前へ進め、お前にはそのがある

>温もり -act08-







突然の銀時の登場に驚くが、同時に安堵した。
来る気など、無かっただろう。それでも銀時の中の何かが、ここへ来る事を選んだ。それだけで十分だった。
伸ばされた手は神楽には届かず、銀時は定春を踏み台にして何とかエイリアンへとしがみつく。
すぐにそこへ向かおうとするが突然目の前に行く手を遮るようにエイリアンが壁を作る。


「うわっ!!」

「新八君、大丈夫!?」

「は、はいっ! さんは!」

「私は大丈夫! でも・・・」


エイリアンの体で作られた壁は新八との間にあり、二人を分断してしまった。
周りを見渡すが近くに通り抜けられそうな場所など無い。だが考えている暇もなくまた激しく、エイリアンの体が動き出した。
遠くで銀時が何かを叫んでいる声が聞こえるが、エイリアンの体によってその声はほとんど「音」としか認識できない。


「私はいいから新八君、神楽ちゃんを探して!」

「で、でも・・・」

「私は大丈夫だから! 神楽ちゃんは怪我をして動けないかもしれない!」

「・・・・わかりました。 さん、無茶しないでくださいよ!」


新八の言葉にもう一度返事をしてすぐにそこから離れた。
今エイリアンはかなり暴れている。その状況であまり一つどころに留まっているのは危険すぎた。
の返事を聞いた新八もすぐにその場から離れ走り出す。
少しして見覚えのある顔を見つけ駆け寄った。すぐ横ではエイリアンにしがみついた銀時の姿も見える。


「あなたはバカ皇子!」

「いや、ハタだから! こんな状況でもそこは折れないから!」

そんな事はどうでも良いんです! 神楽ちゃんがどこに居るかわかりませんか!?」

「いや、ワシらもう逃げるのに必死だったから・・・」


周りの状況を見れば確かに逃げるのに必死になるだろう。
銀時と星海坊主が暴れ始めてから、先ほどとは比にならないほどにエイリアンも暴走している。この場のどこにも安全な場所など無いだろう。
本当なら逃げた方が得策なのかもしれないが、それでも逃げるわけにはいかないと新八はすぐにそこから周りを見渡し、神楽の姿を探した。
しかし名を呼べど返事もなく、今だエイリアンの動きも止む事も無い。むしろ先ほどよりも激しくなっている様子に、少し焦りも見え始めた。


さん・・・。大丈夫だって言ってたけど・・・」

「あわわわわっ!!! ちょ、おい!! 君、危ない!!」

「え・・・?」


集まってきたエイリアンの一部が新八目掛け、襲い掛かって来た。
もうダメだ、と思ったときである。突然エイリアンの体が飛散し、その向こうから現れたのは見覚えのある白い物体。


「定春! さん!」

「新八君! 無事!?」



新八と別れたはあれからすぐに抜けられる場所を探し回った。
同時に神楽も探し、時折すごい勢いで暴れるエイリアンを火事場の馬鹿力と言えばいいのか。寸での所で避けたりなどしながら走りまわった。
時折神楽の名を叫ぶが返事などなくかわりに聞こえるのはエイリアンの雄たけびに近いものばかり。
その中、聞き覚えのある鳴き声が一つ、の耳に入った。


「ワン!」

「定春!? そうか、さっき銀さんと一緒にきたんだったね! 一緒に神楽ちゃん探そう!」


そう言って走り出そうとしただが、定春に袖を加えられ敵わず、振り返れば何かを訴えている目だった。
最初は分からなかったがの背中へと頭を押し付ける仕草で、背に乗れという事と理解しは定春に乗って神楽を探し回る事となる。
その途中、エイリアンの更に激しい暴走。合間に新八の神楽を呼ぶ声が聞こえ、と定春は新八と合流する事を選んだ。
新八へと襲い来るエイリアンへ怯まず突進して助けに入ったのが先ほどの状況だった。



先ほどよりも大人しくなったエイリアンの動き。
達は今のうちだと神楽を探そうとしたが、低く辺りに響く独特な音が鼓膜を震わせた。
空を見上げれば遠くに何隻もの船が向かってくる。しかしその外観はどう見ても戦艦であり、今ここへそれが来る理由など一つしか思い当たらない。
一刻の猶予も無いと言う新八へは、頷き一つを返事とした。
エイリアン自体は銀時と星海坊主だけで何とかなるだろうと、そちらは念頭には無い。今はとにかく神楽の事だと再び足を動かす。
しかし走り出そうとしたその足元は突然轟音と共に揺れ出し、底を抜け現れたのはエイリアンの核。


「な、なにこれ・・・・」

「っ! さん、あそこに神楽ちゃんが!!」

「え!?」


新八が指を差した先にはエイリアンに取り込まれようとしている神楽。
助けに走ろうとするがたどり着く前に神楽は飲み込まれてしまう。核の上には銀時と星海坊主の姿が見える。
すぐにそこへ降りようとしたとき、辺りはやたらと五月蝿いというのに星海坊主のその言葉はやけに鮮明に聞こえた。




「こいつを殺れば、神楽も死ぬ」




その言葉に、心臓が一際大きく慄えた。脳内の血がすべて冷えて行くような感覚に苛まれそうになる。
それを拳を握り締めて、は感覚を自力で呼び戻す。絶望するわけにはいかない。それはまだ早いと言い聞かせながら。


の思考が戻ってきた時、まるで追い討ちをかけるかのように聞こえたのは戦艦からの一斉放射という声。
攻撃態勢の戦艦が遠目にでも見える。
それを近藤が必死に止めようとするが、意志は変わらないらしく攻撃態勢が解除される事は無かった。
一体どうすればいいのか。今の自分たちに、何ができるのか。それを考えていたの耳に再び入りこんだ星海坊主の言葉。


「すまねェ、神楽・・・。せめて最期は、お前と一緒に死なせてくれ」


驚き目を見開いて下を見れば、傘を構えた星海坊主の姿。

そんな勝手が許されるわけも無い。何故助けられないと決め付ける。
壁にぶち当たったからといって何故、前に進む事を止めてしまう。
湧き上がってくる様々な言葉と感情。だがそれを吐き出す前に、銀時の言葉が聞こえた。



「アンタ、自分のガキ一人信じることができねーのかィ。神楽がこんなモンで死ぬタマだと思ってんのかィ」




まだ、死んだと決まったわけでは無い。




「五分だ。五分だけ時間を稼いでくれ。俺を信じろとは言わねェ」




エイリアンに取り込まれただけで、まだ助ける術など残されている。




「だが」




諦めて立ち止まるわけには行かない。




「神楽のことは信じてやってくれよ」



「!! お前、何を・・・」



銀時がエイリアンの核へと木刀を突き刺し、それに反応するかのように先ほどの神楽と同じ様にエイリアンに取り込まれてしまう銀時。
その姿を見て意を決したはハタ王子の襟首を掴みあげ、定春に咥えさせた。


「な、なにをする!?」

「バカ皇子。バカでも、皇子なんですよね?」

「余はバカでは無い! ハタじゃ! 央国星のハタ皇子!」

「そうですか、それじゃ盾になって下さい」

「え?」





銀時は銀時のできる事をした。
ならば、は今自分にできる事をするまでだと腹を括り、そこから飛び下りた。





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