前へ進め、お前にはその足がある
>繋がり -act05-
は道のど真ん中で空を仰ぎ見ながら途方にくれていた。理由はただ一つ。
「さて・・・・・ここは何処だろうね?」
迷子である。
「あ、醤油ない」
今朝の食卓での銀時の呟き。珍しく貰った卵で卵かけご飯を食べていたときの事である。
銀時が自分の卵に醤油を少しだけ入れた時、醤油注しの中身がなくなってしまったためボトルを棚から出せば中は空。
とりあえずその場での醤油の量は足りていたので問題はなかったのだが、醤油は意外と使う。
「神楽。お前定春の散歩がてら買って来いよ」
「今日は忙しいアル。そう言う銀ちゃんが買って来いヨ」
「おいおい、忙しいってお前。つくならもっとましな嘘をつけよなー」
「失礼な男アルな。私だって忙しい時は目が回るほどに忙しいネ!」
「ハイハイ。じゃあついでに醤油な。濃い口の奴」
全く神楽の話など右から左の銀時は一方的に醤油を買って来いと言うが、対して神楽も一歩も譲らない。
これではいつまでたっても万事屋の醤油は切れたままだ。むしろ二人もキレそうだ。
仕方がないと財布を持って立ち上がったは睨み合う二人をよそに玄関へ向かう。
「さん、何処行くんですか?」
「これじゃ埒があかないから、私が買ってくるよ」
行って来ますと外へと出たが階段を下りれば階下の住民であり、万事屋の大家のお登勢が水を撒いていた。
その隣ではキャサリンが外の窓を拭いている。
「おはようございます」
「ああ、おはよう。どうしたんだい?こんな朝っぱらから出るなんて珍しいね。」
「トウトウ、アノ天パーニ追イ出サレタカ」
「ち、違いますよ。醤油切れたんで買いにいって来るんです」
「醤油ノ切レ目ガ縁ノ切レ目ッテイウカラナ。気ヲ付ケロヨ」
意味がわらかないよ。
思わずツッコミそうになったがそれをグッと堪える。ここで一言でも反論しようものなら何時までたってもここを動けなくなる。
気を付けていってくるんだよと言ったお登勢へ御礼をいい、は寄り道もせずに、迷わず大江戸ストアへと向かう。
無事にミッションコンプリート。あとは帰るだけだとすぐに万事屋へと向かおうとした時だった。
「お嬢ちゃん。」
「はい?」
思わず振り返ったあと、ああ、振り返らなきゃ良かった。と後悔した。
そこには如何にも軽そうな、そう表現した方が早い男が立っていた。こんな朝っぱらからナンパなんてやって、ろくな奴じゃないだろう。
は嫌そうな顔は浮かべなかったが、内心は嫌悪感を抱いて仕方なかった。
「ねぇ、暇?俺暇でさ〜。ちょっとで良いから遊んでくれないかな〜?」
絶対に嫌です。
そうはっきり言えれば苦労は無いが、あまり突き放した言い方も相手を逆上させてしまう。
まずはやんわりと断るのが人としての正しい方法だろう。
「いえ、私この後も予定があるんで。申し訳ありません」
「そんなつれない事言わないでさ〜。良いじゃん。ほんの一時間。いや、三十分でも良いからさ〜」
良かねぇよ。何であんたの為にそんなに時間を割かなきゃいけないんだよ。
言いたいけど言えない。元々最初の言葉で引き下がるわけ無いだろうとは予想していた。
しかし予想以上に腹が立ってくる。これ以上は耐えられそうにないと思ったは、少しだけ言葉を荒げた。
「だから時間無いって言ってるんです。いいから退いて下さい」
先ほどからそこから離れようとするが、目の前に男が立ちはだかる為にそれも叶わない。
それがを苛立たせる原因の一つにもなっている。
男はそんなの様子など全く意に介さず、未だに「良いじゃないか」の一点張り。
「なんだよ〜。せっかく俺が声かけたんだから即OKだせよな〜。だからモテねぇんだよ・・・・っ」
「そんな台詞はてめぇの顔を半日鏡で見つめてから言えよな、この下衆野郎」
堪忍袋の緒が切れた。思わず言葉も荒くなる。
考えるより先に手が出ていたの右手は、がっちりと男の顔面を鷲掴んでいる。
ギリギリと音を立てて力を込めていけば男はバタバタと暴れた。頃合を見計らってが手を離せば男は顔を押さえて地面に崩れ落ちた。
そんな男へは一瞥もくれずにさっさとその場から去ろうとしたの目の前に、突然影が落ちる。
「おいこのクソ女・・・俺の可愛い弟に何してくれちゃってんの?」
「あ、アニキ〜!!」
痛々しいブラコンが他の仲間を引き連れやってきました。
とうとう耐えられずはあからさまに嫌な顔をして目の前の男と、先ほどのナンパ男を交互に見つめた。
溜息をついて視線を逸らす。その顔からは既に表情は消え失せていた。
「朝っぱらからナンパとかもありえないけど、何よりあなた。朝からはあまり見たくない濃い顔ですね。 チッ、胃が凭れそうだよ」
「んだと〜?」
すごい睨みを利かせてきたがはそんなものは針の穴ほどにも恐いとは思わなかった。
何せあの万事屋の中で生活しているのだから、ちょっとやそっとでビビっているわけにはいかない。
男は視線を外したままのに苛立ったのか、突然腕を掴み引っ張ろうとした。それに驚いたは咄嗟に行動してしまう。
「ちょ、なにすんだコノヤロウ!!!!」
「ゴフッ!!!!」
思い切り顔面を殴り飛ばしてしまった。
男が手を離し倒れてほんの暫くして、は自分のしでかした事を理解した。
ヤバイと感じた次には本能的に、体を反転させ逃げる準備。
「何しやがんだこのアマ!!!!!」
男たちが叫ぶのと、が逃げ出したのは同時だった。
もちろんを追いかけようと男達も走り出す。だがは人が行き交う道でも、人の間をひょいひょいと抜けていってしまう。
男たちはぶつかりながら、つっかえながらも追いかけてくる。もうすでにそれで差がかなり開いていた。
の逃げる足は止まることなく、それから十分は右へ左へと曲がり男たちの気配が完全に消えたと確信した時やっと、その足は止まった。
「はぁ・・・はぁ・・・・・、たく、しつこいよ・・・・・さて、帰るか・・・・・・・・・・・・あれ?」
息を整えては前屈みだった体を起こし、周りを見渡した。
そこで初めて気付く。
「ここ・・・何処?」
道に迷った事に。
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