前へ進め、お前にはそのがある

>繋がり -act06-







太陽はもうすでに天頂に近かった。
万事屋を出たのは十時前だ。もう二時間近くは彷徨っている事になる。
考えてみればこちらに来てからというもの、近所以外を一人で歩いた事などなかった。(飛び出した事はあったが)
大江戸ストアや新八の道場までは銀時らと一緒に歩いた道だったからかすぐに道は覚えられた。しかしそれ意外となるとからっきしだ。


「さて・・・・・ここは何処だろうね」


道のど真ん中で呟かれた前回の冒頭部分の台詞は虚しく風に流された。
誰かに道を聞けば良いのだが、はたして銀時の営む万事屋がどれほど有名か。聞いた所で「そんな店しらねぇな」と返されれば終りだ。
住所ぐらいまともに覚えておくんだったと、今になって後悔している。
とりあえずは前に進んでいけば、もしかしたら知っている道に出るかもしれない。はその偶然にかけて歩き出した。
しかし当てずっぽうに歩いているのだから知っている場所に出る事など、そう簡単にできるわけもなく。
心なしか先ほどから見える周りに建ち並ぶ店が、いかがわしい看板ばかりの物に変わってきてしまっている気がする。
道の真ん中を早足で歩いていたの視界に突然、不可思議な物体が目に止まる。
のぼり旗を持って客引きをする男はまだいい。その隣の物が気になった。


「・・・・なにあれ?」


全体的に白く丸いフォルム。パッチリ開いた目(らしきもの)と黄色い大きなくちばし(と思われるもの)だけで、すごい存在感だ。
その手には時間や値段が書いてあるプレートが持たれている。どうやらあの物体も客引きらしい。
あの店のマスコットなのかとも思ったが、それもおかしい話だ。
気になって足は止まったまま、なかなか視線をはずす事ができない。の刺すような視線に気付いたのだろう、「それ」がの方へと向いた。


『 何見てんだよ 』

「え・・・・・」


部類としては可愛い・・と思われる見た目に反して、出されたプレートにかかれた文字は少し荒っぽい。
ギャップ萌えなるものを狙っての事なのかこれは?などとは関係のない事を考えてしまった。
しかし黙ったまま視線を外さないでいるの内情など知らない「それ」は更に新たなプレートを出した。


『 ジロジロ見てんじゃねーよ。見せもんじゃねーぞ 』

「あ、いや・・・す、すいません・・・・・・」


謝ってしまった。
確かにジッと見つめていた事は事実。気分を害する人もいるだろう。しかしなぜだろう、釈然としない。


「そこのお兄さん、綺麗な子揃ってるよー。 ・・・ん? どうしたエリザベス?」


そこで隣にいた客引きの男がこちらに気付いた。
別に悪い事をしていたわけでは無いが、思わずはその声にびくついてしまう。
暫し何かを話していた二人(?)。男がの方へと向けば袖の中をごそごそと探る。


「飴やるから、早くお家へ帰りなさい」

「・・・・あ・・・アリガトウゴザイマス・・・・」



子ども扱いされた。



「この用な所、女子一人で歩くものでは無いぞ」

「はい・・・すいません」

「金に困ったからといって、自分の事を軽んじてはならん」

「・・・はい・・・」

「切羽詰った時こそ、冷静に物事を判断する事だ」

「・・・そうですね・・・」



子ども扱いされただけでなく、なにやら勘違いもされている様子。初対面なのに説教されている。
は弁解をしようかとも考えたが、この真面目そうで堅そうな性格をあらわした口調で色々言われると
きっと何を言っても無駄かもしれない。などと考えてしまい、結局は何も言えず頷くばかりだ。
しかも終りが見えない説教というか、何というか。言葉はまだ続きそうに見えた。


「良いか、目先の事ばかりではなく更に先を見る事によって・・
「桂ァァァァァ!!!!」

「へ!?」



第三者の怒号と共に爆音、爆風。あたりに漂う粉塵と煙には思い切り咽る。








ああ、今日は良い事がない。そう言えば今朝の占い見てなかった。
朝っぱらか妙な男たちに絡まれるわ。逃げれば迷子になるわ。妙な生き物はやたら口調が荒いわ。勘違いされるわ。


は今日一日、今まで自分の身に起こった事を振り返りながら、溜息をつきそうになった。
しかしこれ以上幸せを逃してなるものかとそれを飲み込む。
今を耐えればきっと、この先良い事だってある。そう言い聞かせた。
そうでなければやっていられない。


「で、アンタは桂と何を話してたんでさァ」

「だから先ほどから言っているようにですね・・・・」


そうでもしなければ、今のこの拷問とも言える事情聴取にすら耐えられそうになかった。





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