早く逃げ・・・」


「それ、私の酢昆布ネェェェ!!」

「ぐおぶ!」




新八の言葉を遮って核から飛び出してきた神楽。
ちょうど真下から出てきたために皆倒れてしまったが、それよりも神楽と銀時が無事だった事を内心喜んだ。
銀時は立ち上がり、星海坊主と共に核へと攻撃をしかけた。



「いくぜェェェ!! お父さん!」

「誰がお父さんだァァァァ!!」



同時に攻撃を仕掛け揺れる核。
振り落とされないように必死にしがみついたは横をコロコロと転がって行く物体が一瞬、視界に入った。
隣で眼鏡を探す新八を見て、その物体がなんであったかすぐに理解したが拾う事はできない。既にそれは下へと落ちていってしまった。
遠くでは攻撃しようとしながらも逃げろといっている無責任な声が聞こえる。


「はァ!? 逃げろったってどこに逃げろっての!?」

「下は無理だ。上だ、上!!」

「酢昆布返せェェ!!」
「ぐぉぶ!」

「銀さん!! って、神楽ちゃん何やってんのー!?」


どういった目覚ましかたをしたのかはわからないが、先ほどから酢昆布を返せといいながら攻撃をしてくる神楽。
前門の虎、後門の狼といった状況とはこの事かと思いながら何とか神楽を止めようと駆け寄る。
銀時のマウントポジションで殴りつづけている神楽を押さえようとするが、より先に星海坊主が止めに入った。
出血も止まっていないというのに暴れつづける神楽。しかし一瞬、神楽の動きが大人しくなったと思えば、星海坊主の悲痛な叫びが響き渡る。



「ぎゃああああああ、何すんのォォォォ!! お父さんの大事な昆布がァァ!!」

「おいィィ、何食ってんだ! 出せェェ、ハゲるぞ! そんなもん食ったらハゲるぞ!」

「神楽ちゃん吐き出してェェ!」



もさもさと引きちぎった星海坊主の頭頂部の残り少ない髪を、酢昆布と思い込み食べてしまっている神楽。
それを必死に止めようとしていたが、それよりも注意すべき事があった事を一瞬でも忘れていた。
激しい音を立てながらたち目掛け発射された攻撃。それはもう、目の前まで迫っていた。
逃げる間もない。もうダメだと考えるより先に感覚で捉えた時、突然目の前に一つの陰ができた。
同時に何かに引っ張られ抱えられる感覚。それが何かと確認する暇などない。
瞬間、周りを今まで聞いた事の無い音と、感じた事の無い熱が通り過ぎる。その時間は短くも長くも感じ、目も開けていられず強く目蓋を閉じた。
周りの空気の振動と熱が過ぎたのを肌で感じ、はゆっくりと目を開けた。目の前には、ボロボロになった傘をかざし立っている星海坊主の姿。


「ぼっ・・・坊主さん」

「クク・・・、俺も焼きがまわったようだ」

「いや、髪の毛も焼きがまわってるけど」


頭上に聞こえた銀時の声に、やっと自分の状況が飲み込めた。
あの咄嗟の状況で銀時はを護るようにしてその腕に抱きかかえたらしく、の横には意識を失っている神楽の姿。
星海坊主はそのまま倒れてしまった。



「坊主さん!」

「ハゲッ! おい、ハゲ!」

「ハッ・・・、じゃない。坊主さん!!」

「ハゲェェ!! 右側だけハゲェェェェェ!!」






銀時の頑な『ハゲ』呼ばわりが聞こえていたのか。
目を覚ました時の第一声はそれに対する激しい抗議の言葉だった






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