前へ進め、お前にはそのがある

>繋がり -act04-







勝負は三対三で行うと言う事で、万事屋側からはお妙、神楽、銀時の三人。
真選組からは近藤、沖田、土方の三人ということとなった。審判は公平に、ということで両陣営から新八そして。


「俺、山崎が務めさせてもらいます」


新八の横に立つ山崎をみれば、如何にもといったような公平に事を運んでくれそうな真面目な人に見える。
そうは思いながら周りのむさ苦しいギャラリーの中にその内の一人として立っていた。
しかし公平に事を進めるにしても、出してきた条件は花見場所とお妙を得るなどといったもので、それではまるで山賊のようだ。
新八がツッコミを入れれば何処からともなく山崎が取り出したのはソーセージ。


「じゃあ君らは+真選組ソーセージだ! 屯所の冷蔵庫に入ってた」


「要するに、ただのソーセージじゃねーか!! いるかァァァ!!」


「ソーセージだってよ。気張っていこーぜ」

「オウ」


激しいまでの新八のツッコミなど聞こえないと言うような態度で、銀時と神楽は気合を入れていこうとする。
もちろんそんな二人へのツッコミも忘れないのが新八だ。


「バカかー!! お前らバカかー!!」

「いや、でもソーセージ大事だよ。あれがあればパンの耳に新たなメニューが加わるんだよ。これはかなり重大だよ」


思い出したくも無い寂しい昨日の万事屋の食卓を思い出したは新八のつっこみに反論するかのように言うが、もちろんその声は届いていない。
しかしそんな事を気にしていないの脳内ではすでに、いかに無駄なくソーセージとパンの耳を美味しく経済的に食べれるかという考えがめぐらされていた。
この年でそんな苦労を背負う事になるとは、まさかは思っていなかっただろう。
そうこうしている内にお妙と近藤の試合は始まっていた。しかし、開始直後すぐに強制終了となる。
お妙がなにやら呪文を唱えながらすごいオーラを発してハンマーを構えている。
正直はそれを見なかった事にして忘れてしまいたいと思ったが、そういったことに限っていつまでも忘れないものだ。


「ちょ・・・、お妙さん? コレ・・・もうヘルメットかぶってるから・・・ ちょっと?」


―― ドゴ




鈍い音と共に崩れ落ちた近藤。折れたハンマー。
全くルールを無視したやり方に一瞬固まった真選組の隊士達は気づけばお妙に食って掛かろうとしていた。
遠めで見ていたは、それがいかに自殺行為なのか。それをまだ知らない隊士たちが少しだけかわいそうだとも思っていた。
次の瞬間には全員がそれを思い知る事になるが。


「新八君、君も大変だね・・・」

「もう慣れましたよ」


悲しい会話だ。新八の台詞が更に悲しさを際立たせてくれる。思わずは目尻をおさえた。


「えーと、局長が戦闘不能になったので一戦目は無効試合とさせていただきます。 二戦目の人は最低限のルールは守って下さい・・・」

「そうは言いますけど、そもそもこのメンバーでルールを律儀に守る人っているんですか?」

さん。それを言ったら元も子もありません」


の素朴な呟きに対しても新八からのツッコミは的確だった。
そんな彼等の目の前では凄まじい速さで勝負をしている沖田と神楽がいる。
あまりの速さに驚く周りの隊士達はどよめいた。そんな彼等とは逆に冷静にその勝負を見ている二人がいる。



「ホゥ。総悟と互角にやりあうたァ、何者だあの娘? 奴ァ、頭は空だが腕は真選組でも最強をうたわれる男だぜ・・・」

「互角だァ? ウチの神楽にヒトが勝てると思ってんの? 奴はなァ、絶滅寸前の戦闘種族”夜兎”なんだぜ。スゴイんだぜ〜」

「なんだと、ウチの総悟なんかなァ・・・」



「ちょ、お二方それ以上はやめて! 聞いてるこっちが恥ずかしいからやめて!!」

「っていうかアンタら何!? 飲んでんの!?」

「あん? 勝負はもう始まってんだよ」

「何のですか・・・・」




もうこの二人は止めようがない。はさっさと見切りをつけ「次はテキーラだ」という台詞を聞かなかったことにした。
飲み始めた大人ほど手をつけられないものは無い。昔誰かが言っていたような、言っていなかったような。
改めて第二戦目はどうなったのかと二人の方を見れば、思わずそのまま視線を外してしまった。
どちらもハンマーは持ってないわじゃんけんすらして無いわ。


「だからルール守れっていってんだろーがァァ!!」

「ほらね。だから言ったんだよ。ルール守る人いるんですかって」

「そ、そりゃそうですけど・・・・しょーがない。最後の対決で決めるしかない。
 銀さっ・・・「オ”エ”エ”」

「あー、あー・・・・・」



無茶するから・・・・。
は隠す事もなく呆れた顔をしながら二人の背中を擦ってあげた。これぐらいの優しさは必要だろう。
大体二人のバカみたいなペースで吐かない方がおかしい。これで平然としていたら化け物だ。


「すまねぇ・・・・おい。おめーはちっと離れてろ・・・・」


フラリと立ち上がって銀時が土方を見据えた。
本人はとっても真剣なんだろうが、酔っ払っているせいか目が座っているだけにしか見えない。


「このまま普通にやってもつまらねー」

「いや、お願いだから普通にやって下さいよ」

「ここはどーだ。 真剣で”斬ってかわしてジャンケンポン”にしねーか!?

「上等だコラ」


聞いちゃいないだろうし、聞こえてもいないだろうが言わずにはいられない。
そう思いながら呟かれたの言葉はやはり綺麗さっぱり無視されている。
とりあえず言われたとおり、離れていたほうが良さそうだとはそこからさっさと離れてしまった。
土方などは黙っていればかっこいいと思うが、こんなべろんべろんに酔ってしまっていては駄目な大人にしか見えない。
の中での土方の人物像が間違った方へといきそうだ。
二人ともフラフラになりながらも、銀時のほうが微かに意識はあると思われる。一応、気遣っているような言葉をかけたがそれも「上等だコラ」で斬って捨てた。



「いくぜ」

「「斬ってかわして」」


もうどっちでもいいから早く酔いつぶれてしまえ。
の視線は呆れから蔑むものへと変化していた。正直勝負など、もうどうだっていい。
そんなからの視線にも気付かず本人達はいたって真剣だ。


「じゃんけん」

「「ポン!!」」





「とったァァァァ!!」











・・・・なにを?




はそう銀時に聞きたくてたまらなかった。
斬って倒れた桜の木に向かって峰打ちじゃないのに「峰打ちだ」と言っている姿は呆れの境地に達する。
土方に至っては定春相手にじゃんけんをしている始末。


「・・・・・もうやってらんねぇよ」


あまりの馬鹿らしさに思わず唾を吐いてしまった。
正直女のすることじゃないが、そんな事気にしていられないほどなのだから仕方がない。


「お互い妙な上司がいて大変ですね」


全くだ、と山崎の言葉に深く頷く。結局その後皆で愚痴などを肴にして飲みなおそうという事になったが、その後ろではいまだ沖田と神楽が戦っていた。
そして何時の間にか銀時と土方の姿は消えていたが、はそれに気付いても気付かないふりをする。
ここまで来たらもう関わっていられない。
しかし酔った勢いだとしても、真剣を振り回すのは好ましくない。帰ってきたらお仕置きだと、密かにの右手は唸っていた。





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