前へ進め、お前にはそのがある

>絆 -act01-







夏の暑さもまだまだ続いているある日。万事屋では四人がぐったりとした状態で項垂れていた。
新八は弱々しく机の上に置いた貯金通帳を、生気の宿っていない目で見つめる。


「銀さ〜ん・・・もういい加減仕事しないと、貯金の中身は風前の灯です。僕等の命も風前の灯です」

「新八よォ。よく考えろ。俺らは消える寸前、一際輝く炎なんだ。常に輝いてるんだ」

常にギリギリだって事じゃねーか! 全然解決になってねーよ! ・・・あ、駄目だ。大声出したらめまいが・・」


普段ならば一刀両断の切れのいいツッコミも、連日続く暑さと空腹に参ってどこか力が無い。
神楽は扇風機に張り付き、首の振りにあわせて自らも動いている。


「でも銀さん、私のバイト代だけじゃもちませんよ。そろそろ万事屋の仕事しましょうよ」

「あー・・・・つってもなー、やる気が全然ね・・
 ぇぐっ!!!


「銀さんがやる気無い分、私の中で銀さんを殺る気が一気に増えました」


「すっげやる気出たァ! 今すぐにでも仕事したい気分だよコレ! だからお願い、
手を外してください!!



銀時の言葉が終わる前には机へ身を乗り出してその頭を鷲掴み満面の笑みを浮かべた。
先ほどまで暑くてたまらなかった万事屋の居間の空気はそれによって、少しだけ冷えた気がする。
力を込められる前にと銀時は慌てて弁解すれば、その手は素直に離れていく。


「ところでお前、バイトはどうしたんだよ?」

「朔さんが、夏の間田舎に戻ってお墓の手入れだの挨拶回りだのするから、長期休み貰ったって昨日言ったじゃないですか」


の言葉に「そうだっけ?」と首をかしげていれば扇風機に煽られながら神楽は「ボケの始まりアルヨ」と悪態をつく。
だがやはりその声に元気は無い。
そろそろ本気でクーラーがほしいが、扇風機にこだわる銀時がそれを却下する。理由は聞いたがそれも金が無いの一言で終わってしまった。
このままいつものようにダラダラと仕事を待っていても仕方がないのだが、どうにも皆やる気が出ていない。
それなら夏季限定の仕事などなら、給料もいいのではないかという新八の案に反応し銀時は少し身を起こした。


「そう言えばこの間、近所の子達が言ってたネ。夏になると拝み屋をよく呼ぶとか」

「拝み屋? 何だ? そいつの家は毎年夏には何か出るのか? 呪われた家ですか〜?」

「一種の縁起担ぎのようなものじゃないですか? 憑き物を落として新しい季節を迎えよう、みたいな。
 けっこう今はそういったものもあるらしいですよ」


新八の言葉にフムと考え始めた銀時。
だがはそもそも拝み屋というものがどういったものかわからない為、一体何の仕事なのかと隣に居た新八へ聞く。
ようはお払いなどをする人だと聞いたところで突然銀時が「よし!」といいながら立ち上がる。
一体何事かと皆が銀時へと注目した。


「俺らはこれから拝み屋だ。テメーら適当にそれらしい格好しろ」

「え、だって私ら誰もそんなことできないですよ?」

「いいんだよ。こんなもんつまりは気の持ちようだろーが。悪いもん祓いましたーって言えば向こうは懐から金払ってくれるんだからよー」


悪いもんはお前だろうが。そう言おうとしたが、他の二人もすでに銀時の考える事はわかっていたらしく。
しかも生活がかかって居るというなら背に腹は変えられないとばかりに、二人ともかなりやる気だ。
その中は一人立ち尽くし、どうしたもんかと考えていたが銀時によってせかされ、結局顔が隠れるような格好をこの暑い中する羽目になった。









「で、銀さんに言われるままにやったら人生初の逆さ釣り体験ですよ。何の仕打ちですかこれ?」

「よかったじゃねーか。初めての体験って言うのは貴重なんだぞー」


こんな妖しい集団、誰が声をかけるものかと腹を括って外に出て触れ回っていた銀時たち。
もちろんの予想は当たっていて、誰一人として声をかけるものは居らず。あまつさえ面白いように人が避けて歩く。
妙な鼻めがね少年とグラサンチャイナ少女に包帯で顔を覆う青年。それだけでもかなり異様な姿だというのに、に至ってはこれから拳銃もって強盗に行くぜ!
と言ったような覆面をして顔半分を隠しているものだから余計に近寄れないオーラが全体から漂って居る。
そんな中突然声をかけられれば驚くのは当たり前であり、振り返ればそれが見知った顔だったのにも驚いた。
真選組に今、やっかいなものが出るという話では内心これは関わったら色んな意味でやばいのではないかと思っていたのだが
しかしの心配などまるでわかっていない銀時は二つ返事で「任せなさい」などと言ってのける。
大丈夫なのかと本気で不安だったが、止められるわけも無かった。結局自分たちの正体がばれて今は庭の木に逆さ釣りにされている状態となって居る。



