前へ進め、お前にはそのがある

>絆 -act02-







隊士たちとは別室で近藤はうなされていた。赤い着物の女とうわ言のように繰り返している姿は不気味だ。
だが沖田はそんな近藤に対しても寝言はみっともないで一刀両断。心配しているのかいないのか、ものすごく解り辛い。
隣では泣かした女が原因だ、違うの押し問答が繰り返されていた。


「沖田さん! それキマってます! 川の向こう側逝っちゃいます!!」

「違いますぜ。こうやって近藤さんの中の悪いものを吐き出させてるんですさァ」

「悪いものっていうか、
近藤さんの魂吐き出されてますから!


容赦なくチョークスリーパーをキメている沖田をとめようとは必死になっているが、沖田の手は更に深く入っていく。
オロオロしているの隣では幽霊なのでは無いかという話題まで発展していたが、正直幽霊より目の前にいる沖田のほうが怖い。
よく霊よりも人間の方が恐いという人がいるが、今の状況がまさにそれだろう。


「アホらし、つき合いきれねーや。オイてめーら帰るぞ」

「銀さん・・・ 何ですかコレ?」


やっと近藤の首から手を離した沖田にホッとしていたの耳に届いた新八の声に顔を上げれば神楽と新八の手を握る銀時の姿があった。
本当になにやってんだこの人は、という視線を向けたがそれを気にせず銀時は恐いだろうからと言うが、なにか妖しい。


「おい。銀さんの両手は塞がってるからオメーは俺に抱きついてなさい」

「いや、お互い歩き辛いと思うんでいいです」

「なんだよ。オメーの為を思って言ってんじゃねー 
「あっ、赤い着物の女!!」



言葉に被るように聞こえた沖田の台詞にものすごい勢いで反応を示した銀時。
襖の中へと頭からつっこんでいった姿に、先ほどまでの一連の行動の意味と真意を理解した。
だがは銀時よりもなにより、の横を勢いよく通り過ぎ壺の中に頭を突っ込んでいる土方に驚く。
振り返った沖田聞けば言い訳の内容は銀時とは違うものの、本質は同じだった。
呆れた顔をして去ろうとする神楽と新八にさり気なく手を引っ張られ、は足をもつれさせながらついていく状態となる。


「待て待て待て! 違う、コイツはそうかもしれんが俺は違うぞ」

「びびってんのはオメーだろ! 俺はお前、ただ胎内回帰願望があるだけだ!!」

「いや、それもどうかと・・・」

「わかった、わかった。ムー大陸でもマヨネーズ王国でもどこでもいけよクソが」


「「なんだ、そのさげすんだ目はァァ!!」」



最後の二人の叫びは聞こえていなかった。
ただ、は一点を集中して視線を外せずにいる。神楽もそれに気付いたのか同様に固まり、掴まれた手に力が込められた。
他の二人もそれに気付いたのだろう。皆同じ所を見つめ固まっている。
四人の変化に対して銀時と土方はただの悪戯かと思ってまったく緊張感が無い。




「ぎゃああああああ!!」

「オッ・・・オイ!!」



叫び走り出した新八と神楽に引っ張られ、もその部屋から逃げ出した。
初めは引っ張られているだけだったが気付けば自分の足で確りと逃げる為に走っていた。


「みっみっみっ、見ちゃった! ホントにいた! ホントにいた!」

「銀さんと土方さん置いてきちゃったどうしよう!!」

「銀ちゃああん!!」

「奴らのことは忘れろィ、もうダメだ」



言いながら走りつづける足は止まらず、と新八は後ろを見ていたが大きな音と共に二人はあの場を切り抜けてきた。
しかしその後ろに、見てはいけないものがおまけでくっついてきている。
それを見て4人の走る速度は更に上がった。後ろかななんで逃げると言う声が聞こえるが、それは振り返ってみれば分かると内心で答える。
4人はひたすら後ろを振り返らず、持てる力全てを脚力へと変換し逃げに逃げた。
突然沖田が庭に出たとおもったら「こっちだ!」と蔵の中へと入っていった。それに迷う事なく続く3人。
中へ入り扉を閉めたところで、の足の力は底を尽きた。ぺたりと座り込んだと同時に、遠くで断末魔が聞こえる。


