前へ進め、お前にはそのがある

>繋がり -act07-







いかがわしい店が建ち並ぶ繁華街での突然の爆発騒ぎ。その真っ只中にはただ呆然と立っていた。


「チッ、逃げるぞエリザベス!」

『 了解 』


二人がそう言って逃げた後には、プラカードとのぼり旗。桂の着ていたであろう店のハッピだけが残っていた。
一体何が起こったのか理解しきれていないは、瞬きを何度も繰り返していれば、突然その肩に手が置かれる。


「ちょいとアンタ・・・・と、アンタは確か万事屋の旦那の所の」

「あ・・・えと・・・沖田、さん?」


振り返れば何時ぞやの花見の時に見た事のある顔。
以前は可愛いなどと思ったがあどけないといっても間違いでは無いだろう。
そう思ったが視線をずらして見えたその肩のバズーカーのせいで、すぐさまの中での沖田という人物の情報が書きかえられた。
何食わぬ顔して恐ろしい事をしてくれるような、危険人物だと。



「アンタこんな所で何してんでィ。それにさっき、桂とも話をしていた様子でしたね」

「えっと、その・・・・」


何からどう説明したらいいのか。
考えあぐねて言葉を詰まらせたを見て、沖田の目が静かに光った。
突然腕をつかまれてズルズルとパトカーまで引っ張られる。何がなんだかわからないはただ、されるがままとなっている。
気付けばパトカーに乗せられ、気付けば真選組の屯所内の取調室。


「で、何の話をしてたんでさァ。正直に言ったほうが身のためですぜ

「えーと・・・・」


所謂事情聴取という奴だろう。なぜあの男、桂が追われている身なのか。そんなことは一切知らない
だがそんな事を知った所でどうとなるわけでもない。今は聞かれた事に正直に答えるしかない。
それにちゃんと答えないと何か恐ろしい事がこの身に起こるだろうことが、先ほどの沖田の台詞に含まれていた。
はできれば思い出したくはなかったが、桂と出会うまでの経緯を解りやすく話した。ナンパにあってから迷子になった所まで、確りと。


「なるほど。そして帰り道を探していたら、あそこで偶然桂に会ったってわけですかィ」

「そうです」

「なるほどね。偶然仲間の桂に会ったと・・・・」

「は? イヤイヤイヤ! な、仲間ってなんですか、仲間って!?」


警察に追われる人の仲間なんて思われてしまっては今後の自分の人生がかなり違う方向へと流れていってしまう。
初対面でいきなり人生誤った方へ道を外すなとかなんとか。説教されたものの、悪い人では無いかもしれない。でも警察に追われている。
この激しい矛盾が気にならないわけでもないが、しかしそれは二の次だ。今はとにかく、桂とは全くの無関係だと主張しておかねばならない。
沖田の言葉に反論し、また先ほどと同じ様に今に至る経路。そして桂という人物を今日初めて知ったという事を確りと伝えた。


「つまりアンタは桂とは関係ないって事ですかィ。じゃあ別の攘夷志士と関係があるって言う事で・・・」

「ちょ!! 沖田さん、それ無理矢理すぎます!! ていうか、なんでそう頑なに関連性を求めるんですか!?」


攘夷志士。聞きなれないが、先日新八によって説明された内容が頭の端から浮き上がる。
昨今テロだの何だのと、物騒な世の中だからに気をつけるようにと注意されたばかりだ。
しかし警察の人間の思考回路までが物騒なものだったなんて、流石のも考えていなかった。


「アンタも強情だな。吐き出すなら確りと吐き出した方が良いぞ」

「いやだから・・・・関係ないってさっきから言ってるじゃないですか。なんでそう頑なまでに疑ってかかるんですか?」


それが仕事だと言えばそうなのだろうが、疑われるこちらの身にもなってもらいたい。気にしていたら仕事にはならないだろうが。
ここまできて、今まで黙って沖田の横に立っていた土方はの言葉に溜息と共に煙を吐き出し、短くなったタバコを灰皿に捨て新しいタバコに火をつける。


「何でってそりゃ、アンタが万事屋と関係があるからだ」

「は?」

「あの男は叩けばいくらでも埃が出てきそうだからな。それに過去にも疑わしい行動がみられたし」



あんた何やらかしたの銀さーん!!!!!!!



