前へ進め、お前にはその足がある
>温もり -act01-
少し空気が冷たい朝にはいつも通りの時間に起き朝ご飯を準備する。
あとはご飯が炊けるのを待つばかりだという状態になり、そろそろ銀時達を起こさねばと台所からまず向かったのは神楽のところ。
襖を開けて軽く揺さぶり声をかければ「うー・・・・ん」と唸りながらも起きだした。
それを確認したが次に向かったのは銀時のところだが、神楽以上に手ごわい。布団を頭まですっぽりと被り外気から身を守っている。
実は前に一度、布団を引っぺがして無理矢理に起こした事があったのだがそのあとの機嫌が最高に悪かった。
元々低血圧で寝起きが悪く、朝に弱い所に望ましくない起こされかたをされたのだから仕方がないだろう。
次からは優しく起こしてあげようと思っただったのだが、芋虫状態の銀時はいくら声をかけ揺さぶっても起きてくる気配がない。
「銀さん。結野アナのお天気注意報、始まっちゃいますよ! いいんですか?」
「・・・あ、あー・・・」
銀時は毎朝たったそれだけの為に早起きをしているのだと分かって言ってみれば、どうやらそれが効いたらしくノソリと起きだす。
布団から出た銀時は激しく寝ぼけた顔をしていた。
それに対し「早く顔を洗ってきて下さい」と言おうとしたが、それは口を開いただけで言葉にはならなかった。
後ろから思い切り抱きつかれて身動きすら取れない状態のは、一体何なんだこれは。と銀時の顔を見るが今にも眠ってしまいそうな顔が見える。
肩口に顔を置いてそのまま何かモゴモゴと言っているが、どれも聞き取れない。
「なんですか?」
「・・・、あったけー・・・・ホカロンだなこりゃ・・・あー・・・」
「いや、暖かいじゃないですよ。私まだ朝ご飯用意し終わってないんですけど」
銀時の頭を押しのけて歩き出そうとするがどうにも歩きづらい。寝起きだと言うのにやはり大人の男の力というものだろう。
ガッチリと腕を回されてしまえばはどうする事も出来ず、離れてくれと言う事しかできない。
それでも聞きいれる気は無いらしい銀時は先ほどから「暖かい」と言いながら、そのまま寝てしまいそうな勢いだ。
朝ご飯の準備がまだの状態な事も気になっていたが、なによりは恥ずかしくてたまらない。
唯一の救いは赤くなっているであろう顔を見られていないことだ。
「銀さん、ちょっと・・・本当、いい加減にして下さいよ」
「んなに離れて欲しいなら、俺の質問に答えなさい」
いい加減我慢しきれなくなってきたが少し強めに言えば、先ほどとは違いはっきりとした言葉が返ってくる。
それに答えれば離れてくれると言うのなら安いものだと「いいですよ」と簡単に答えてしまったが、その後後悔する羽目になった。
「あいつらの『好き』とおまえの『好き』の違いってなんだよ」
「え! えー・・・あー・・・・・・それはほら、アレですよ、アレ・・・えーと・・・ペット?」
「ねえ、それどっちが思ってんの? あいつらが? お前が? どっちにしても悲しいんですけど」
よもやまたもその質問がくるとは思ってもいなかったは上手くはぐらかす事もできず答えに詰まる。
銀時の記憶が戻ってからと言うもの、何度となくその質問をしてその都度が答えない、を繰り返していた。
今までは何とかはぐらかす事も、逃げる事もできたが今はその糸口がない。
逃げようにも捕まってしまって叶わない。はぐらかすにも話題がない。おかげで二人はたっぷり五分近く、そのままで居た。
「なあ、。いい加減・・・ 「あー、銀ちゃんがにセクハラしてるヨ」 オイ神楽、お前来て早々それはねェだろ!」
まさに救世主現る、だ。
顔を洗って居間へといったはいいが、何時までたってもがご飯の用意に戻ってこないのを不思議に思った神楽が銀時の部屋へ入ってみれば
銀時がへと抱きついているという状態に迷わず吐いたのが先ほどの台詞。
