前へ進め、お前にはそのがある

>繋がり -act03-







綺麗に舞う桜の花。それを見上げながらは昔誰かが言った、桜の下には死体がある。などと言う話を思い出した。
一体桜に何の恨みがあってそんな事を言ったのか。
そんなこと解らないし、解りたいとも思わない。今はただ、この綺麗な桜を堪能しようと改めてお妙へと向き直る。


ちゃん。着物似合ってるわよ。よかった」

「あ、ありがとうございます。大事に着させていただきます」


昨日、新八はお妙から預かってきたと言い出してきたのは数着の着物。もう着なくなったからとにあげると言う事だった。
淡いピンクや山吹色と落ち着いた色の着物を見て、は素直に喜びすぐに着替えてみれば、少しばかり歩き辛い。
もともと着物を着てバタバタ動き回るのもおかしいが、それでも何かあったときの事を考えるとこれではあまりにも不便だ。
は神楽が見ていたファッション冊子から動きやすいであろう形をチョイスしてすぐに改造してみた。
正直、生足が出てしまうのは気が引けたが、それはまた今度考えようと次の課題として保留にした。



「ハーイ、お弁当ですよー」


の返事に気を良くしたお妙は持ってきたお弁当を銀時たちの前に出す。
正直の中でのお妙の人物像は、けっして怒らしてはいけない女性となっているが、それはそれ。
きっと作ってきたお花見用のお弁当の中身は、質素ながらも女性らしい物を散りばめた物に違いないと、内心ものすごい期待していた。


「ワリーなおい、姉弟水入らずのとこ邪魔しちまって」

「いいのよ〜。二人で花見なんてしても寂しいもの。ねェ新ちゃん?」


新八へと問い掛けるお妙だが、心なしか新八の視線が逸らされているようにには見えた。
きっとそれは気のせいだろう。きっと桜に見入っているだけだろう。半ば強引に自分に暗示をかけ銀時が遠慮なく、と言って開けた蓋の中を一緒に覗き込んだ。
そこにはなんとも言えない、黒い塊がその存在を強く主張していた。


「なんですかコレは? アート?」

「私卵焼きしかつくれないの〜」

「・・・卵焼き・・・」


お妙の言葉に恐る恐る、目を背けた中身をもう一度見た。どう見ても卵であった名残など微塵も残っていない。
隣で焼けた卵だかわいそうな卵だと必死に、コレを卵焼きでは無いと否定しようとする銀時の言葉が聞こえる。


「いいから男はだまって食えや!!」


次にはなんとも言えない音と、銀時が沈んだ音が聞こえた。
隣を見れば神楽が暗示をかけて一生懸命食べている。食べること大好きな神楽が、すごい必死だ。別の意味で。


「これを食べないと私は死ぬんだ・・・ これを食べないと私は死ぬんだ・・・」

「暗示かけてまで食わんでいいわ!! やめときなって! 僕のように眼が悪くなるよ」

「そうか・・・新八君の視力はその所為で・・・・」


新八の身内としての苦労がちらりと垣間見えは思わずホロリと涙を押さえる仕草をする。
しかしなんだかんだでちゃっかり、銀時曰くかわいそうな卵には一切手をつけないあたり、強かだ。


「ガハハハ 全くしょーがない奴等だな。
 どれ、俺が食べてやるからこのタッパーに入れておきなさい」


突然降って湧いたように見知らぬ男がタッパーを手に持ち立っている。
はどこかで見たことがある顔だと思ったが、ここに来て知りあいなど万事屋メンバーとお妙ぐらいである。
もしかしたら町のどこかですれ違ったか何かかもしれないと考えていたの横を、すごい勢いでお妙の攻撃が飛んできた。




「何、レギュラーみたいな顔して座ってんだゴリラァァ!! どっからわいて出た!!」




「たぱァ!!!」




激しい攻撃が決まった次には素早くマウントポジションを取って、容赦のない拳が舞う。
それを遠くで見つめながら銀時たちは淡々とした態度だ。



「オイオイ、まだストーカー被害にあってたのか。町奉行に相談した方がいいって」

「え、あのゴリラってストーカー何ですか」

「いや、たしかにゴリラ顔ですけどね。それにあの人が警察らしーんスよ」



ゴリラで警察でストーカーなんて救いようがない。
そう言えば以前、新八の家に行った時に似たような光景を目にした。もしかしたらあの時かっ飛ばされたのはあのゴリラかもしれない。
はそう思いながらお妙に殴られているゴリラへ合掌していたが、よく見れば人だった。そろそろ人の顔の原型がなくなりそうな気もしたが。


「世も末だな」

「悪かったな」


後ろから聞こえた声に振り返れば、黒い着流しを来た人を先頭にやたらと厳つい顔つきの男の集団。
先頭に立つ人もやたらと目つきが悪い。その目つき一つで軽く人を殺せそうだ。
初対面に対しては口にしないまでも、なかなかに失礼な事を考えていると銀時となにやら反りが合わないらしい。軽い言い合いをしている。


「ねぇ、新八君。あの人たちは?」

「あぁ、あの人たちは対テロ用特殊部隊、特別武装警察真選組の人たちですよ」

「は、た、たいて・・・・?」


聞きなれた単語の前につらつら述べられた意味のわかるような、わからないような単語に首をかしげる。
名称が長すぎる。何だって正式名称というのはこうもめんどくさいものばかりなんだとは眉間に皺を寄せた。
新八はワケがわからないと言った顔をするに解りやすく、簡潔に説明をしてくれた。


「つまりはテロとかそう言うのに対応する為に武装した警察組織です。それがあの人たち真選組ですよ
 さっきの人が近藤さん。あの人たちの局長です。で、あの人が土方さんですよ」

「へぇー」


どこかで聞いた名前だったりするが、ここでそんな常識を気にしていたらやってられないと一切を斬り捨てた。
むしろ気になるのはそのお偉い警察が、今は花見の場所一つで思い切り血なまぐさい事をしようとしている。
何とかお妙からの攻撃から開放された近藤にいたっては、先ほどからお妙を置いていけとしつこい。
果ては自分達を動かしたいのならブルドーザーを持って来いだの、ハーゲンダッツを持って来いだの。
横から聞こえた新八のツッコミ通り、案外簡単に動きそうだ。


どんな対決だよこれ。
そうツッコミたいのは山々だったが、ツッこんだら何か負けな気がしてならない。はただ呆然と事の成り行きを見つめていた。


「てめーとは毎回こうなる運命のよーだ。 こないだの仮は返させてもらうぜ!」

「待ちなせェ!!」

「!」


土方が抜刀の体勢に入ろうとしたとき、一人がそれを静止する。
は思わずそちらへ向けばこの厳つい男どもの中では珍しい可愛い系な顔をした男が一人。横で新八が彼は沖田だとこっそり教えてくれた。
一般客の中で抜刀はよろしくないから花見らしい別の事で決着をつけよう。簡単に纏めればそういった提案をしてきた。
どうやら血なまぐさい事にはならなくて済みそうだとがほっと胸を撫で下ろせば何処から取り出したのか、ピコピコハンマーとヘルメットを装着していた。




「第一回陣地争奪・・・ 叩いてかぶってジャンケンポン大会ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

「花見関係ねーじゃん!!」




この濃いメンバーで果たして無事に終わるのかと、は思わず遠い目をしてしまった。





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