前へ進め、お前にはその足がある
>温もり -act07-
「おい、嬢ちゃん大丈夫か? おい」
「・・・っ」
だんだんと意識が戻り聞こえる声に反応しては静かに目を開けた。
視界に最初に映ったのは星海坊主の顔。それもかなりのアップだった。
「・・・・・・・・・ウッ」
「おい、なんで俺の顔見て気を失った? そんなフリをしてもな、分かるんだよおじさんは。おい小娘、俺の目を見ろォ!」
目覚め一発がかなりインパクトのある物だった所為か、フリではなく半ば本気で気を失いかけた。
何とか気力を振り絞り、今度は心の準備をして目を開ける。
一応が目を覚ました事を確認した星海坊主は、隣で倒れている新八を揺り起こす。
その間に体を起こし周りを見渡せば逃げ惑う人たちの姿と、壁を突き破ったエイリアンに取りつかれた船。
「さっさとお前らも逃げろ、坊主、小娘。死ぬぞ」
立ち上がって船を見つめた星海坊主の言葉に生唾を飲み込んだ。
今までに無いぐらいの緊張感が辺りを包んでいる。尋常では無い状況。確かに逃げた方が良いのだろう。
その考えが浮かんだのは一瞬で、すぐに神楽の事を思い出す。
まるでの思考を読んだかのようなタイミングで、星海坊主が神楽の姿が見当たらないという言葉が耳に入る。
「待って」
船へ向かおうとする星海坊主へと制止する新八。
それに背を向けたまま、視線だけを向けてくる。
「僕も行きます。神楽ちゃんは・・・ほっとけない」
「私も、神楽ちゃんを探しに行きます」
「邪魔だ、帰れ」
と新八の言葉もまるで聞く耳持たず、一言で切り捨てた。
この先が危険な事は承知で、それでも行く覚悟をもっての言葉だが覚悟だけでは足りないらしく
星海坊主はこの場所は自分達の居場所だという。
それでも諦めない姿勢の新八だが、突然星海坊主は傘を振りかざしてきた。あまりの事に驚き動く事すら出来ない。
ゆっくりとが隣を見れば、星海坊主が払ったエイリアンだろう。残骸となった死体が落ちてくる。
「俺達の生きる場所は違うと言ってんだ。
これ以上、神楽に関わるな。これ以上、神楽を苦しめるな」
星海坊主の一言、言葉の一つひとつが重く心に響き渡る。
「人が簡単に変われると思っているのか?」
星海坊主は最後に言葉を残して去っていった。
新八は船を見つめて立ちつくし、は知らずの内に拳を握り締めていた。
の様子に新八は気付き、声をかけようとしたがそれは聞こえぬほどに小さく洩らされたの言葉で遮られる。
「・・・じゃない・・・」
「さん?」
「ふざけんじゃないよあのハゲ親父! 簡単に変われると思うな? そんなの知ってるわボケェ!!」
「っ!?」
新八の呼びかけが切欠となったのか、吐き出し叫んだ言葉が切欠となったのか。
星海坊主の言葉によっての中に一つの固まりが出来上がった。それをまるで吐き出すかのように、叫ぶ。
自分の中の何かを変えたくて、変えたくないものも時に変えながら人は生きていく。
周りに居る人がどれほど変わり、これから変わっていくかなどわからない。
星海坊主の言うとおり、変わる事は簡単な事じゃない。
それでも確実に、はここに来て変わった。それも簡単に変われたわけではない。けれどけして、変われないわけでは無い。
――― 人が簡単に変われると思っているのか?
先ほどの星海坊主の言葉が自然と復唱され、一度緩めた拳をもう一度握りしめて強く船を睨みつけた。
「行こう、新八君。神楽ちゃんを助けなきゃ。それに、あのハゲ親父に一言でも言ってやらないと気がすまない!」
「は、はい!!」
簡単に変われないのは当たり前の事だ。
だがその言葉で諦めて、変わろうとしないのは『変われない』とは違うのだと。
意気込んで船に乗り込んだまでは良かったのだが、二人は神楽を探すどころか動き回るエイリアンを避け進むのに精一杯だった。
攻撃されては流石に二人では太刀打ちできないのが現実。なるべく刺激しないよう、慎重に前に進む。
だが前に進めば進むほど、奥へ行けば行くほどにエイリアンの動きは活発になっていく。
神楽か星海坊主、どちらかが暴れているのかもしれない。どちらにしても此方に気付かれないよう気をつけていればいい。
腰を低くして潜り抜け、壁に背を向け抜き足差し足でよりエイリアンが激しく動いているほうへ向かっていった。
「あ! 新八君!」
「え・・・っ!! 神楽ちゃん!?」
二人が目にしたのは、神楽がエイリアンに捕まり攫われ、その先には大口を開けたエイリアンの姿。
何とかして助けようとしても距離がありすぎて手はおろか、声すら届かない。
何もかもが動きがゆっくりに見えていた。
目を見開いて、何もできないのかと唇を噛み締めた時。神楽を飲み込もうとするエイリアンが弾け飛び、中から出てきたのは見覚えのある姿。
「なっ!?」
「ぎ、銀さん!!」
定春に乗った銀時だった。
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