前へ進め、お前にはそのがある

>歩き出せ -act03-







後頭部に銃口を押し当てられて最初に思ったこと。


恐い。それだけだ。


当たり前だ、今までの人生の中でそんな危険な目にあったことなど無い。あんなもの向けられたら恐いに決まっている。
だがここでは、テロだの何だのと物騒な事が今まで以上に身近に起こる。
今のままでは駄目だ。
向こう側と何もかもを比較しても何も変わらない。向こうは向こう、ここはここだ。
危険な目にはあいたくは無いが、望まずとも向こうからやってくることもあるだろう。それをどう回避するか。それも大切だ。
だがもし回避できず先ほどのように、目前に危険が迫ったらどうする。誰かに助けを求めれば良いのか?
それも大切かもしれない。しかしながら、それができない時もあるし自分の手で切り開いていかねばならないときもある。

教わったではないか。
目を逸らさずに、現実を見ろと。

決めたではないか。
もう逃げないと。

なら自分のできる事を探して、前へ進むだけだ。
恐いと言って下を見て歩く事だけはしてはいけない。現実から逃げられるほど、世の中は甘くは無いんだ。






「・・・・さん・・・・、  さん・・・・!  !!」







さあ、この足を前に出して、歩き出せ!






さん!! ちょっと、何処行こうとしてんの!!?? 戻ってきてください!!
 それ以上行ったら行ってはいけないほうへ旅立っちゃいますよ!!!」

「・・・・・・・・へ?」



確か目の前は真っ暗だったような真っ白だったような。新八の必死な声に視界は一気に広がり、目の前には砂漠と二つの太陽。
ああ、そう言えばあの後舵がポッキリいって・・・・ポックリ逝ったんだっけ?
首を傾げながら的外れな事を考えるはかなり船から離れた所に、ぽつんと佇んでいた。
新八は駆け寄ってその腕を引いてを船の陰へと引き摺り戻す。
どうやら熱さでやられたらしい。ありえない熱さだ。次から次へと溢れ出す汗を、今は拭う事もめんどくさくなってきたが、拭わなければ目にはいる。
先ほどもは汗が目尻から入りこみ痛いとのた打ち回ったばかりである。確かそこからだ、記憶がとんだのは。


「こんなに熱ければ、石の上で肉がこげちゃいそうですね・・・あ、いいな、こんがり焼けた豚肉だ〜・・・」

、妙な幻想は見るな。帰って来れなくなるぞ」


いつも以上に死んだ目の銀時はただ只管、目の前に広がる砂漠を睨みつけていた。
その横で坂本が目を覚ます。どうやら走馬灯をみたらしい。ならば先ほど自分が見たアレも走馬灯だったのだろうか。
そう考えたら一瞬嫌な汗が背中を走ったような気がしたが、もう全身汗まみれなのでそれすらもわからなくなった。
坂本が舵を折らなければこんな星に落ちる事は無かっただろう。だがその前に、船が爆発しなければこうはならなかっただろう。
テロは本当に迷惑甚だしい事この上ない。は小さく舌打をした。熱さで異常に苛立っているのだ。


「こんな一面ババアの肌みてーな星に不時着しちまってどうしろってんだ? なんで太陽二つもあんだよ。金玉かコノヤロー」

「熱さの原因がそれなら全部腐り落ちてしまえばいい。いらねーよこんなはた迷惑なもん」

「ちょっ、ちゃん。奴等に罪は無いよ。罪があるのはあの太陽だ。あ、違った、コイツだ


苛立っていつもよりも言葉が荒いに答えながら銀時は隣で暢気な顔をしている坂本を見た。
舵を折らなければこんな事にはならなかったと、先ほどが考えた事と同じ事を坂本へと言うが本人は忘れたとまで言い出す。
元々熱さなどで苛立っていた銀時の神経を綺麗に逆撫でるが、この熱さに騒がれては余計熱く感じて溜まったものでは無い。
だがこんな時だからこそ突っ込み兼、常識人の新八の存在はありがたく、貴重だ。しかし今のにそれを湛える余裕はなかった。


「神楽ちゃん、大丈夫?」

「キミは元々日の光に弱いんだからね」

「大丈夫アルヨ。傘があれば平気だヨ」


ふたりの心配をよそに意外と神楽はケロッとしていた。
はっきりとした受け答えをする様子に安心し、少しは神楽の事を見習ってくれないかと銀時達を見たがそんなの横で神楽が立ち上がる。
ありもしない川を目指して歩き出した神楽を必死に止めて数分前のと同じ様に引き摺り戻そうとしている新八。
ただはそれを見つめる事しか出来ない。もう動く気力すらないのだ。
新八に呼ばれた銀時も神楽と同様に見ちゃいけない川を見ちゃっているらしい。川の向こう側に居るわけのない人の幻覚を見ている。
ちゃっかり坂本にも見えている様子に、溜息すらも出す気力は無かった。


