前へ進め、お前にはその足がある
>繋がり -act02-
朝、新八は少し早めに家を出る。いまだ眠っているであろう万事屋へ行き銀時や神楽を起こす事から仕事は始まっているからだ。
そして当番制で回ってくる朝食の支度。今日は新八が当番である為、いつもより早めに家を出る。
朝日を浴びて走る電車内にはまだ人は少ない。何も考えず、外を見ていれば駅でもない所でゆっくりと電車が停車した。
車内アナウンスで信号トラブルの為の一時停止らしく、3分と待たずまたゆっくりと走り出す。
その時新八の目に入ったのは、線路脇の大きく8分咲きの見事な桜の木だった。
「おはようございまーす」
「あ、おはようございます」
いつも通り万事屋のドアを開けてなかに入ろうとすれば、予想していなかった挨拶を返され驚き顔を上げた。
割烹着を着て味噌汁の入っているだろう鍋を持っているが立っていた。
ああ、昨日から万事屋に住んでいたんだっけ。
新八は中に入りながら自分の中で再確認をして、いまだ寝ているであろう神楽と銀時を起こしに行った。
「銀さーん。いい加減起きてください」
「・・・うー、ん・・・・・・」
「ほら、もう朝ですよー。さんがご飯作って待ってますよー」
居間兼オフィスとの境界である襖をあけて仄かに香る朝食の匂いを手で仰いで銀時の鼻腔を刺激する。
だが銀時はその前にの名前に微かに反応した。
「べ・・・ベアクロー!!!」
「・・・・は?」
起き抜けと共に意味のわからない絶叫をして銀時は目醒めた。
「そんな事が・・・でも銀さん、いくら何でもそんな犬猫な扱いは無いですよ」
「なんだよ。ちょっとした冗談じゃねェか。それを真に受けてあんな事するなんざ、心が狭い証拠だね。
あ、ごめんなさい。すいません。味噌汁おいしいなー。さすがちゃんだよ。
だからその手、下ろして下さい。お願いします」
先ほどの絶叫の理由を聞いた新八に昨日の出来事を説明した銀時へ、新八は隠すことなく呆れた顔を惜しげ無く見せている。
はただ黙々とご飯を食べているが銀時の台詞に右手に力を込めて微かに翳せば、銀時は持ち上げ作戦で許しを乞う。
大体の事であれば、気にしない。という言葉一つと笑顔一つでやり過ごす事ができるだが、流石に昨日は違った。
禄に説明もせずジャンプを読みふけり、こっちが聞いてやっと万事屋で住み込みで働け、という事を言ってくるわ。
付け加えて言うならば保護と言えばいいものを、拾っただの飼い主だのと。果ては猫だのパンダだの。
今まで塞き止め我慢してきたものも相まってか、はその自慢の握力を銀時へ惜しげ無くお見舞いしてしまった。しかし後悔はしていない。
「説明不足にもほどがありますよ」
不機嫌な顔も隠さずには漬物を噛み締める。
その隣で神楽は朝から三杯目のご飯を自分で茶碗に盛っていた。その顔はまだ眠気が取れきっていないようだ。
そんな3人の姿を交互に見て新八にある疑問を浮かばせる。
「あの、さんは昨日何処で寝たんですか?」
「「そこ」」
二人同時に指差したのは和室。
「じゃあ銀さんは何処で寝たんですか?」
「「そこ」」
次いでの質問の答えもまったく同じだった。
それから無言になってしまった新八をなんとなしに見れば、なにやら蔑んだ目をしている。
「ちょっと新八。なにその目。なにそれ。銀さんそんなやましい気持ちなんか、これっぽっちも無いんだよ。
だってしょうがねーだろ。二人分の布団敷ける場所なんてそこしかねェんだから」
「新八君、大丈夫だよ。ちゃんと昨日の内に衝立買ってきたから」
必死に言い訳をしている銀時の横でが言えば、確かに先ほど銀時を起こしに行ったとき、部屋に見慣れない衝立があったと思い出す。
それは部屋のちょうど真ん中に置かれ、片方では銀時が眠っていたがもう片方には綺麗に畳まれた一式の布団が確かにあった。
何よりも先ほど銀時から聞かされた昨日の出来事を考えれば、銀時が間違いを起こそう物ならば容赦なくのアイアンクローが銀時を襲っている。
多少の心配はあるがそこはもう本人たちの問題だ。これ以上つっこむ事はやめよう。そう新八は結論付け食器を片付け始めた時
神楽は既に食事を終え新聞を広げていた。何か目ぼしい記事でも見つけたのか、「おぉ」と小さく声を漏らす。
「どうしたの神楽ちゃん。何か面白い記事でもあった?」
「新八。ここの桜が今見頃だって書いてあるネ!」
見開きの記事をこちらにも見えるように広げれば、掲載された写真には見事な桜の写真とその周りで花見をする客が写っていた。
確かに今は桜が見頃だ。場所によってはまだ5部咲きの所もあるが。
新八は今朝の電車で見た8分咲きの桜を思い出した。同時に昨日、食卓でされたお妙との会話も思い出す。
「ねぇ銀さん。」
「なんだ?」
「明日皆でお花見しませんか?」
誘いながらもお妙が『腕によりをかけてお弁当を作るわ』と、言いながら浮かべた笑顔を思い出した新八だった。
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