前へ進め、お前にはその足がある
>Ex..04-10 祭の後
祭がテロによって中止となり、源外は騒ぎが治まりきる前に姿を消した。
真選組が事態を沈静化させれば今度は銀時たちの方へとくるだろう。そうなればまた厄介な事に巻き込まれかねない。
そもそも幕府やお上の人間は好きではないのだ。関わらないで済むならばその方が良い。
沖田と共に暴れていた神楽をすぐに呼び、銀時達は源外が消えた方とは別に向かいその場を後にした。
暗い道を四人はいつもとかわらない歩調で歩いていたが、突然が「ギャッ!」と声を上げ
他の三人はその声に驚き呆れつつ、一体どうしたのかと振り返る。しかしなかなか上手く言葉にできないの声は震えているばかりだった。
「おい、一体なんだってんだ? ゴキブリでも見つけましたかー、ちゃん」
「ち・・・ち、血が!!」
「血?」
青ざめているわけではなく、ただ驚き目を見開いて指し示したのは銀時の左掌。
言われて自分の掌を見ながら「ああ、そう言えば」と高杉との久しぶりの再会を思い出す。
しかしだからといって気軽に話をしたわけでもなく、突然背後から刀を突きつけられたのだ。
どうして周りにはもっとまともな再会ができる奴がいないのかと考えたが、その答えは出てこないことも分かっていた。
昔の事など色々といってきたがそれら全部ひっくるめて拳で答えてやった。
自分の中のご立派な獣を自慢するから、こちらも中々馴れない立派な白い獣の名前まで教えてやった。
その為に突きつけられていた物騒な物を左手で確りと握ってしまった事を思い出したが、まさかそんなこと言えるわけもない。
「すぐに手当てをしなきゃ!」
「つってもなー、ここには包帯もなんもねーからな」
「じゃあすぐに帰りましょう!」
言いながらは銀時の右手首を掴みどんどんと前に進んで行く。
引っ張られるままになりながら、前を歩くの事を見つめてあの時わがままを言って本当によかったと思った。
もし一緒に居たのならば、どうなっていたかわからない。ただそれはの事が、というだけではなく。
を傷つけられたら。盾にでもされたら。
自分がどうなっていたかわからない。
ほんのちょっとした気まぐれのわがままで、大切なものを守れた事が何より嬉しかった。
そのわがままをなんだかんだ言いながらも、素直に聞いてくれたに感謝した。
しかしそんな思いをおくびにも出さず、銀時は引っ張られる右手に力を込めて少し踏ん張ってみた。
案の定、突然力を入れられ前につんのめりながらも掴んでいた手のおかげで倒れはせず、何をするんだと振り返りながらは目線で抗議する。
その表情に噴出しそうになるがそれを噛み殺していつものような口調で切り出した。
「なー、そう言えばさ、りんご飴は?」
「は? 今更何言ってんですか!? あんな事態になって飴が無事なわけないじゃないですか!」
「えー、俺金まで出したの・・ 「最初に私に奢らせようとしたのはどこのどいつですかコノヤロウ?」
笑顔で言いながら掴んだ手に力を込めた。しかし怪我を気遣ってか、いつものような痛みは感じない。
さり気無い優しさに、少しだけ調子に乗ってみる。
「なんだよ。俺怪我人だぞ。もっと優しくしてくれなきゃ、銀さん拗ねるぞ」
「そんな言い方しても可愛くありません。じゃあ、ここで膝抱えて拗ねてて下さい。笑顔で置いていきますから」
「そうヨ。こんなマダオにいつまでも構っていられないアル」
「じゃあ銀さん、短い間でしたが万事屋は今後僕等で切り盛りしていきますので」
さようならと言いながらその場を去ろうとする三人に文句を言いながらも、いつもの空気の流れに心地好さを感じる。
三人の後ろを歩き気付かれぬよう静かに笑いながら、いつのまにか掴まれていた右手から伝わる熱を静かに噛み締めた。
自分の手に比べて小さなその手は失ったものを求めて足掻いて、伸ばして、掴もうと必死だった。
今は大切な物を守る為に、失わないように心に秘めた強さを握り締めて前に進もうとしている。
気高いその魂が折れぬように。
優しいこの手が血で汚れぬように。
自分のこの手で守ってみせようと、心の奥深く、己の魂へと誓った。
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