前へ進め、お前にはそのがある

>絆 -act03-







朝ご飯が終わった後の万事屋の居間で、銀時とは軽く睨みあっていた。
傍らでその様子を無言のまま見守っている神楽に新八、そして定春。
睨みあいをし始めたっぷり五分は経過しただろう。二人は同時に動き出した。
素早く出された互いの片手。銀時はグーを出しはチョキ。それはジャンケンであり見事にの負けである。
勝負の結果が出た瞬間、銀時はそのまま拳を空へ翳しは項垂れ膝を折る。


「うあー!!! 三日連続負けた!!」

「甘いな。銀さんに勝てると思ったかァ? つーことで、今日も朝の定春の散歩はオメーだ」


最近は四人でジャンケンをして誰が定春の散歩をするか決めている万事屋メンバー。
一番なついている(扱いなれている)神楽が散歩をするのが一番なのだが、定春も立派な坂田ファミリーなのだから、皆で散歩を交代しよう。
そう言い出したのはもちろんである。しかし話し合いなどで決まるほど、融通の利く者など居らず、結局はジャンケン制になったわけだ。
先ほどのの言葉通り、ここ三日は連続で負けている。その前は新八が五日連続だった。そのため誰も止めはしない。


「じゃあ、行ってきまーす」

「「いってらっしゃーい」」

「昼までには戻れよー」


リードを持ち玄関を出て空を見れば雲一つない快晴。
昨日の天気予報では曇りだろうといっていたが、予報は予報。外れる時もある。
決まった散歩コースをのんびりと歩くと定春。しかしたまに不意をついて走り出されたりもするため、油断は出来ない。
正直どっちが散歩されているのか分からないが、深く考えないほうがいい。
一通り回り、あとは真っ直ぐ万事屋へと帰るだけとなった時、目の前から歩いてくる人物二人を見つけた。


「あ、こんにちわ」

「おや、さんじゃねーですかィ」

「またアンタか」

「はい。今日もジャンケン負けちゃいました」


散歩の時間とコースが、どうも土方と沖田の市中見回りにぶつかるらしくこの三日間この辺りで会っていた。
初日にジャンケン制になったと話せば、沖田からはチョキは目潰しに調度良いとかジャンケンのルールを無視したアドバイスを貰った記憶がある。
とりあえずそれは苦笑いで終わらせておいたが、沖田とは絶対にジャンケンはしないでおこうと密かに心に誓った。
「銀さんに昼までに戻れといわれているので」と言っては挨拶もそこそこにすぐに歩き出した。
小さくなるの背中を見て土方は肺にたまった煙を吐き出すと「あいつはお母さんか」と呆れた様子でつぶやく。
昼まで戻れといっておけば、真面目なならそれまでに戻るだろう。多少時間が前後しても問題は無い。
昼が過ぎ、何時間経っても帰ってこない場合は何かあったことが暗にわかる。そのための言葉なのだろう。


「さしずめさんは万事屋のお姫様って所ですかねィ。自分が守られている事に気付いているのやら・・・」


沖田の言葉に土方は答えを返すことなく、無言のまま仕事に戻った。











あれから二週間ほど経ったある日。
新八は朝から異様な気配を纏っていた。正直は恐くてあまり話をかけられずにいる。
だが、その格好を見れば大体何があるのかなど予想はつく。きっとこれからお通のライブに行ってくるのだろう。
しかし今は別の意味で空気が重い。
新八はライブ前の昂ぶりによってピリピリしているのだが、銀時は今朝目が醒めず結野アナを見れなかった事でやたらと苛立っている。
そのため新八の放つ空気は余計に銀時の神経を逆なでしてくるため、その怒りの矛先は自然と新八へと向けられた。


「おい新八。俺は他人の趣味とかまでとやかく言うつもりはねーよ。
 でもなー、その情熱をどうしてもっとこう・・・別の方へ向けられねーわけ?」

「そう言う銀さんこそ、普段やる気がないおかげで常にギリギリの生活を強いられているんですよ。
 アンタも少しは真面目な人間に変わろうとかいう気は無いんですか?」

「俺は俺のルールに従って生きてんだよ」

「僕も僕のルールに従って生きてるんです」


二人の会話は向かい合った状態で、互いに目線を外さずに交わされている。
正直隣に座っているは居心地が悪い。普段の状態なら、特に気にするないようでもないのだが今はまるで一触即発のような状態に思えた。
何か上手い話題転換はないかと思考を巡らせるが、どうにもこの張り詰めた空気を和ませる話題が見当たらない。
の気など知らず新八は静かに立ち上がると銀時を見たまま静かに言った。


「いいでしょう、銀さん。生き方を変えるのがいかにその人を輝かせているのか、その目で見てもらいます」


いつも以上の気迫に押され、三人はとりあえず新八に着いて行く事にした。










青空の下、高々に掲げられた『大江戸女傑選手権大会』の幕。
新八についていったはその幕を見て一抹の不安を覚えたが、今はその不安が形となって目の前にあった。


「・・・で、その輝くアイドルは歌って戦うアイドルへと生き方を変えたんですか」

「お通ちゃァァァん、いけェェェェェ!!」

「いやいや、いけーじゃねーよ。止まった方がいいよ彼女・・・、変な方向にいっちゃってるよ」

「確かに・・・・」


何時ぞや会った時にはもう少し先を見て歩く堅実な子だと思ったのだが、今の中でお通の人物像が激しく書き換えられていった。
とりあえず新八にとって彼女の生き方は輝いて見えるのであれば、これ以上何も言うまいと口を噤んだ。
隣に立つ銀時へ、輝いて見えるかどうかと耳打ちをそっとすればむしろ風前の灯のように見えると返って来た。
とんでもない発言だがやけに納得してしまう部分もあり、否定が出来ないのも事実。
溜息をついて隣を見ればいたはずの神楽の姿がない。一体どこに行ったのだろうと周りを見回せば、すぐにその所在は明らかになった。


「えー、夢とはいかなるものか。持っていても辛いし、無くても悲しい。
 しかしそんな茨の道さえ己の拳で切り開こうとするお前の姿・・・ 
感動したぞォォ!!


リング上での乱入者騒ぎ。その中心が神楽であった事実をは目を逸らしたくなった。
客席に呆然と立っていたの腕を取り、銀時はさっさとそこから退散する。その隣を自然と新八も着いて歩いた。


「・・・ヤバイよ、俺しらない。俺しらないよ」

「僕もしらないよ。アンタのしつけが悪いからあんなんなるんでしょーが」

「何言ってんの? 子どもの性格は三歳までに決まるらしーよ」

「でも明らかに銀さんの悪い影響も受けているんじゃないですか?」


現実から目を背け、ちゃっかり神楽を置いて帰ろうとしていた三人の横からリング上へと野次が飛んだ。
それを聞き身を竦め目をそちらに向けないようにしたが、どうも聞き覚えのある声だった。


「・・・・あ、沖田さん・・・・」


予想外の場所で予想外の人物に会って思わず、は間の抜けた顔で沖田の顔を凝視してしまった。





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