は取調室でなければそう叫んでいただろう。大口を開けて頭を抱えて固まってしまった。
まさか世話になっている家の人間に関わっているだけで疑われるとは思っていなかった。
呆然としたを見て「あらら、固まっちまいましたぜ」との目の前で手をヒラヒラと振る沖田。
土方が肺一杯になった煙を吐き出すと取調室の扉が開いた。山崎が何か書類らしきものを持ってなかに入ってくる。


「副長、とりあえず旦那方には連絡を入れておきましたので、もうすぐ迎えに来ると思います」

「そうか。ご苦労だったな。おい、迎えが来たら帰って良いぞ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・へ? え、あ・・・・・え、帰っていいんですか?」

「このまま続けたって出てくる情報なんざたかが知れてるからな」


後は頼んだと山崎と沖田をそこに残して土方は部屋を出て行った。
閉まった扉をポカンと口を開けたままが見つめていれば、突然その頬をつつかれた。


「痛っ!!!!」



ペン先で。



「な、何するんですか沖田さん!?」

「いや、破裂してしぼんだら面白いのになァ〜と思って」

「私は風船ですか!?」


つつかれインクの跡がついた頬を擦りながらは機嫌を損ねた目で沖田をじろりと睨む。
しかしそれも鼻で笑われた。











「おー、お帰り迷子姫」

「迷子姫って何ですか。元はと言えば銀さんが醤油買いに行かなかったからこんな事になったんですよ」


ブツブツと文句を言うの頭に予備のヘルメットをかぶせてそのまま乱暴に撫ぜる。
メットの中で髪がぐしゃぐしゃになってしまったと更に文句を言えば、軽く叩かれた。


「ハイハイ、拗ねないのー。帰ったら隠してある飴一個あげるから」

「あぁ、それなら昨日神楽ちゃんが見つけて全部食べてましたよ」


一個おすそ分け貰いました。
バイクの後ろに跨りながら言えば銀時はショックを受けた顔をする。


マジデ!? ちょ、マジ勘弁してくれよなー。最近外で甘いもん食えねェからって飴買っといたのによー」


頭を抱えて唸りだした銀時を後ろから見ていたは、先ほどの土方の言葉を思い出す。
一体何をやらかしたんですか。と聞きたかったがきっと聞いても何も答えてくれないだろう事は、なんとなくわかっていた。
言葉の変わりに深い溜息を零して今朝、大江戸ストアで買った醤油が入っている袋をガサガサと漁る。


「はい、これ。内緒ですからね」

「え・・・?」


フルーツドロップと書かれた飴の袋。神楽からおすそ分けを貰ったあと、銀時の楽しみであろう物を食べてしまった罪悪感もあり買ったものだ。
その袋との顔を二度ほど見比べれば、今まで見た事ないような笑顔を向けられた。


「おまっ、コレ!!! ちょ、ちゃん最高!!! 大好き!!」

「あー、ハイハイ。私も銀さんの事大好きですよー。だから早く帰りましょう。お昼ご飯食べてないんですから」

「よーし、今日は俺が作ってやる!」



は上機嫌にバイクを走らせる銀時の背中にしがみ付きながら、少しだけ熱を持った頬を誤魔化すようにその背中に押しつけた。



(なんでだろうね。深い意味はないだろうにこんなにドキドキしちゃうのは)



それは銀時からの言葉なのか。自分からの言葉なのか。にはまだ解らなかった。





<<BACK /TOP/ NEXT>>