前へ進め、お前にはそのがある

>万事屋 -act07-







が倒れてから三週間ほど経ったある日。




「今日も頑張ってきます!」

「おー、期待せず待ってる」

「期待されてもプレッシャーだけど、それはそれで寂しい気が・・・」


いつもと変わらない朝。はいまだバイト探しに明け暮れていた。
諦めるなと言ってきた銀時の態度は相変わらずだが、は特に気にはしていない。
もう万事屋の近場はほとんどと言っていいほど、断られてしまった。そしてその大部分は特技でやはりダメだし。
少数派は今は必要ないといった、当り障りのないものだったがそんな事は関係ない。どちらにしろ断られた事には変わらないのだから。
だが最近は、も特技が云々言われても前のように荒れたりはしない。言われ慣れてしまった。
最初でこそ「お前の頭も握りつぶしてやろうかコノヤロウ」と毒づきそうにもなったのだ。



「じゃあ行ってきまっ、
アギャブッ!!!

「そこジャンプ積んであるから気を付けろよ」

 っー、・・・つまづいてから言わないで下さい・・・」

「言う前につまづいてんじゃねーよ」


「理不尽!!」


思い切り足元に詰まれていたジャンプにつまづき、派手にこけたは涙目で銀時を睨みあげる。
しかし銀時の視線は今週号からまったく離れない。何時ぞやのようにまた破いてやろうかと殺気をジャンプへと向ければ、さり気無く背中を向けた。
その背中に向けてあからさまな溜息をついたが、銀時はまったく気にかけていない。
悔し紛れにつまづき倒したジャンプの山を直しながらその背中に小言をぶつける。


「銀さん、もう読み終わった奴はいい加減捨てて下さいよ」

「わかってるって」

「じゃあ、紐ここに置いておきますからね。せめてまとめておいて下さい。あと、今日は燃えるゴミだから捨てないで下さいよ!」

「わかってるって」


最近放火が多いんですからね。というの注意が聞こえているのかいないのか。背中を向けたままに返事をする。ジャンプを読み進める手は止まらない。
もう一度深い溜息をついてはでかけてしまった。

が玄関を出てほんの暫くして徐にそれを置くと立ち上がる。やる気がある時にやっておかねば、またジャンプの山が積みあがる事など目に見えている。
ここでやっておかねばきっとが怒るだろう。ただ怒るだけならまだしも、一度捕まると地獄の苦しみが待っているのはもう十分解っている。
思い出しただけで頭が痛くなったのか、軽く頭を抑えてしかめっ面をして溜息をつきながらさきほどがつまづいたジャンプを重ねて紐を巻く。


「終わったらさっさと捨てに行くか・・・・・・あれ? 今日何の日だっけ? あ、燃えるごみか」


やはり半分までしかの話を聞いていなかった。
紐を巻いていた手が一旦止まったが、ジャンプだって燃やせば燃えるんだから燃えるゴミで良いんだと自己完結をしてまた作業を再開。
そのせいでこのあと放火魔と間違えられるとはまさか思っていなかっただろう。













万事屋を出てからけっこうな距離を歩いたはいい加減足が疲れてしまった。
周りは見慣れない建物ばかりで、ここまで来る間に手当たり次第に雇ってくれと頼めば見事に一刀両断。
の足は自然と休める場所へと向かい、団子屋の長いすへと腰をかける。団子一本ぐらい買うお金はあるのだが、正直使うか悩みどころだ。
見たところあまり客は来ていないらしく、質素な佇まいの古い家屋をそのまま団子屋として使っているようである。


「いらっしゃいませ」


奥から静かに出てきたのは中年の女性。
ほんのり口元に笑みを浮かべているだけだというのに、とても物腰が柔らかに見えるのはこの女性が持つ空気のせいだろうか。
そっと置かれたお茶をみてはまだなにも注文していないと言うが、女性の笑みは変わらない。


「疲れているようだったから、良ければどうぞ」


女性の言葉に戸惑いはしたが、好意で進められたものを断る理由もなくありがたくお茶をもらうことにした。
程よい温かさと渋みのお茶をゆっくりと飲めば、不思議と疲れが取れるようだった。女性はまだ笑みを浮かべたままの隣に立っている。
しかし居心地の悪さなど感じずそれがさらに、この女性がとても不思議な印象の人だと感じさせた。


「浮かない顔をしていたようだけど、どうかしたのかしら?よければ聞きますよ」

「えっと・・・実はですね・・・」


聞かれはすんなりと理由を話してしまった。まずは互いの自己紹介から始まった。
女性は朔と名乗り、今は居ない夫と共にやり始めた団子屋が今では生きがいだと笑顔で話す。
話をする間もその笑顔は変わらず、朔の様子には自然と話し始め聞き上手な為なのか、万事屋の事やバイトを探している理由、特技に到るまで。
次から次へと言葉を紡いでしまい気付けばかなり長く話していた。しかし最後まで朔は嫌な顔もせず、相槌を時に打ちながら聞いていた。
話し終わったあと、最後の一口のお茶を飲み干してから初めてはどれぐらい自分が話をしていたのか気付く。


「うわ! す、すいません朔さん! お仕事中なのにこんなに話し込んじゃって・・・」

「いいんですよ、私が聞いたのだから。それに、話している間のあなたはとても楽しそうで、私まで楽しくなってしまったわ」

「は、はぁ・・・そうですか」

「ねえ、よければうちで働いてみない?」

「え?」


突然の朔の申し出に驚きは何度も瞬きをした。
何と言っていいのか。先ほどとは反対に言葉が上手く出てこず、ただ口をぱくつかせるばかり。
それをみて朔は「金魚さんみたいね」と笑っていたがはただ、朔の言葉を理解するので精一杯だった。


「い、いいんですか!? だ、だって私バカみたいに握力が強いだけで他には何のとりえも・・」

さん。特技で人が決まるわけじゃないわ。それに私も、特技なんてお団子を作るぐらいしかないもの」


偶々それが活かせる商売があっただけ。
そう穏かな笑顔で言われ、の脳裏に銀時の言葉が思い出される。





――― てめーの内面を見抜いてくれるような奴がいると思うぞ。だから最後まで諦めんな





「ね? あなたがよければなのだけれど・・・」


「・・・・は、はい!! ぜひ!! あの、よろしくお願いします!!」




力強く返事をして、勢いよく頭を下げた。






の様子に始終笑顔を絶やさずに朔は色々と準備もあるから来週から来てくれと言い、はまた張り切って返事をした。
帰りの道中、やっと見つかったバイト先の事やこれからの事を考えるとどうしてもその顔がにやける。
道端でにやけながら歩く年頃の女なんて、不気味意外なにものでない。おかげで先ほどから周りの人々はを避けて歩く。
それにすら気付かずの顔は緩みっぱなしで、とうとう笑い出してしまった。


「フ、フフフフ。今日は、大手を振って帰れるぞー!!」


既に大手を振って帰宅中である。
しかしそんな事はまったく気にせず、はバイトが決まった事が嬉しくてたまらなかった。
早く帰って早く話したい。そう考えていたら自然と早足になり道を歩く。だが正面に人垣ができていた為、その足は止まってしまう。
一体何かと確認せずとも解る。すぐ目の前の家屋が燃えているのだ。




「火事・・・・・・  
っ!!」



「何やってんの!! 危ないって! 危ないって!」





燃えている家屋へと視線を向けた時聞こえた声と、二階へと飛び込む銀色。
それが誰なのかなど、わかりきっていた。
ただ、見慣れた銀色は燃える火の向こう側へと消えていく。






「・・・・・銀さんっ!?」





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