前へ進め、お前にはその足がある
>万事屋 -act01-
その日はいつもよりも少し湿気を帯びた昼だった。
は台所の茶箪笥を開け、途方にくれている。そんなの様子などは全く知らない三人はいつも通り、居間で好きに過ごしていた。
まるで何かに取り付かれたかのような空虚の目をして、は居間へフラリと戻る。
「おい、どうした。まるで好きだった男が二股かけてた事実を知ったような顔だぞー」
「甘いネ銀ちゃん! 二股をかけられたらは怒り狂ってアイアンクローをお見舞いするアル!」
「いや、でも好きな人が二股かけてたらショックは大きいよ」
の話題なのになぜかまったく違う方向へと反れ初めている。
いつもならばそこで軌道修正を図るであろうも、力無く銀時の横へ座った。相変わらずその目は何も映していない。
あまりの様子に三人は顔を見合わせてを見る。視線にすら気付かずにいまだ足元を見つめたまま、固まっている。
「おーい、どうした? なんかあったか? あれか。食パンが腐ってたか?」
「大丈夫だよ。少しぐらい腐っててもある程度なら焼けば食べられるし・・・・」
「そうそう、それに私達はそんなヤワな胃はしてないアル」
慰めているつもりなのだろうが、何かが違う。
三人の言葉など全く耳に入っていなかったは、食パン。という単語にぴくりと反応した。
「・・・・・・りました・・・・・」
「何?」
「・・・・とうとう・・・パンの耳すら・・・なくなりました・・・・」
つまり万事屋のご飯が底を尽きたという事だ。
通帳や財布の中身など、とうの昔に涸れ果てている。
の言葉に三人は同様固まり、しばし沈黙がその部屋を占めた。
「・・・・・・・釣りに行くぞ」
「はい?」
「確か、でっかい池かなんかあったはずだ。そこに、食料釣りに行くぞ!」
いつのまにか釣竿など道具を持って凄む銀時に、神楽も同じ様に道具を持ち腕を振り上げる。
新八もそれしかないかと腰を上げた。依然は固まったままだった。
たらした釣り糸を見つめては今だ食いつかない魚を待っていた。
その隣で新八の餌に食らいついた魚が吊り上げられる。
「うわっ! またコイツだ。やっぱ天人が来てから地球の生態系もおかしくなってますね」
「いいからバケツ入れとけ」
「え”え”!? これも食べんの!?」
「あたりめーだろ。鮟鱇然り納豆然り。見た目がグロいもん程食ったらうめーんだよ」
銀時の言葉を聞きながらも自分の所に食いついた魚を釣り上げれば、新八と同じ魚だった。
見た目はともかくピチピチとなかなか粋がいい。それをじっと見つめながら思わず口の端から涎が出てしまう。
「これ、刺身で食べれるかな・・・・」
「ちゃん。生では流石にまずいと思うから、それもバケツ入れときなさい」
「はーい・・・」
銀時に言われ弱々しい返事と共に、バケツに魚を入れまた糸をたらす。
既に脳内は魚をどう調理するかで一杯だった。もうすでに腹の空き具合もピークに達している。
「まあ、ようするにだ。どんな不細工にもイイ所の一つや二つあるもんだ」
「銀ちゃん、銀ちゃん! コレ、スゴイの釣れたアル。見て見て」
「?」
神楽の台詞に振り返った銀時たちはその瞬間固まった。
少し遅れて振り返ったもまた同じ。
「いだだだだだだだだだだだ!! アレ? 痛くないかも? あ”っ!! やっぱ痛い!! いだだだだだだ!!」
河童が釣り上げられていた。
これも食べれるかな?と聞いてくる神楽の横で二人は驚き固まり、はあまりの事態に「わー、今夜はカッパ巻きだー」と呟いていた。
釣り上げられた河童は銀時の蹴り一発で池へとリリースされ、今見た事は忘れろとなかったことにしようとしている。
だがあまりにも強烈すぎる光景だ。忘れられるわけがない。しかし銀時は無理矢理池に住むただのオッさんという存在へと記憶を改ざんしようと必死だ。
「・・・でも銀さん。今のアレ、全身緑でしたけど」
もうこの際カッパでも緑色のオッさんでも何でもいい。食べられるなら。
の中ではそんな境地まで達しようとしていた。でも良く考えればあまり美味しそうでもないとまで考えるが、それも何か間違っている。
「それはアレだよ・・・・・・・アルコール依存症」
「アルコールにそんな成分あったら酒なんて誰も飲まんわ!! ん?」
「てんめーら、眼鏡割れちゃったじゃねーかコノヤロー。 親に電話しろォォォ!! 弁償してもらうからなァァ!!」
「ぎゃああああ!!出たァァァ!! あ”あ”あ”!! 待てェェ お前ら!!」
「新八君! 君の犠牲は無駄にはしな「逃がさん住所と名前を言え!!」 ぎゃああぁぁぁぁ!!! 伸びたー!!!!」
そう長くは生きていない人生。河童に出会うだけでもすごいのに、舌が伸びるだなんて知りませんでした。
お前はアレか。ジャンプで連載中のマンガに出てくるアレか!ピックルさんか!
引き摺られながらは必死に地面に爪を立てつつ抵抗し、口にはしないものの内心はツッコミまくっていた。
しかしそれもただの無駄な足掻きでしかなく、確りと捕まり説教される万事屋メンバーでした。
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