前へ進め、お前にはその足がある
>縁合い -act02-
屯所に着いては門のすぐ近くで見つけたのはいつもならば本職そっちのけで、ミントンに勤しんでいるであろう山崎が
珍しくラケットを持たずに歩いている姿だった。
あまりの珍しさに思わず動きを止めあろうことか「山崎さんだよな・・」など、なんとも失礼極まりない事を口走りそうになってしまったが
そうなる前に我に返り居なくなってしまう前に声をかける事が出来た。
の訪問に気付いた山崎はすぐに二人の元へと来たが、今度は山崎が動きを止めてしまう。その理由は聞かずとも分かる。
さっちゃんの捕まえている引ったくりの姿に何と言っていいのかわからないのだろう。
どこから縄を出したのだろうかという質問は、忍者であるさっちゃんへは愚問である。むしろその縛り方に問題があるのだがそこは触れてはいけない。
「あの、山崎さん。これ、ご注文の品です」
「え、あ、ああ! ありがとう。ご苦労様です」
風呂敷に包まれた注文の品である団子を差し出せばやっと思考が回り出したのだろう。
それを受け取り代金を支払ったあと、改めて山崎はぐったりと気を失っている男は何だと聞いてくる。
その口元は微かに引きつっていたが、それはあえて見なかったことにしておいた。
分かりやすく事情を話せばどうやらこれから仕事に出るらしく、他の者へと調書などを頼み達の横を通り過ぎて外へと出ていってしまった。
被害者と言ってもそう大きな損害をこうむった訳でもなく、さっちゃんによってその犯人も捕まっている為が思っていたよりか早く開放されたのだが
それでも大分時間を取られた事もありは急いで店へと戻ろうとしていた。
「それじゃあ、私はもう行くわ」
「はい、今日は本当にありがとうございました。助かりました!」
「別にたいした事じゃないわ。それより、あまりボケっとしていると横から私が銀さんを掠め取っちゃうわよ」
気をつけることね。と言いながらなんとなく楽しげに笑みを浮かべているのはどうしてだろうなどと、考えつつ答えは見つからない。
「わかりました」と言葉を返すことで二人の会話はそこで途切れた。
さっちゃんもこの後バイトが入っているらしく二人はそのまま屯所前で別れ、は振り返ることもなく自転車を漕ぎ出す。
午前よりも幾分か温かくなった風。しかし自転車を漕ぎ頬を掠める風はやはり冷たい。
途中赤信号に引っかかり自転車を止めなんとなく周りを見渡せば、横断歩道の向かい側でジャンプを立ち読み信号待ちをしている男が視界に入る。
そう言えば今日は月曜日だったと思い出し、今頃銀時は愛車を走らせコンビニを梯子しているだろう事を想像した。
「ただいま、朔さん! すいません、遅くなってしまって・・・実は・・」
「屯所から連絡がきてたから大丈夫よ。それより怪我は無かったかしら?」
「あ、はい」
の返答に笑顔を浮かべる朔。誰かはわからないが気を回してくれたらしい事に感謝をして、店の横に自転車を置きに行った。
着替えてが接客に入って暫くしてから、電話がけたたましく鳴り響く。
気付きすぐに出ようとしただったがそれより先に朔が出たのを確認してすぐに接客へと戻る。
時間にしてほんの数分。朔は電話を切るとを呼んだ。小走りで朔の元へと行けば、言われた言葉に笑顔が凍りついた。
「さん。銀さんが事故にあったって・・・・」
「・・・・・え?」
詳しい話はわからなかった。それに今何を言われたとしても頭に入らないだろうと朔は判断し、とにかく病院へと向かうように言う。
前掛けを外して病院へ向かって走り出したは、息を切らせて病院へと駆け込んだ。
受付で銀時の病室を聞き、走るなと言う注意すらも無視をして病室へと向かえば、新八達がすでにそこにいた。
「あのっ、銀さんは!?」
「あ、さん・・・!」
「心配いらんよ。車にはねられたくらいで死ぬタマかい」
「ジャンプ買いに行った時にはねられたらしいネ。いい年こいてこんなん読んでるから、こんな目に遭うアル」
息を切らせて走りこんできたを尻目にまるで談笑とも言えるような軽い空気。
神楽達の様子に安堵した新八とだったが、加害者である男の姿を見てその態度を一変させた二人の姿に新八との心は一つになった。
その騒ぎを注意する看護婦が病室の扉を勢いよく開ければそこになだれ込んでいく新八たち。
は少し遅れて中に入れば、さきほどのお登勢の言葉そのままに、外傷は酷くは無い。
「なんだィ、全然元気じゃないかィ」
「心配かけて! もうジャンプなんて買わせないからね!」
「たいした怪我もないみたいで良かったです」
また先ほどのように安堵が混じった軽い空気が流れ出すが、それは銀時の一言で一変する。
「一体誰だい君達は? 僕の知り合いなのかい?」
何の冗談だと言いたかったが、しかし普段絶対に言わないだろう口調と態度でその様子は本物だと理解する。
まさかの記憶喪失にもどうしていいのかわからない。
「事故前後の記憶がちょこっと消えるってのはよくあるんだがねェ。
彼の場合、自分の存在も忘れてるみたいだね・・・。ちょっとやっかいだな」
「や、やっかいって・・・そんな・・・」
医者の言葉に呆然とするだが、しかしこればかりは手術や薬でどうにかなるものでもない。
「人間の記憶は木の枝のように複雑に絡み合ってできている。
その枝の一本でもざわめかせれば、他の枝も徐々に動き始めていきますよ。 まァ、あせらず気長に見ていきましょう」
怪我のほうは医者の方でできる限りの事をしてくれたのだ。
あとは周りにいる人間がしっかりしなければならないだろうと、は気持ちを切り替えるようにして小さく頷いた。
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