前へ進め、お前にはその足がある
>絆 -act05-
「あの人も意外に真面目なトコあるんスね。不正が許せないなんて。ああ見えて直参ですから報酬も期待できるかも・・・」
沖田を賞賛しているかのように見えた台詞だが、本音がでてしまっている。
「私、アイツ嫌いヨ。しかも殺し屋絡みの仕事なんて、あまりのらないアル」
こっちはこっちで本音など包み隠していない。
「のらねーならこの仕事おりた方が身のタメだぜ。そーゆー中途半端な心構えだと思わぬケガすんだよ、それに。
・・・狭いから」
ガタガタと揺れる駕籠の中で四人は互いに身体を寄せ合っていた。
この狭い中、四人と言うのはそもそも無理がある。しかし捕まえられた駕籠は生憎この一つだけだったのだから文句は言えない。
誰一人として降りるだの、やっぱり行かないだのそんな事を言う者は居ないし、降りろとも誰も言わない。
言ったとしても「お前が降りろ」と返されて終りだろう。
駕籠から落ちないようには重心を気にしていれば突然神楽から「は指紋ネ」と言われた。
体の一部としての位置付けではなんとも言えず微妙である。
「オイ! 何ちんたら走ってんだ。標的見失ったらどーすんだ!!」
「うるせーな、一人用の駕籠に四人も乗せて早く走れるか!!」
「あん? 俺たちはな、四人で一人なんだよ。俺が体で神楽が白血球。が髪で新八は眼鏡」
「それほぼメイン銀さんじゃないですか。しかも私のポジションが指紋から髪に変わってますよ?」
ちゃっかりとベースを自分にした銀時の発言には迷わずツッコミを入れた。
ついでに言うと指紋もそうだが髪も微妙である。その位置付けに激しく異議申し立てをすれば、先ほどと寸分も違わぬ口調で言われる。
「基本を俺にしても、どうせ変われるならサラッサラのストレートヘアーになりてーじゃねーか」
「自己中!」
己の願望には忠実に生きる男、それが坂田銀時だ。改めては己の中での銀時と言う人物を顧みた。
だがそれは願望じゃなく欲望という名の単なるわがままだと同時に脳内で一刀両断。
ついでに出された皆の意見を取り入れた姿で想像すると、とんだ化け物の誕生だとは冷や汗をかいた。
「あっ! 止まりましたよ」
新八は外を窺い鬼道丸が駕籠から降りたのを確認すると全員で一斉に駕籠から飛び出し後を追おうとする。
態とだと思えるほどに銀時の的確な個所を踏みつけ、頭を押しつけ飛び出した二人。は踏まないように銀時が素早く立つのを待った。
後ろから駕籠屋が代金について叫んでいるがここは聞かなかったことにしておこう。
良心が痛まないわけではないが一人でなければ痛みも分けられる。赤信号皆で渡れば怖くない原理である。
そうは思うものの、他の三人は特に代金を支払っていないことなど『ま、いっか』で終わらせてしまうだろう事もなんとなく予想できていた。
やたらと広い敷地の中に入り、茂った植木や木々に身を隠しながら奥へ進んでいけば廃寺が建っている。
微かに途切れがちに聞こえた叫び声のようなものに、は息を呑む。
「・・・お前らはここで待ってろ」
「銀さん!!」
身を屈め素早く濡れ縁へと近づく銀時を、茂みから見守っていたたち。
だがその背後に見慣れない男がゆっくりと気配を殺しながら近づいていた。
銀時の名を呼んで気付かせるべきか否か悩んだが、答えが出る前に男は行動を起こす。
「どろぼォォォ!!」
叫び声もなく、銀時は崩れ落ちた。
あまりの光景にどうして良いかわからない新八は立ち尽くし、神楽も黙ってみている。
に至ってはあまりの事に口元押さえ目を逸らし、倒れた銀時を哀れんだ。
子ども達の走り回る廃寺の中は、外観など気にならないほどに明るい。幼い子どもの戯れる独特な甲高い声が響き渡る。
神楽は子どもたちの遊び相手になり、他の三人は男と向かいあっている
申し訳ないといいながらも、妖しいからと言ってついぐっさりは無いだろう。だがあまり深くツッこんではいけないと、は大人しくしていた。
「だがそちらにも落ち度があろう。あんな所で人の家をのぞきこんでいては・・・」
「申し訳ないです」
「スイマセン、ちょっと探し人が・・・」
新八の言葉に微かに反応を示したかのように見えたが、特に態度が変わったわけでは無い。
鬼の面を被ったものなどがこの廃寺に居るとなれば、少なくとも動揺するはずなのだが。
「三下の鬼なんざ興味ねーよ。狙いは大将首。立派な宝でももってるなら別だがな」
「それじゃ盗賊か山賊です」
「宝ですか・・・。しいて言うならあの子たちでしょうか」
銀時の山賊まがいの台詞に冷静に返したはずだが、男の言葉と共に表れた鬼の面に驚き、一瞬脳の動きが止まったような錯覚を覚える。
皆一様に叫び、知らぬは襖を隔てた向こうの部屋にいる神楽だけだ。
どういうつもりなのかと問えばそれをそっくりそのまま返された。反論などできない。
「私が煉獄関の闘士、鬼道丸こと・・・ 道信と申します」
縁側で並んで座り出されたお茶を一啜りすれば、目の前では子どもたちが楽しそうに遊んでいる。
自分の事を鬼と呼ぶが、子ども達の表情を見れば心からの鬼では無いとは思えた。
血の繋がりのない子どもをここまで大事に育てられるのだ。真の鬼ならば、その様な真似はしないだろう。
「今も昔も変わらず、私は人斬りの鬼です」
「道信さん・・・」
だが道信の言葉は、の思いを否定するようなものだった。
真っ直ぐと子どもたちを見据える目は、大切な物を守る為の決意が宿っている。
隣で新八が眼鏡を子どもに掠め取られそれを取り返すため、走り出した。
それを目で追いながら、周りに居る子どもたちの顔を一人ひとり見ればどこ子どもの目にも陰りなどない。
「・・・最初に子供を拾ったことだって、慈悲だとかそういう美しい心からではなかった。
心にもたげた自分の罪悪感を、少しでもぬぐいたかっただけなんだ」
「・・・そんなもんだけでやっていけるほど、子を育てるのはヤワじゃねーよ。なァ? クソガキ・・・」
銀時の言葉に道信は何も言わず、新八の眼鏡を取った子供が戻ってきて声をかけるが何も反応を示さない。
それをみて銀時が道信を苛めたと思ったのか、純粋なままに抗議する。
道信は自己を保つ為に子供を拾ったといっていたが、銀時が言うようにそんな簡単な事では無いだろう。
確かに初めこそそうだったかもしれないが、そこに愛がないと言えばうそになる。
『親』としての愛情がなければ子供は、道信をこの様に慕って、様子がおかしければ心配するなどと言う事はしないだろう。
先ほどは心からの鬼では無いと思った自分の考えを否定した。
大切な物を守る為に、心に鬼を宿しているのかもしれない。
もしかしたらあの鬼の面は、守るべき者達の為に心を鬼にする為の物だったのだろうか。
「オイ、帰るぞ」
もちろんそれらはの憶測だが、それでも子供たちの笑顔は本物だ。
道信のやっている事が、だからといって許せるものであるわけではないがそれをとやかく言える立場では無い。
子供の時に心の底から笑える事が、どれほど大切か。
それを知っているは、廃寺を出る前にその思いを込めて遠くに見える道信へと深く頭を下げて、そこを後にした。
どうか、この子ども達の笑顔を守って下さい。
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