「とうとう坂本さんまで・・!? さん、どうしましょう!?」


「トドメでも刺せばいいんじゃないかな・・・」


「あー、もうダメだ! 誰も信用できねー! おしまいだァァ!!」



新八の絶叫が響いた後、他の乗客が空を指し何だアレはと叫ぶ。
救援の船が来たと、先ほどまでみな熱さにやられ項垂れていたと言うのにやたらと元気に喜んでいる。
も内心は喜んでいたが体力はもうほとんどないために、新八と一緒にホッとするのが精一杯だった。






「あ”−・・・・生き返るってこう言うことだー」

「しっかり飲んどくぜよ。水ば失ったら人は生きていけんからのー」

「はーい・・・」


新八の隣に座り込みながらは先ほど陸奥から渡されたペットボトルを傾け、一気に半分以上飲み下す。
すでに新八は水分補給は終え、隣でなにやら小難しい話をしている。
水を飲みながらそれを横で聞きつつも、ただ熱さにやられた頭は少しぐらぐらしていた。正直立って居られない。
所々で聞き取る単語は天人との戦だ、それぞれのやり方だと、やはり難しい話だ。
銀時がかつて戦に参加していたと言うことも、その会話の中から聞き取ったが今はそこまで脳の処理が追いつかない。


「へェー、みんなスゴイんですね。ウチの大将は何考えてんだか、プラプラしてますけどね」

「そうそう、銀さんって糸の切れた凧みたいな人だよねー・・」

「アッハッハッハッ わし以上に掴みどころのない男じゃきにの〜」


坂本の変わらない笑い声には少し頭の痛みが増長された。
それを気にしないようにして坂本の言葉を聞きながら、少し離れた場所にいる銀時を見れば神楽から水を死守している。


「わしやヅラの志に惹かれて人が集まっとるよーに、おんしらもあのチャイナさんも、奴の中の何かに惹かれて慕っとるんじゃなかか?」


ぼうっとしながら聞きつつ、それをけしては聞き流そうとはしなかった。
何か惹かれるものがある。確かにそうだろう。だがそれが何か。銀時の何に惹き付けられるのか。
正直一体それが何なのかと聞かれれば、わからないとしか答えられない。安心すると言えばいいのだろうか。懐がでかいと言うのか。
ジッと銀時を見ながら考えていたはいつまでも出ない答えを探すのを諦め、最後の一口を飲み干した。
上を仰ぎ見るような体勢になったの視界に影が落ちる。頭上に坂本が何かに掴まれて浮かんでいる。思わずそのまま、ペットボトルを落としてしまった。



「・・・・・・・なぁにあれ?」



「うわァァァ!! 坂本さァァァん!!」



叫ぶ新八の横に、手をつきフラつきながら立ち上がれば隣に陸奥がいつのまにか立っていた。
数名の乗客と坂本を攫っていったものが砂蟲だと冷静に解説するが、そんな暇はどう見たってないだろう。
しかし彼女はこちらの心配をよそに、己の上司への恨みを砂蟲に晴らさせようとしていた。


「砂蟲よォォ そのモジャモジャやっちゃって〜! 特に股間を重点的に」

「何? 何の恨みがあんの」


当の坂本は陸奥の言葉に反応したのか否か。それは分からないが銃で砂蟲の足を打ち落とし乗客を助ける。
だが次の瞬間、砂の中から巨大な本体が姿を表した。ただはそれを見つめて口を開いているしか出来ない。
しかし呆けている余裕など、砂蟲が船を傾けたことによってすぐに無くなる。ただ必死にしがみ付き、転げ落ちないようにするので精一杯だった。
遠くからの大砲を打てと言う坂本の言葉には目を見開いた。その言葉にも姿にも迷いがない。指示をそのまま実行に移す陸奥の姿にも一切の迷いがなかった。
大義と言う単語は聞こえたが、はそれよりも、強い信頼が彼らに迷わせる事をしないのかもしれない。

打ち込まれる大砲に反応して地中に坂本ごと逃げようとしている砂蟲。
みな必死に坂本を助けようと、更に大砲を打ち込もうとするがそれは銀時によって防がれる。
地中に埋まってしまった坂本を追って、銀時は迷いなく砂へとつっこんでいった。その姿を遠目に見たは不安にかられたが、すぐにその不安を掻き消す。


彼らが大義と言う信頼でつながっているのならば、自分は信じると言う約束がある。


彼は、大丈夫だ。
そう思えば、一瞬浮き上がった不安は消えていった。













帰りの船の中、は頬杖をついて眠っている銀時の隣へと静かに座る。
起きているのか寝ているのか。それは実際わからなかった。でも、今伝えておかねばきっと言えないだろう。


「私、信じてましたから。銀さんは大丈夫だって。そしたら・・・」


いつもより銀さんがかっこよく見えました。

起きていて欲しいが、寝ていて欲しい。矛盾した思いを抱きながら言うだけ言って、はそっと席を立ち去っていく。
座っていたのなどほんの数秒だけだ。のぬくもりなど、もとより残るほどでもない。それでも十分に時間が経ってから銀時は閉じていた目を開け、軽く息をつく。



「・・・たりめーだろーが」



微かに口元を緩めながら呟かれた銀時のその言葉は誰の耳にも残らなかった。





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