前へ進め、お前にはその足がある
>歩き出せ -act04-
色々な意味で思い出に残る初めての宇宙旅行から帰ってきた昨晩、砂塗れ汗まみれの服をすぐに洗ったは、夜の内に干しておいた。
次の日になり昼を過ぎた頃にはすっかり渇いていたそれをとり込み、畳んでいたのだが、何かが足りない。
「・・・・ない・・・・」
の声はその狭い和室に居た他の二人にも聞こえている。
しかし二人には構わず、は窓から身を乗り出して外をキョロキョロと見回す。
「おい、落ちねーように気を付けろよ」
銀時の心配をよそには首を傾げならがブツブツと独り言を言いながら部屋を出る。
寝転がりジャンプのページの端を掴みながらそれを視線で追うが、まったく意に介さない様子にいくつもの疑問符が浮かぶ。
の行動を気にしないのは神楽に寄りかかられながら眠っている定春だけだ。
二人は暫くが出ていった襖の方を見ていればまた戻ってくる。襖に手をかけたままは小首を傾げながら質問してくる。
「神楽ちゃん、私のパンツ知らない?」
「知らないアル」
「銀さんは?」
「それで俺が知ってるって言ったらヤバイだろーが」
「大丈夫ですよ、銀さんはモテないけど犯罪には走らないって知ってますから」
「あれ? なんだろう。信じてくれている気持ちは嬉しいのに素直に喜べないよ、おい」
どこ行っちゃったんだろうと言いながら、銀時の言葉へはまったく返さずにまた洗濯物を畳み始めた。
頭の中でもう一度、洗濯物を持って歩いた道を思い出すがどこにも落ちていなかった。洗濯機の中も籠も先ほど見てきたが、なかった。
ではやはり外にでも落ちてしまったのだろうか。そう言えば昨日は少し風があった。飛んでいってしまったのかもしれない。
そう結論をつけて納得したが、はややあってそれはそれでかなり恥ずかしいと思った。
暫くして居間の方からけたたましく電話が鳴り響く。
無言のまま神楽と銀時は視線をかち合わせる、徐に立ち上がれば次の行動へ移るまでが早かった。
「「ジャンケンポン!」」
「あっち向いてホアチャアアアァァァ!!」
勝ったのは神楽であり、おまけのあっち向いてホイは見事に銀時の顎を狙い撃ちする。
派手な音を響かせ畳みに倒れた銀時は顎を抑えながら立ち上がり、覚えてろと言いながら電話へ向かったが、既にが出ていた。
殴られ損である。
電話の相手は新八で、呼ばれたファミレスにいけばお妙と新八がすでに席をとって待っていた。
今回はお妙から仕事の依頼と言う事で、銀時はこれで今月も何とか乗り切れるといったことではなく、一体どんな仕事なんだと一抹の不安を抱えていた。
ろくでもない仕事だったらスパッと断ろう。そんな事を考えつつお妙たちの前に座った銀時を見ながら新八はすぐに依頼内容をきりだした。
「あ〜? 下着泥棒だァ!!」
「そーなんスよ。僕が旅行中に二回もやられたらしくて。なんとかならないスかね?」
下着泥棒と言う単語には先ほどの事を思い出す。そう言えばお気に入りの下着が行方不明になっていたな、と。
旅行に出かける前にも洗濯をしていたので、出した下着は一枚だけだ。すぐにわかる。
だが果たして自分なんかの下着を取る男など、いるのだろうか。そう考えながらは銀時のノーパンについての熱い語りはとりあえず聞かなかった事にした。
「大体、何がしたいんだお前は。その勝負パンツが戻ってくれば気が済むのか?」
「パンツを取り戻したうえでパンツを盗んだ奴を血祭りにしたい」
怖ぇぇぇ!!!!
