前へ進め、お前にはその足がある
>万事屋 -act05-
「変であることを恐れるな。変とはつまりオリジナリティーだ! 第一回 宇宙で一匹変てこペットグランプリぃぃぃ!!」
セットの向こうで高らかに聞こえた司会者の声を聞き、本当に来ちゃったんだ・・・とは生唾を飲んだ。
何せテレビだ。しかも色々打ちひしがれて帰った所の突然の銀時からのテレビ出るから宣言。
心も身支度もなにも準備がままならないまま、結局気付けばスタジオ入りしていた。
今だセットの向こう側ではお客さんの拍手などが聞こえる。緊張を紛らわす為に撮影が始まる前に会った司会者の顔を、なんとなく思い出した。
「わたし、あの司会者どこかで見た事があるような・・・」
「そりゃテレビの司会者だからな。ブラウン管越しにいくらでもお目にかかれるよ」
「いや、そうじゃなくて・・・・まぁいいです。」
この際、記憶の中に浮かんだ別の人物はなかった事にしよう。
がそう心に決めた時、セットの扉が静かに開く。通常ならば『夢見たスポットライトが向こう側に・・!』とでも思っておけばいいのだろうか。
しかし今のにそんな余裕などありはしない。そんなの心情など知らない司会者は紹介へとはいった。
「新宿かぶき町から来ていただきました宇宙生物定春くんと、飼い主の坂田さんファミリーです」
この場合、家族構成はどう思われているのだろうか。お父さんに長女、長男、次女なのか。
家族かー。家族・・・家族ってどんなだっけ?
考えただけでどういった表情をして良いのかわからない。とりあえず笑っておけばいいのだろうか。
上手く笑えるだろうか。いや、無理だろう。既に頬の筋肉が緊張やら何やらでつりそうだ。
あまりに緊張しすぎて思考回路もパンク寸前の。どうしたもんかと隣を見れば定春が銀時の頭へとかぶりついていた。
「えーと、こちらの坂田さんに食らいついて離れないのが定春くん? っていうか大丈夫ですか」
「大丈夫ッすよ。定春は賢い子だから。ちゃんと手加減してますからね〜」
まったくもって手加減できていません。現に今、血が溢れ出てます。
銀時の頭を凝視しながらは心のうちで突っ込みを入れるのが精一杯だった。
代わりに司会者がツッコミをいれている。というか流血沙汰はまずいだろう。きっと銀時の顔にはモザイクがかけられるかもしれない。
想像した所では神楽が緊張しすぎてスタッフに何か言っている姿が見えた。
「・・・・・・・・えー、ペット以上に個性的な飼い主さん達みたいですね。じゃあいったんCMでーす」
個性的という一言で、はたして片付けられるのだろうか。
いまだ一言も言葉を発していないが三人を見ればいまだ定春が食いついている。
「ちょっとォ、ちゃんとやってくださいよ。こんなんじゃ決勝まで勝ち残れるわけないでしょ!?」
「そーか? 審査員の奴ら俺にくぎづけになってたぞ」
「そりゃくぎづけにもなるわ 鏡で自分の顔見てこい!!」
「三人とも動きがかたいネ。舞台をフルにつかっていこう! 身体もっと動かそ!!」
「おめーが一番ガチガチじゃねーか!!」
「・・・・もう皆グダグダだ・・・・」
新八はどんな場所でもそのツッコミが健在なのが凄いと素で驚いていたが、考えてみればお通ちゃん親衛隊の隊長なんてものをやっているんだ。
こんな所で緊張してしまうようなやわな精神は持っていないだろう。
CMの間に何とか自分も緊張をほぐさねばと、掌に「人」の文字を書いて三回飲み込んだ。
一体なぜ、これをすると落ち着くのか。原理などどうだっていい。ようは結果だ。気の持ちようだ。
「ほら、神楽ちゃんも・・・」
「ハーイ。 じゃあ次の方どーぞ」
「!!」
神楽の緊張も少しは和らぐだろうと思い、教えようとしたときの司会者の声がそれを遮った。
いつのまにか始まっていたらしい。
対戦相手は一体誰だと見れば、何時ぞやの繁華街でであった客引きのお兄さんだった。
「・・・なにやってんのアイツ?」
「・・・・・えーと・・・桂さん・・・だったかな・・・・」
「なんだ? おめー、ヅラの事しってんのか?」
「ええ、まあ・・・・」
曖昧な返事をしながらも「ヅラって、愛称かな。それともカツラである事への嫌がらせかな?あんな綺麗な髪なのに・・・」など的外れな事を考えていた。
横で指名手配がどうのと銀時達の会話が聞こえたが、にとってはもうどうだっていいことである。
いい人だろうが悪い人だろうが、警察に追われている人間である事は事実。しかしそれだけで判断するつもりはには無かった。