「やられた。今度こそやられた」

「しめたぜ、これで副長の座は俺のもんだィ」

「言ってる場合か!」


は頭を抱え少し奥の方で体育座りをしてうずくまっている。鼻先につんとした独特の匂いが漂った。
顔を上げれば沖田がなぜか懐から蚊取り線香を取り出して火をつけている。常備するようなものでもないだろうに。
しかし今のにはそれをツッこむ元気すらない。その分神楽は沖田へと掴みかかっていくが、それを新八が止めようとしている。
の視線はそんな彼らの姿を通り越して、少しだけ開いた扉の方へ釘付けになってしまった。すぐ後に新八も気付く。




「ぎゃああああああああああ!!」




本日二度目の絶叫だった。目の前ではものすごい勢いで土下座をする新八と、頭を床に叩き付けられる神楽と沖田の姿がある。
しかしは目を見開いたまま、必死な新八の謝罪の言葉を遠くに聞きながら視線は扉の隙間に釘付けだった。
だが意識は別の方へ飛んでしまっているため、その目に映ったものをしっかり脳で処理しきれていない。気付けば赤い着物の女の姿は無かった。
今だすいません、ごめんなさいと繰り返す新八へ、恐る恐る声をかける。


「あの、新八君・・・・」

「僕なんて食べてもおいしくない・・・ ん?」

「居なくなっちゃった・・・・」

「な・・・なんで  ?」


視界に入ったのは倒れ気絶した沖田の手から煙を緩々と上げる蚊取り線香。
それを見て何かわかったのか、新八はへ二人を頼むといって出て行ってしまった。


「え! ちょ、・・・・・・行っちゃった・・・」

開け放たれた扉を見つめながら、呆然と立ち尽くしす。は倒れた二人を見て、苦笑いを浮かべた。

「姉も姉なら、弟も弟だ・・・・怒らせないように気をつけよう・・・・」



結局幽霊騒動は天人によるものだったという、なんとも人騒がせな結果を残して解決した。
夜も遅いからという事と銀時たちの口八丁によってその日一晩は皆部屋を借りて屯所に泊まることとなった。
目を覚まして顔を洗いに行った後、は昨晩の騒動を思い出す。本当に散々な目にあったものだと溜息をついたが
庭に逆さ釣りにされた赤い着物の女の姿を視界に入れ、今回の騒動を起こした理由が途切れ途切れに聞こえた。
その内容から考えればとてもいい人(?)なのだろうが、しかし結局他人に迷惑をかけたことに変わりは無い。
今回の事に一番の被害者などというものは無いのだろう。
そう結論付け歩いていた先には、縁側に座る土方と寝転がる銀時の姿。無事であった事は喜ばしいが、正直見捨てたという事実が良心を痛ませる。


「あの・・・すいませんでした」

「は? 突然何? どうしたの?」


見捨てて逃げた事を謝ったのだが、本人はまったくそんな事は気にしていないらしい。
むしろ何に対して謝られているのか、皆目検討がつかないといった表情だ。それならそれでいいのだが、とはそれ以上は何も言わなかった。
なにか言ってそこを漬け込まれでもしたら嫌だし、何より口先では絶対に負ける自信がある。
だからだろうか。はなにか言われる前にすぐに手が出る。頭を鷲掴めばとりあえずはそれ以上なにも言ってこなくなるからだ。
まさかがそんな事を思っているとも知らず、銀時と土方はビビっただのビックリしただのと正直どうでもいい言い争いをしていた。
いい年した大人二人が一体なんの言い争いだと呆れながら、声をかけようとしたとき。


「銀ちゃん、そろそろ帰・・・」


「・・・なにやってるんです二人とも?」




「「いや、コンタクト落しちゃって」」




コンタクトなんかしてねーだろ。思わずそうツッこんでしまいそうだったが何とか耐え、そっとしておこうとただ溜息を零しただけだった。





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