前へ進め、お前にはそのがある

>温もり -act03-







昼過ぎの街中を歩くは配達の帰りだった。
目の前からものすごい勢いで走ってくる何かが視界に入る。


「・・・・あれ? 神楽ちゃん?」


に気付かないのか米袋らしきものを小脇に抱えて猛スピードで横を走り抜けていった神楽の様子に、はただなら無いものを感じた。
いつもならば自転車で配達をするだったが、その日の配達先は徒歩十分もかからない場所だった為、健康も考えて歩いていったのが仇となる。
すぐに走って追いかけようとするが、既に神楽の姿は人込みの中へと消えていた。
どうするか少し考えたは一度店に戻った方が良いと思い走り出す。
その途中、神楽を追っていると思えるほど必死に走る銀時と新八の姿を見つけ、声を掛ければ口早に事情を聞かされた。


「ええ!? ふ、振り込め詐欺!?」

「たぶんそうだと思うんです。とにかくこれから僕と銀さんで近くの銀行とか信金へ向かいますんで」

「待って、私も行くよ!」

「でもオメー、バイトの途中だろうが」

「一度店に戻ってから向かうから!」


言いながら走り去るに、まだ何か言おうとしていた銀時だったがそれは叶わず。
仕方がないと新八と二人で手当たり次第、近場の銀行や信金などへ神楽がいるかどうかを確かめに走りまわる。
一方、息を切らせ戻ってきたの様子に驚きながら水を差し出す朔へ、詳しくは後日話すと言って早退を申し出た。
とにかく今は神楽を追わねば万事屋の家計が火の車どころか爆発炎上しかねないと
の必死な様子に「気をつけてくださいね」とそれ以上言う事も無く見送ってくれた。
朔の言葉に感謝しつつ、すぐに走ってきた道を戻り、神楽を探し奔走する。
暫くして視界の先に同じ様に走り回る二人の姿を見つけた。


「どうです、見つかりましたか?」

「いや。・・・ったく、あいつどこに行きやがったんだ」

「でも、早く見つけないと大変な事に・・・・ん? 銀さん、さん。アレ何ですかね?」

「「え?」」


新八が指を差した建物は人垣が出来ている。その合間から大江戸信用金庫という店名が見えた。
まさか、と一抹の不安を抱いて急いでその人ゴミの中へと走りより、掻き分けて正面玄関前まで行けば立てこもり事件が起こっていると知る。


「・・・遅かったか」

「え? まさか神楽ちゃん? コレ、神楽ちゃんが?」

「そんなまさか・・・!」


項垂れる銀時の呟きに「まさか」と思ったが反面、「もしかしたら」と言う気持ちが無いとは言い切れない。
元々万事屋の貯金に、詐欺による多額請求に応じれるほどの金額が入っているわけも無く、それゆえの凶行だという銀時の言葉を否定し切れなかった。
どうしたらいいのかと考えあぐねている二人の前を、銀時が一歩踏み出し自動ドアの正面に立つ。


「アイツたァやり合っても勝てる気がしねーが、俺が止めずに誰が止める」


制止しようとする同心の声など無視をして、真っ直ぐと扉を見つめている銀時は動こうとしない。



「奴の家族がここにいても、そうするはずさ」

「ぎっ・・・銀さん」


銀時の言葉に頷く事はせずにただ、共に行くと新八とも正面口の前に立った。
センサーが反応して扉が開く瞬間まで、は神楽をどう止めようかなど理屈などに沿って考えてはいなかった。
ただこんな事は止めてほしい。その一心だけがを突き動かした。

しかし、扉が開いて見えた光景に思わず、それらの思考は全て掻き消えてしまう。





「「「間違えました」」」





三人の言葉と、扉が閉る音。
次に「化け物だ」という逃げ惑う人々の声が周りに響き渡る中、三人は呆然とその場に立ちつくし、現実から目を逸らそうと必死だった。
とりあえずこの立てこもり事件の犯人は神楽ではなかったのだ。それはまだ良かった。
しかし次に問題となるのは神楽をつかんでいた男の異様な姿。
隣では「アレは親父だろう」という銀時の言葉に、同じく現実逃避している新八が途惑いながらも同意する。
だがはそれに対し肯定も否定も出来ず、何度も瞬きをしていた。
どう見てもあれが親子というのはありえないと思う心と、似てない親子だっているんだから許容範囲だろうと思う心が反発し合う。
振り返った銀時は「親子水入らずを邪魔できない」と言ってこの場を去ろうとしたが、突然その足を掴む何かによって足を止められる。



「銀ちゃ〜ん、ひどいヨー。何で助けてくれないネ」

「何してんのォォ、お前! なんかいっぱいついてるぞ、親父さんの内臓的なものが!」



それは何かに巻きつかれた神楽であった。驚く新八と銀時は確りとその足を掴まれて逃げる事が叶わない。
男の口からデロデロと何かが出てきているが、あまりのグロテスクな状態に目をそむけてしまった
その直後吐き出されているそれは神楽を掴んだまま、すごい勢いで引き寄せて行き、同時に足を掴まれている二人も引き摺られてしまう。
慌てたは咄嗟に手を伸ばし二人の手を掴み踏ん張ったがもちろん、それでどうにかなるわけも無く共に引き摺られてしまう。
まるで何かのゲームのように、引き摺るその物体は口を大きく開けたワニのような姿に変え四人を待ち受ける。



「だァァァァァ、離せ離せ!!」



「神楽ちゃん、離しなさい!! メッ!!」



「食われる!! これ確実に食べられちゃう!!」



「お前ら全員道連れじゃー!!」



もうダメだと思った時、一人の人物が突然店内に入って来たと思った次には、化け物が飛散。
一体何が起きたんだと思う間もなく、店の奥の壁に飛ばされた化け物の姿に呆然とする。
そこに刺さっていたのは見覚えがあるようで、しかし記憶とは形の違う傘が一本。
扉の方へと振り返れば顔すらわからない、たぶん男が一人立っている。
呆気にとられた達を他所に、男は静かに口を開いた。




「さがしたぞ、神楽」


「・・・・・・パピー?」





「「「ぱ、
ぱっ、ぱぴィィィィィ!?」」」





店内に三人の驚愕の声が響いた。





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