前へ進め、お前にはそのがある

>縁合い -act04-







外は色々と危険だと、とりあえずお妙の元へと行くことにした達。
だがそこもいろいろな意味で危険が沢山だった。
記憶を失ったと言う事を説明すれば、お妙の事も忘れていると言う事実がどうやら気に食わなかったらしい。


「私は覚えているのに一方的に忘れられるなんて胸クソが悪いわ。何様?
 新ちゃん、これで私を殴って銀サンの記憶だけとり除いてちょうだい」

「姉上、僕エスパー?」

「じゃあ、仕方ないわ。是が非でも思い出してもらうわよ。同じショックを与えればきっとよみがえるわ」

「やめて下さいお妙さん! ただでさえ衝撃に弱い頭なんです!」

「姉御、勘弁してくだせェ、またフリダシに戻っちゃうヨ!」


コタツの天板に乗り上げて銀時の胸倉を掴むお妙を神楽とは必死に止める。
殴ろうとするお妙だがその手を突然掴む銀時に驚き、その顔を見れば今まで見たことがないくらい真っ直ぐ生きた目をしていた。
何か幻でも見ているのかと思っていれば、次には誠実な言葉までが聞こえていくる。


「ぎ、銀さんが壊れた・・・いや、むしろ治った? あれ、どっち?」

「でも。やっぱりはもとの銀ちゃんに戻って欲しいアルカ?」


お妙とのやり取りに呆然としていたに突然神楽が聞いてくる。聞かれ改めて考えてみれば、どうなのだろうと首を傾げてしまう。
確かに性格や態度で言えば今のほうがずっといいのかもしれない。しかしやはりそれではダメなのだとは思う。
たとえ普段は不真面目でいい加減であろうとそれが、の知る『坂田銀時』でありそんな銀時に惹かれたのだ。


「確かに普段はマダオだけど、でもそんな銀ちゃんには惚れたんだよネ」

「うん・・・・・・・・・えっ!? え? ちょ、神楽ちゃん・・・? い、いつから?」


まさかの神楽の言葉に驚きどもりながら聞き返せば「態度が見え見えネ」と簡単に返される。
あまりの事実と羞恥に顔からまさに火が出る勢いで赤くなり、俯いてしまった。
そんな二人のやり取りの間に何故かコタツから出てきた近藤だったが、その事実についてはとりあえずいつもの事なので無視をする。
顔を踏まれて居ても変わらない態度なのだからある意味すごい。
色々と言われている銀時だったが全く近藤の言葉へは耳を貸さず、ドロドロに溶けたアイスをジッと見つめている。


「こ・・・これは。なんだろう、不思議だ・・・。身体が勝手にひきよせられる」

「!! あっ!! 甘い物」

「そうネ! 甘い物食べさせたら記憶が蘇るかもしれないヨ!」

「銀さん! それ食べて! 早く早く!!」

「え、え?」


本人の体が求めているのだ。なら記憶を呼び覚ます事ができるかもしれない。
そう思ったは食べろと急かすが何がなんだかわからない銀時は少し途惑っている。
神楽が勢いよく振りかぶり、銀時が持っていたアイスを奪うとその口と言うよりも顔目掛けて押し付けた。
いつもならば心配をするところだが今は構っていられないとばかりに、お妙へと甘いものを持ってきてくれと新八と共に頼めば急いで部屋から出て行った。
倒れた銀時へと呼びかける神楽。起き上がった銀時は俯いていてその表情は見えない。



「う、う・・・ ぼ・・・僕は・・・、僕は・・・  ・・・俺は

「銀ちゃん!」
「銀さっ・・・」



元に戻った。そう思った矢先だった。
銀時へと呼びかける三人の間へと踏み込んで勢いよく、何かを銀時へと叩きつけたお妙。
そのまま倒れた銀時。一体何を叩きつけたのか、正直聞きたくはなかったがのかわりに新八が聞けばいい笑顔で答えられた。



