前へ進め、お前にはそのがある

>万事屋 -act06-







暗い。



そこで最初に感じたのはそれだった。






または暗い場所に立っていた。手を伸ばして何かを掴もうと少しずつ、歩く。
前のように、足がついたところに波紋はできない。代わりに硬い感触。


伸ばした手が何かに触れた。そこから、縦に細長い光が漏れている。
光を浴びて、薄っすらと浮かんだの手は小さくまだ幼い手だった。






―――  ・・・・た・・・・しよ・・・・・かれ・・・・!・・・





嗚咽混じりの責めるような女の声が聞こえる。





―――  ・・・・たな・・・・う・・・しか・・・・・






慰めるような溜息混じりの男の声も聞こえた。






そっと、光に向かって身を寄せて向こう側を覗こうとする。
ガタリと戸が揺れた。向こう側で男と女が驚く。戸を開けて中にはいれば、いつもと変わらない、笑顔だった。




   お父さん、お母さん




「どうしたの? 眠れないの?」




   
何を、話していたの?




「ホットミルク、飲もうか。温まるわよ」




   
何で、目をそらすの?




「さあ、もうおやすみなさい」




   
なんで、なんで・・・・・なんで







部屋に連れ戻されて、布団に寝かしつけられる。
一瞬の暗転。

次には眩しい朝日が部屋を照らす。光が目蓋の裏の目を焼くかのような感覚が走った。
は身を起こして居間へと戻れば、いつものように母親がご飯を作っていて、父親は新聞を広げているはずだった。







「お父さん? お母さん?」











   何で、誰もいないの?





















「お、目が醒めたか?」

「・・・・・銀さん・・・・?」


薄っすらと目を開ければ聞こえてきた銀時の声。は掠れている自分の声に少しだけ途惑ったが、寝起きなどそんなものだ。
ゆっくりと額に手を当てれば微かに汗をかいていたことに気付く。横でタオルを絞る音が聞こえた。
それをの額に置いて調子はどうだと聞いてくる。


「・・・あんまり・・・・」

「そうか。ま、疲れがたまってただけらしいから一日寝ときァ治る。今は寝とけ」

「・・・・・はい・・・・・・あの、今何時ですか?」

「あ? んな事はいいから目だけでも瞑っとけ」


見慣れた窓から刺す月明かりが少しだけ眩しかった。言われ目を瞑れば少しずつ、の記憶は整理されていく。
朝からバイト探しに走り、ペットグランプリとか言うテレビに出ていたこと。なんやかんやで競技もめちゃくちゃになっていたこと。
最後に聞こえたのは新八と神楽のの名を呼ぶ声。


ああ、そう言えば倒れたんだっけ。


やっと思い出した所では目を瞑ったまま銀時へ質問する。
結果はどうなったのかと。
なんとなく予想は出来ていたがもしかしたら、と言う事もある。
やはりと言えばいいのか、問われた銀時は何の事かなどすぐにわかり、言葉を濁した。それだけで答えとしては十分だ。
それ以上は何も聞かず、は眠ろうとした。だが先ほど見た夢を思い出し、どうしても眠る気が起きなかった。
隣にはまだ銀時がいたがなぜか気配を感じない。目を瞑っているせいかもしれない。やたらとそれが不安になる。
このまま銀時が何処かへ消えてしまうのでは。また一人になってしまうのでは。妙な不安がドンドンと内側に広がっていった。



「・・・おい、目ェ瞑っとけって言ったじゃねェか」


目を開けて天井を見つめる。銀時は溜息を零す。
何か言おうとしたが、突然手をつかまれた為にそれは叶わなかった。


「銀さん・・・」

「?」

「・・・・そばにいて下さい・・・・」


泣いているのかいないのか、には解らなかった。小さく掠れた声は少しだけ震えていた。
何も言わないかわりに空いている方の手で軽く頭を撫でられる。
強く銀時の手を握ると、少しだけ安心したような笑みを微かに浮かべは眠ってしまった






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