前へ進め、お前にはその足がある
>絆 -act04-
沖田に会った後、ついて来いと言われ来た場所。薄暗く妖しい雰囲気が漂っているそこをは、視線を泳がせながら歩いていた。
最初は妖しい建物などが所狭しと並ぶ狭い路地を右へ左へ。気付けばいつのまにか建物の中へと入り、今は地下へと潜っている。
こんな所ではぐれたら二度と地上へ戻れないのでは無いかと思えるような入り組んだ道を歩きながら
は銀時の着物の裾を掴み歩く。後ろで途中神楽が妙なものに気を引かれたがそれは新八が引っ張ってやめさせた。
「オイオイ、どこだよココ。悪の組織のアジトじゃねェのか?」
「アジトじゃねェよ旦那。裏世界の住人たちの社交場でさァ」
話だけ聞いていれば映画の中のような世界だ。と言う楽観的な意見で終わらせられただろう。
しかし今目の前に、その世界が広がっているのだ。正直はその先へ進みたくは無かった。
の気など知らず沖田は更に歩みを進め、奥へ奥へと向かっていく。
気付けば先ほどとは少し様子が違う、整備された細い通路を歩いていた。
「ここでは表の連中は決して目にすることができねェ、面白ェ見せ物が行われてんでさァ」
声と言うよりも、大きな音として聞こえる歓声が響く。
通路をでて見れば、人も天人も関係なく集まった場所に出た。一体何だというのか。
気になったは銀時の後ろから離れ前へと一歩進む。
「こいつァ・・・・ 地下闘技場?」
銀時の言葉を聞きながら視線は闘技場の真ん中に立つ二人へと向けられ、外せなかった。
「煉獄関・・・」
周りの五月蝿いほどの歓声に紛れて聞こえる沖田の言葉一つひとつが。
「ここで行われているのは」
の中で目の前の光景と共に意味を持って響く。
「正真正銘の」
今まで目にしたことの無いような多量の赤が、舞った。
「殺し合いでさァ」
「・・・・っ!!」
一瞬上がりそうになった小さな悲鳴すら、強く唇を噛んでいた為出なかった。
周りの歓声も、勝者を高らかに告げる声も。隣で話す銀時たちの声すら早鳴る鼓動で邪魔され何も聞こえない。
手すりを掴んだ手が震え、強く掴んでいる所為か白くなった指先の感覚がなくなっている。
呼吸は短く浅い為にやけに息苦しい。
今目の前で起こった事が現実であるにもかかわらず、の目の前は霞んで靄がかかったようにしか見えなかった。
闘技場の真ん中に立つ鬼の面を被った人物はその視界に映ってはいるが、脳が処理しきれていない為に何も映っていないのと同じ状態。
瞬きすら忘れた目は乾き、痛みが一瞬走った事でやっとそのことに気付いた。
一度瞬きをすれば霞んでいたものは明確に映るようになり、くぐもった音は全てクリアに聞こえてくる。
「だから、どーかこのことは近藤さんや土方さんには内密に・・・ それと旦那。もしこれから行くっていうならお姫様はウチで預かっときますぜ」
「?」
沖田は固まったままのの方は一瞥もくれず銀時へ告げれば、の様子がおかしい事にやっと気付く。
ずっと闘技場を見つめたままだったも沖田の声に反応して肩をビクリと揺らし、振り返った。
「おい、大丈夫か? 真っ青だぞ」
「・・・ぁ・・・・」
「・・・・・しゃーねェな。ワリーがコイツつれて戻っててくれや」
の頭を軽くたたきながら沖田へそう言いつつどこかへ行こうと背を向けた。
その後を追おうとするが足が上手く動かない。新八と神楽も心配そうな顔で振り返るが、銀時と同じ様に頼むと言って去ろうとする。
沖田は何も言わずにの隣に立って三人の背を見ていた。
通路の向こうへ消えようとしている背中。一度視線を外して、自分の足元を見る。
震えて動かない足を内心で叱咤する。動けと何度も叫び、動くはずだと暗示かける。
今、ここで動かねばこの先一生かかって後悔してしまうと。
強く。強く。
「・・・・・やです・・・・」
呟かれた小さなの声は周りの止まぬ歓声に飲まれて聞こえるわけもない。しかし銀時はその足を止めた。
今度は真っ直ぐにその背を見つめて、はっきりと告げる。
「いやです。私も、行きます」
「・・・、てめーの言ってることの意味、わかってんのか?」
「わかってます」
「これからやる事の意味はわかってんのか?」
それには返事も出来ず頷く事も出来なかった。きっと想像しているような生易しい事では無いだろう。
「さっきみてーな事が、今度は間近で起こるかもしれねェ。怪我をするかもしれねェ」
それでも来るのかと言外に含みながら振り返った銀時と視線がかち合った。
「痛い思いをするかもしれません。想像している以上の事が起こるかもしれません。
それでも、私は目を瞑って耳を塞いで守られてばかりは嫌なんです。
みんなの後ろを見て歩きたくない。歩くなら、その隣を歩きたい」
視線を逸らさず真っ直ぐに見つめながらは皆へ聞こえるよう、自分へ言い聞かせるよう。
その思いをはっきりとした言葉に変える。
「守ってもらう保証なんかない事だってわかってます。自分の身だって守れるかどうかの保証もありません。
それでも、私はまた立ち止まって歩けなくなる方がもっと怖い。
そんな思いをするぐらいなら、私は傷ついても歩きつづけてやります」
「・・・・・たく、誰に似たんだかオメーも大概頑固だからな。 オラ、行くならさっさとしやがれ」
銀時は言いながらまた背を向け歩き出す。
もすぐに駆け出し、その隣へと立つと共に歩き出し神楽と新八も迷わずついて行く。
通路の奥へと消えて行く四人の背中を沖田はただ見つめていた。
「守られてばかりのお姫様かと思ったら、とんでもねェ。なかなかの根性の持ち主だったか・・・。
気に入りましたぜ、さん」
呟かれた沖田の言葉は誰に聞こえるわけもなく、周りの歓声の渦の中に静かに融け、消えていった。
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