卵焼きよ。今日は甘めにつくってみたから」

「いやー、なかなか個性的な味ですな、この卵焼・・・ 
ブッ



倒れた二人をみては予想はしていたが当たって欲しくは無かった。
しかしその願いも虚しく、次に二人の目が開かれた瞬間口から次いで出た言葉に絶句する。




「君達は・・・誰だ?」




その目が少し怖いと思いつつ、お妙の「かわいい」と言う言葉にも頷き掛けたのは果たして本心か、現実逃避かは本人ですら分からなかった。








お妙の元に居ても解決にはならない。それどころか悪化してしまった。
とりあえずもう日も暮れてきたため一旦万事屋へと戻る達。その道中、銀時は謝ってくるが新八は慰めとも捉えきれない言葉で返した。
よっぽどの事がなければ銀時は確かに謝らないだろう。その事実を知っているため否定する事もできない。


「今日は家に帰ってゆっくり休みましょ」

「そーネ。外よりウチの方が一杯思い出アルネ。何か思い出すかも・・・」

「そうですよ銀さん・・・って、あれ? 何あの人込み」


だから焦らないでいいと言おうとしたは万事屋の前に集まった人だかりを見て言葉を切った。
他の三人も顔を上げ万事屋を見ればあまりの惨状に驚き声も出ない。万事屋の屋根につっこんだ船が一隻。
周りの人だかりから聞こえた「飲酒運転」と言う言葉に、はただ呆然とするしかなかった。
隣から聞こえたのは屋根につっこんだ船の持ち主だろう人物の、そして聞き覚えのある声。
土佐弁で喋り銀時の名を間違える人物など探しても、きっとその人しか居ないであろう。こちらに気付く間もなくパトカーで連行されてしまう。
走り去っていく車の陰を見つめながら、あまりの事には名を呟く事しかできなかった。


「・・・・坂本さん・・・・」

「・・・どうしましょ。家までなくなっちゃった」

「・・・・・・もういいですよ。僕のことはほっておいて」

「!!」



突然の銀時から漏らされた言葉に驚く面々。
お妙の卵焼きによって変わってしまった目はどうにも感情が読み取れないが、そのせいばかりでは無いだろう。



は呆然とし、言葉にできずただ首を横に振ることしかできない。
同時に思い出されるのは今まで、銀時から貰った言葉の数々。




「みんな帰る所があるんでしょう? 僕のことは気にせずにどうぞ、もう自由になってください」




――― 拾ったら最後まで面倒をみるのが飼い主の役目だ。途中で放り出したりしねーよ




「こんなことになった今、ここに残る理由もないでしょうに」




――― 何だ?ここじゃ不満か?贅沢いわねぇっつったじゃねぇかよ。




「みんなの話しじゃ僕もムチャクチャな男だったらしいし、生まれかわったつもりで生き直してみようかなって」




――― 現に俺だって、ここまでくるのに泥を被りまくった。けど俺はこうやって、てめぇの足でここに立って歩いてんだ。あんたにもできるはずだぜ





ただ、次に紡がれる言葉が怖くてたまらなかった。






「だから、万事屋はここで解散しましょう」






心臓が鷲掴まれてしまったかのような感覚が走り抜ける。
苦しくて、まるで水から打ち上げられた魚のように小刻みに呼吸を繰り返す。



「ウ・・・ウソでしょ、銀さん」

「やーヨ! 私、給料なんていらない。酢昆布で我慢するから! ねェ銀ちゃん!」

「まっ・・・・待って下さい! 銀さんは銀さんでしょ! だからっ!」



置いていかないでと。
帰る所などここしか無いと。
約束してくれたではないかと。



言いたい事はたくさんあったが、どれも息が詰まり言葉に出来なかった。
かわりに、少しの希望をもって手を伸ばしてみるがそれは掴まれることは無く。




「すまない、君達の知っている銀さんは、もう僕の中にはいないよ」




はっきりと言われた拒絶の言葉に伸ばした手は止まり、指の間から何かがスルリと抜けるような擬似的感覚に陥る。
必死に止める神楽と新八の言葉すらも遠くに聞こえて、人込みの中に消えていく銀時の背中を見つめる事しかできなかった。





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