「いだだだだだだ! 何コレ! なんか懐かしい感覚! 昔プールで溺れた時の感覚!」


血が頭にたまりつつあるは、ボゥっとしながら隣を見れば銀時が思い切り鼻へと水をかけられている最中だった。
缶の中に入っている水全部を銀時の鼻にかけ終えると、涼しい顔の沖田は心なしか楽しそうに見えた。
そもそもあんなバカな提案、断固阻止するべきだった。しかしあの調子ではきっと言っても止まらなかっただろう。大体こんな事を考えたのは銀時だ。
こっちにまでとばっちりがきてしまったのは甚だ迷惑な話である。


「銀ちゃん、私頭爆発しそう、パーンって・・・助けて!」

「銀さん、私頭潰したい、パーンって・・・いいですか?」

「オーイ、いたいけな少女が頭爆発するってよォ!」

「あれ? 無視ですか銀さん? もしもーし、銀さーん?」





やっと下ろされたがずっと逆さ釣りだったせいで頭がグラグラする。隣では神楽が気持ち悪いと同じ様に倒れていた。
グルグルと回る視界を定めるのに何度も瞬きをしたりして眩しい空を見上げる。
土方の声がやけに遠くに聞こえたが、答える元気すらなくとりあえず体を起こした。
隣では神楽がトイレ一緒に行ってやろうかなどと言っていたが、それまでの会話は右から左だったにはまったく理解できない。


「武士を愚弄するかァァ!! 
トイレの前までお願いしますチャイナさん」

「お願いするのかいィィ!」

「近藤さん・・・・」


神楽にトイレへの付き添いを男らしく(?)頼んだ近藤はそのまま神楽とトイレへと向かってしまう。
その後姿を見ていたへ銀時はついてってやれと言ってくる。
何故自分も行かねばならないのかわからないが振り返り銀時を見ればにやりと笑って言ってのけた。


「テメーも一人じゃこえーだろーと思ってよ」

「んな!? 怖くありません!」


頬を膨らませながら抗議するが銀時の笑い顔はそのままだった。ジト目でみやり溜息を零しながらはすぐに神楽を追いかける。
追いついた時にはちょうど近藤が中へと入ろうとしていたときだった。神楽の隣に立ち、共に近藤を待つ。


「はぁ〜・・・銀さんも、もう少し家計を顧みてほしいよ」


シンとした空間が思わぬ愚痴を零させた。
だが言ってもしかたの無い事だと言う事はもちろんにもよく解っている。それでも言わねば気がすまない時だってあるものだ。
何度となく甘味を控えろとも言ったが控える事はなく、日々糖分を摂取している。
パチンコをもう少し控えろといっても、気付けばパチンコへ行って擦られ青ざめて帰ってくる。
何度同じ事を繰り返せば気が済むのか。そう考えるともう溜息しか出す事が出来ない。そんなの肩を神楽が軽く叩いてくる。


、無駄な事ヨ。それならもうとっくの昔にこんな生活おさらばしてるネ」

「ごもっともです」

「でも大丈夫。お金がなくなっていざとなったら私が脱がすネ!

「誰を!?」



「ぎゃあああああああああああああ!!」



「「!?」」


トイレからの突然の叫びに驚き急いで中へと入った。
近藤が入っているであろう個室のドアを神楽は叩きどうしたのかと問い掛けるが返事が無い。
も一緒にドアを叩き呼びかけたが同じであった。
一体何があったのか。どうしたらいいのかと考えていた所に複数のかけてくる足音が聞こえた。
神楽の台詞に内心驚くが、今はそれどころでは無い。


「神楽、、どーした!?」

「チャックに皮がはさまったアル」

「あ!!」


だからそんな言葉一体どこで。そう思いながらも声には出せなかった。
ドアの前にいた神楽とをどけ、土方がドアを蹴破れば中には近藤が居た。とんでもない状態で。



「なんでそーなるの?」



銀時たちの呟きに、は口元を引きつらせて同じ事を思うしか出来なかった。





<<Ex04-10 /BACK /TOP/ NEXT>>