はこれ幸いと神楽へと助けを求めれば「顔を屈めるヨロシ」と言って言われたとおりにした瞬間。
「ホアチャァァァ!!!」
「ゲハッ!!!」
見事な蹴りが銀時の顔を蹴り上げてから離れ、後ろの壁へと吹っ飛んでいった。
瞬きを数回繰り返しながら倒れた銀時を見ていたが、今ここで近づいては助けられた意味がなくなってしまうと
非情ではあるがなによりもにとってご飯の準備の方が優先すべき事だったため、一応銀時へ声をかけ居間へと向かっていった。
その後ろを神楽は準備を手伝うと言いながらついていく。
「イツツツ・・・・、あいつは手加減ってモンをしらねーのか、あー痛ェ。」
二人が居なくなった後、起き上がって銀時はぶつけた背中と蹴られた顔を擦りながら閉められた襖を見つめる。
「・・・それにもだ。いい加減にはっきり言えってんだコノヤロー」
銀時も大人である。のあの言葉の意味がどういった事なのかなど、聞かずとも分かっている。
だがもしかしたら思い違いなのでは無いかという不安もある。もしそうならば目も当てられない。
銀時はすでに自分の気持ちになどとうに気付いている。
何時、何がきっかけでかなどわからない。ただ気付けば銀時の中でに対する思いは形を変えていった。
その過去に囚われ目を背けている事を止めて、受け止めるために真っ直ぐ前を見つめて。
守られるだけでなく、自分の守りたいものを守るために立ち上がって。
弱さを強さへと変えるために傷ついても歩く事を選んで。
最初こそ、他の者と同じ様に守りたいと思っていた。
それはやがて、その強さに、気高さに触れ愛しいと想うものに変わっていった。
ただそれを伝えるための素直さなど持ち合わせておらず。好きだとはっきり言えるほど純粋でもない。
なによりも気持ちを言葉に変え伝えた時のの反応が怖くてたまらない。
想いを大切にしすぎるなどということは無いだろうが、できればあと一歩。先へと進みたいと思ってはいる。
しかし上手くいかず、どうにも言うタイミングときっかけが見出せず結局今のままの状態が続いてしまっていた。
そんな折ののあの言葉。
きっかけにするにはちょうど良いと、なんともズルイやり方だろうと思うこともあるが、それ以外にいい方法が思いつかずにいるのも事実。
そしてもう一つ、銀時には気になっている事があった。
――― 私にとって銀さんは、大切な人ですよ
それは記憶を失う前にはなかった違和感と一つの言葉。
まるで記憶を取り戻した事がきっかけとなったかのように、朧気に心の奥深くに揺れる言葉。
想いを告げられたというにはあまりにも曖昧で、どうとでも取れる言葉だが、何か特別な想いが込められていた様にも思える。
しかしそれは濃い霧の向こう側で何かを言われているような感覚に近く、それがいつ、どこでかなどはわからない。
その言葉をくれたのがだったと言う記憶だけは、はっきりと残っている。
だが少しおかしい話しだが、はっきりと記憶している範囲でが万事屋へ来てから今の今まで、そのような事を言われた覚えは無いのだ。
言われた覚えがあるのにその記憶が無いなどと、なんとおかしい事だろうか。
だからこその違和感。
この奇妙な記憶の正体が掴めずそれがさらに不安を掻き立ててもいた。
記憶の中にある、二つの曖昧な言葉。
それに翻弄され、不安になり、言い出せない。だからこその口からはっきりとした言葉が欲しい。
我ながらになんと臆病なのだと自嘲気味の笑みが零れる。
一体どうしたものかと頭を掻きながら考えていた銀時だったが、居間の方から聞こえたの「ごはんですよ」と言う声に思考はそこで途切れ
とりあえず朝食を食べた後にでも、もう一度聞いてみようかなどと考えながら居間へと向かった。
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