前へ進め、お前にはその足がある
>温もり -act06-
広いターミナルの入り口についた頃にはは息を切らしていた。体力はある方だがそれでも店からそこまでの距離はかなりあり、それも当然だろう。
それでもはそんな事を気にしている暇など無く、乱れた息を整えると中へ入る。
星海坊主は心配して探しにきていたのだ。やっと会えた家族と帰るのに、昨日の今日で早すぎるなどと言っていられない。
だがには神楽が何時の、何番のゲートから船に乗るのかまったく分からなかった。
それ故にただでさえ広く、人も天人もごった返しているターミナル内を端から端まで、走って探し回らなければならない。
呼び出しの放送なども考えたがそれ自体どこなのか分からず、呼び出して待っているぐらいなら自分の足で探したほうがマシだと
は時折人にぶつかりながらも必死になって探し回った。
突然、大切な人が言葉も交わさず別れるなどともう二度としたくない。
そんな経験、一度だけで十分すぎる。
「神楽ちゃん・・・どこ・・!?」
ここで得たものは多く、その全てのきっかけを作ってくれたのは、最初に声をかけ万事屋へと連れて行ってくれた神楽。
はその事を言葉にできないほど感謝し、言葉にしない変わりに精一杯の愛情をもって接した。
たとえ血の繋がりが無くとも。本当の家族に敵わずとも。それでもは神楽を妹のように大切に思っている。
だからもし、このまま帰ってしまうというのならばどうしても伝えなければならない言葉がにはあった。
それを伝える為に只管に走って、探し回る。
「やだわ、なんなのあの子・・・」
「最近多いのよ。気にしちゃダメ」
隣から聞こえた若い女性二人の声には思わずその女性の顔を見た。二人の視線の先にはゲートを潜ろうとして係員に止められている新八の姿。
は新八が向かおうとしている先に神楽が居るんだと思えば、その足は止まらずそこへと向かった。
「ウソウソ、今のはちょっと見栄張っちゃいました。
実はそのバーコードは僕の父親で、援交にハマって家庭をほうり出して女のこと心中しようとしてるんです!」
「ウソをつけェェ、君は父親は死んでるっぽいぞなんか!」
「だからなんでわれてんのォ! なんでしってんだよォ!!」
辺りに響く新八のいつものように切れのいいツッコミ。
周りに居る人達は皆、新八の様子を遠巻きに見ながらも関わらないようにしているのが良く分かる。
係員に取り押さえられそうになっているが、必死にゲートを通ろうとしている新八への距離が縮まりもう少しだと思った矢先。
二人の係員が宙を舞うのを見た。
「すいまっせーん!!」
に気付く事も無く新八は係員へと叫び謝りながらゲートの奥へと走っていってしまった。
迷うことなくもその後を追い中へと入れば、騒ぎを聞きつけた係員が数人追ってくる。
「し、新八君! ヤバイよこれ、ヤバイよ!!」
「なっ、さん!? って、うわ! 一杯来た!!!」
「ぎゃっ!!!」
「さん!!」
足の速さは自慢できるほどのものでもなく、飽くまで並程度のは手を伸ばした係員に腕をつかまれその足が止まってしまう。
それを助けようと引き返そうとした新八へ構わず神楽の元へ行けと言えば、一瞬だけ戸惑いを見せすぐに走り出す。
の横を三人の係員が駆け抜けていき、は残り三人の係員にそのまま押さえられそうになったが大人しくしているわけも無く。
「おい、大人しく・・・ギャ!!!」
「なっ、何を・・グッ!!」
でたらめに暴れているように見せて的確に急所を狙って足で蹴り上げ二人を沈めた。
腕を掴む係員は倒れた同僚を見て一瞬怯み、腕を掴む力を緩めてしまう。隙ありとばかりにはスルリとその手から逃れ新八の後を追い走る。
広い空間にでた所で上を見れば一隻の船。その船に、神楽が乗っているのだろうと思えば躊躇い無く近くの梯子を昇る。
はるか上には新八が三人の係員に足をつかまれつつも昇っている姿。
「神楽ちゃーん、どこいくんだァァ!」
船は遠く、神楽の姿は見えない。だからといって声までも届かないわけでは無い。
新八はあらん限りの声を張り上げて神楽へ呼びかけた。それはまだここに留まり、共に万事屋としてやっていこうという言葉。
その言葉を聞きながらは今の居る位置では声すらも届かないと上へ更に昇ろうとするが、それは突然進まなくなる。
「!? は、離して下さい!!!」
追って来た係員に足を掴まれてはそれ以上昇る事ができない。
あと少しで、追いつきそうなのに。
あと少しで、声が届きそうなのに。
悔しげに唇を噛み締めて梯子を掴む手に力を込めた。
「神楽ちゃん!! このまま帰るなんてズルイよ!!」
届けと願いながら声を張り上げる。
「私、まだちゃんと言ってない!!」
たとえ、この声が潰れたって構わない。
「ちゃんと君に、「ありがとう」って言ってない!!」
届けと願い叫んだ言葉がはたして、伝わったか。
聞こえないというならば何度だって叫んでみせようと、が再び口を開こうとしたときだった。
突然船の底を突き破って出てきたモノが、あっという間に船を半分以上飲み込んでしまった。
「な、 なんじゃありゃああ!!」
奇妙なものに取り付かれた船は航行不能となり、新八やが昇っている梯子目掛けて飛んできた。
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