たとえ警察に追われる指名手配犯だろうと、勘違いではあったが親身になって初対面にもかかわらずへ、間違った道へ踏み外すなと説いてくれたのだ。
根はいい人なのだろう。
「あんなのタダのデカい犬じゃないですか! ウチの実家の太郎もアレぐらいありますよ」
「んだコラァ ヅラァ! てめーのそのペンギンオバケみてーな奴もな、ウチの実家じゃ水道の蛇口ひねったら普通に出てきてたぞ」
「ばれるよ ばれるウソは止めて!!」
そしてやっぱり銀時の知り合いである以上、妙なところがやたら恥ずかしい事も解った。
妙な張り合いをしないで欲しい。張り合うならもっとましな事で張り合って欲しい。は思わず頭を抱えて視線を外してしまった。
とりあえず次の段階へと番組は進行していくが、相変わらず睨み合う二人がそれを妨げる。
司会者のツッコミには静かに頷いた。
次の競技は投げた骨を先に取った方がかち、という何とも単純な競技である。
説明を聞いた新八は、まるで一筋の光を見たかのような顔をして振り返った。
「これ、もしかしたら勝てるんじゃない? エリザベスはどう見ても鈍足そーだもん! ねェ、さん、神楽ちゃん?」
「そうだね・・・・・神楽ちゃん?」
新八の言葉にも頷きながら神楽がいたであろう隣を見ればいなかった。
気付けば新八へとボケを要求しているカンペを持ってこちらに見せている。だが新八はあくまでツッコミだ。ボケは多分無理だろう。
「神楽ちゃん・・・・・」
「もう帰れば」
セットの向こう側は外。というかもともと野外セットだったわけなので、そのまま競技に移れるわけだが。
「うわー、凄い俊足。 ねェ銀さーん。エリザベスもう向こうに走ってっちゃいましたよー」
「んなこたァわかってんだよ!! てか! おめー助けやがれ!! アダダダダダ!!!」
「無理です」
いくら何でもには定春の暴走は止められない。
過去何度噛み付かれた事か。手首からガブリといかれた事もあれば頭を丸齧りされた事もある。
正直痛い。今の銀時の痛みも凄まじいだろうが、避けられる痛みならば避けて通りたいものだ。
中々に薄情な精神も持ち合わせてきたが、それもここにきてからのものだ。本当に立派に、たくましく育ったものだと自分で感心していた。
「銀さんどうしよう もうダメだ!」
「定春、どくアルヨ」
神楽はそのまま傘の先端で銀時の襟首を引っ掛けて投げ飛ばした。
緊張が解れたらやる事がいつも以上にハチャメチャな気がしてなら無い。だがもうここまで来たらなるようになれである。
は遠くに飛んでいった銀時へと合掌した。
「これは坂田さん 定春くんが自分に食らいついてくるのを利用してエサになった!」
「利用してっていうか、利用されてですけどね・・・」
「結果よければ全て良しですよさん!」
「そうだね」
とりあえず帰ったら傷の手当てをしなければならないだろうなと考えた所で、傷薬が昨日切れた事を思い出した。
帰りにでも買って帰るかと、既にもう先の事を考え始めた。軽く現実逃避も兼ねているが、誰もそれには気付かない。
もうコレ優勝なんて無理でしょ。そうは思っていた。何せもうむちゃくちゃだ。これで優勝させてくれたらどれだけ太っ腹なんだと逆に問いただしたくなる。
「てめーらよォ!! 競技変わってんじゃねーか!! 頼むから普通にやってくれェ!! 放送できねーよコレ」
司会者のマイク越しのでかい声に現実逃避から引き戻された。
みればいつのまにかエリザベスを押さえ込む銀時と、それをどうにかしようとする桂。更に食らいつく定春。
もう何がなんだかわからない。どんなトーテムポールですかコレは。
「新八君。私頭痛い、もう帰りたい」
「僕もです。でも我慢して下さい。放送が終わるまでが、テレビ出演です」
それにここで帰ったらきっと銀さんたちにあとで恨み言を言われるに決まってます。
新八の言葉に確かにそうだと頷きながら、遠い目をしながら銀時達を見ていた。だがその時突然、聞きなれない声が聞こえた。
何だと思えば、やたらと銀時たちが驚いている。何かズルズルと、妙にホラーな効果音すらも聞こえてきた。
「もう帰るんで、ちょっと上どけてもらえますぅ?」
「あ”あ”あ”あ”あ” コレは・・・」
が覚えているのはそこまでだった。
突然の事態に驚いていた新八は、隣でドサリと言う音が聞こえて見れば、が倒れていた。
「ちょ、さん!?」
「!! 大丈夫アルカ!?」
遠くで声が聞こえたがそれに答えられる事はできず、そのまま完全に意識はシャットアウトされた。
<<BACK /TOP/ NEXT>>