お妙の真っ直ぐに逸らさない目を見つめながら言われたその台詞に、最近あまり感じないで済んでいた恐怖を抱いた。
確かに泥棒は許せない。だがそこまでする必要がどこにある。は目線をずらしてただ只管押し黙っていた。
ここは沈黙するのが一番だ。
神楽は被害にはあっていないものの、下着泥棒は許せないとお妙と共にファミレスを去ってしまう。その背中をただ黙って見送る事しか出来なかった。
「そーいや。オメーもさっきパンツがどうの言ってたじゃねーか。アレもそーなんじゃねーの?」
「え? イヤイヤまさか! 私のパンツはきっと悪戯な風に攫われたんですよ」
「泥棒という風に攫われたんだってきっと。オメーのパンツは今頃変態男の妄想の糧となってんだぞ」
「ちょ!? いやな想像させないで下さい!! よしんば私のパンツが盗られたものとしても、きっと呪われますよ。このパンツは呪われている!みたいな」
「え、何。オメーは常に呪われてんの? 装備するたび神父にパンツの呪い解いてくれって頼むの? 銀さんそれはいただけないな。もっと恥じらいもとうよちゃん」
いただけないのはお前らだ。
昼日中の公共の場で若い男女がパンツパンツと連呼するのは如何なものだろうか。
新八は銀時とのやり取りを傍目で見て漸く常識的視線を持つ事が出来たが、時既に遅し。
一体今までどれほどパンツという単語がでてきたことか。考えるだけで頭が痛い。だがもっと頭が痛くなる原因は先ほどの二人だ。
「二人ともいい加減にしてくださいよ。それよりもまずいよ。最凶コンビがユニット組んじゃったよ」
「ほっとけよ。ホシの目星はもうついてるだろ?」
「え? 一体誰・・・・ !!」
「・・・・・近藤さん・・・・・」
銀時の言葉にやや遅れて意味を理解した新八はテーブルの下を凝視しながら固まる。
一体何事かと思っても座ったまま下を覗き見ればそこにはうずくまった近藤がいた。妖しい人物以外の何者でもない。
「なんだァァァァ!! まさか俺を疑っているのか貴様らァァ!!」
「そらそうですよ、今の自分の姿を第三者の目線で見て下さいよ」
テーブルの下から這い出ようとする近藤見るの視線は今までにないくらい冷たい。
はっきりと見下し蔑んでいる。時に目は口よりも正直だ。
「んなっ!? 侍が下着泥棒なんて卑劣なマネするわけないだろーがァ!!」
「侍がストーカーなんてするわけねーだろーが」
「ストーカーはしても下着ドロなんぞするか! 訴えるぞ貴様!!」
「訴えられるのはテメーだぁ!!」
「むしろ下着ドロよりストーカーのほうが私は嫌です」
大体どっちもどっちだし、犯罪なのは変わりない。
あれ、近藤さんって職業何だっけ?ストーカー?あ、違った。警察だ。
視線の冷たさはそのままに首をかしげたは考えた。
しかしでた答えをはたして正解だと思っていいのだろうか。一体どこで道を踏み外したのだろうとも思った。
ただ近藤も言われっぱなしでは無い。懐から新聞を取り出して新八はそれを広げ見た。
デカデカと一面を飾っているのはフンドシ仮面なる、ようは変質者の記事。
下着泥棒の癖に義賊気取りとは思い上がりも甚だしい。
隣では銀時が己にも配られていたモテない男の象徴である、パンツを持ちながら同じ事を言っていた。
は下着泥棒は確かに許せないが、ただの下着泥棒なわけではなくそれを己の中で正義と信じているのかいないのかはわからないが。
その行動を誇らしげにしているであろう男が許せず、そんな奴に自分の下着が盗られたと思ったら今まで湧き上がらなかった怒りが一気に噴出した。
「なんで俺がモテねーのしってんだァァァァァ!!」
「「ああああああ パンツぅぅぅ!!」」
いつものならば公共の場でパンツを懐に入れていることや、持ち歩いていた事。
その他諸々とツッコミどころ満載だった事を見逃さなかっただろう。しかし今のはいつもの状態ではなかった。
「ちょ、銀さん落ち着いて下さいよ! さん、あなたも止め・・・・・・さん?」
「ん? どうしたちゃん、具合でも・・・・」
新八の持っていた新聞をグシャッと握りつぶし、雑巾絞りのようにぎりぎりと絞り始める。
その様子を見ていた新八は口元を引きつらせ内心、ヤバイと思いながら二歩、三歩そこから離れる。
だがの変化など気付かず、あまつさえその容姿からは想像がつかない凶悪な握力と腕力など知らない近藤はその様子を汗を流しながら見つめていた。
はそれを迷わず、絞りに絞った形で左右に引きちぎった。
「千切り殺す」
新八は何をとは聞けず、近藤もただ固まるだけだった。
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