前へ進め、お前にはそのがある

>目を逸らすな -act04-







万事屋を出てからは二人に色んな所を見せてやる!とあちらこちらへと色々な場所を案内された。
と言っても歩いていける距離なので、それほど広範囲でもなかったのだがにとっては珍しいものばかりで、とても楽しんでいる。
まるで子どものようにあれは何だ、これは何だと二人と手を繋いで右へ左へと道を歩きつづけた。
日も沈み始めた頃、小さな駄菓子屋の前に三人は立っていた。



「で、ここが私がよく酢昆布を買う駄菓子屋ネ。ここで買うのは、他と買うのとは一味違うヨ」

「へぇ、メーカーが違うのかな?」

「ちっちっち。は甘いアル。ここの酢昆布はおばちゃんの成分で酸っぱいアル」

「神楽ちゃん、そう言うけどそんな酢昆布食べてる君は幸せなの?」



神楽の台詞に新八は冷静な口調でツッコミを入れたが、それで終われば苦労はしない。
そのツッコミに対して、酢昆布を咥えたまま不敵な笑みを浮かべる。



「ぱっつぁん・・・・わかってねぇなー。これは酢昆布をいかに愛しているかという度胸試しアル」

「なにそれ!? 酢昆布ってそう言うものなの!?」

「二人とも仲が良いんですねー」



二人のやりとりを隣で見ていたは思わず笑ってしまった。
の言葉に同時に振り返り顔を見合わせる。
新八ははぁ、まぁ・・・などと、酷く曖昧な答えを返してきた。神楽は暫くの顔を見ている。



はなんで敬語を使うアル? もう私たち他人じゃないネ。もっと新八も顎で使うといいよ」

「ちょっと神楽ちゃん、それ酷いね。酷いよ。いくらなんでもさんはそんな事しないよ」

「あー、敬語の方がすらっと出てくるというか。でも敬語じゃなくていいって言うんなら」



の言葉に構わないと元気よく返事をした神楽。
気付けば日が沈み始めている。道に伸びる三人の影はどれも長く、途中で折り重なっていた。



「そろそろ暗くなってきましたね。今晩は僕の家に泊って下さい。
 神楽ちゃんもね。」

「ヒャッホイ! 今夜はすき焼きアル!」

「しねぇよ!! 今夜は焼き魚!」



新八の家に行くとなり、テンションが上がる神楽にツッコミを入れる新八。
話しながら歩く二人はいつものやり取りをしていたが、ふとが立ち止まって後ろを振り返っていた事に気付いた。



「どうしたアル? お腹でも痛いアルか?」

「えっと・・・・」

「もしかして、銀さんの事気にしてます?大丈夫ですよ。あの人はあんなことでどうにかなるような人じゃないです。
 今頃僕等の悪口でも言いながらジャンプでも読みふけってますよ」

「そうだよ。今頃イチゴ牛乳片手に、淋しく独り言もらしてるに違いないヨ」



行きましょうと言って新八は歩き出す。神楽は暫くを見ていたがゆっくりと歩き出した。
二人の足音を聞き、はほんの少し間を追いて、二人の後を追いかけた。








「ヘックシッ!!!」



いつもの椅子に座り、デスクに足を載せてジャンプを読みながら盛大なくしゃみをした銀時は、鼻を啜りながらページを捲った。
結局あれから定春は更に上に圧し掛かってくるわ、身動きが取れない時に限って家賃払えと催促に来るわ。
とどめに上に乗っていた定春は、人の体を踏み台にして家を出てしまう始末。きっと神楽のところへ行ったのだろう。
いい事など何も無かった。体の節々は痛いし殴られたところも赤くなっている。



「あー、ちくしょう。痛ぇな。おかげでジャンプに集中できやしねぇ。
 ありゃ完全に反抗期だよ、完全に俺に反抗してるよ。まったく、最近のガキはよォ。
 その時の感情に任せて突っ走るからヤなんだよ。後がめんどくせぇ」



やめたと言わんばかりにジャンプを閉じてデスクの上に置き、椅子に仰け反る。
天井を仰いでいたらまたくしゃみが出た。



「あいつら俺の悪口言ってやがるな。大体あん時も人の事さんざん好きに言いやがってよー。
 天パーは好きでなったんじゃねぇよ、生まれ持った宿命なんだよ。あれ、なんかこう言うとかっこいい?
 ま、銀さんは大人だからこんな事で怒ったりしねぇけどさ。

 ・・・・・・最近俺、独り言増えたかな・・・・」



あーやだやだ。こう言う時はパチンコだ!
そう言いながら椅子から立ち上がって玄関へと向かった。








時間はもう八時を回った。
つけたテレビでは粋な親分が町を駆けずり回り、殺人事件の犯人の動機について考えをめぐらせている。
姿形は昔の人間のようなものだが、内容は現代的。実に奇妙だ。
親分が犯人の心情を子分に熱く語る様子に、神楽は子分に同調し先ほどから「おやぶーん!!!!」などと叫んでいる。
その横でと新八はお茶を啜っていた。



「ねぇ新八君。君のお姉さんは、なんて言うか・・・個性的な人だね」

「ええ、まぁ・・・・」



テレビの音や神楽の声など入っていないとばかりに、はただ遠くを見つめて呟いた。
思いだされるのは新八の家についたときの事である。

居間に通されそこで会った新八の姉、お妙。物腰柔らかな笑顔と仕草。それでいて背筋を伸ばして歩く姿。
は見惚れてしまった。思わず背筋を伸ばして座り、少しばかり緊張もしていた。
女性らしい女性と言うのは、こう言う人の事を言うのだろう。
自分もこうなりたいものだと思いながら、その反面自分では絶対無理だとも思う。
がそんな事を考えていた横で新八は、の心を読む、などと言った事をせずとも何を考えているかなど手にとるようにわかってしまう。
伊達に長年、この姉の弟をしているわけでは無い。
お妙の今の姿がの中で音を立てて崩れるのは、もって一日だろう。

そう考えた新八だったが、それは三十分ともたなかった。

四人がそれぞれ談笑していた時、がたん、と。確かに床下から音が聞こえ、四人の耳にその音は確り捉えられていた。
がその音が何だと考える間もなく、突然目の前のお妙が立ち上がり、次にはちゃぶ台が乗っていたお茶請けやお茶たちと共に中に舞う。
お妙はちゃぶ台を薙いだ薙刀を次には深く床へと突き刺し貫いていた。
その一連の動きはにはまるでスローモーションのように映し出され、飛んでいったちゃぶ台は音を立てて畳の上に無惨に転がる。
その音を遠くに聞いたの横をお妙は一歩踏み込み庭へと飛び出る。
咄嗟に振り返った先には、一瞬だけゴリラのような何かが見えた。



「おた
「死にっさらせこのゴリラァァァ!!!!!!」



鈍い音と共に、薙刀が風を切る音が聞こえた。
そして同時には自分の中のお妙の女性らしい女性像が崩れる音も聞いた。



「おー、今日もよく飛ぶアルなー。ゴリラ」

「姉上、そろそろ行かないと仕事遅れちゃいますよ」

「あらいけない。それじゃあ行ってくるわね。戸締りはちゃんとするのよ。
 ちゃんも、お構いも出来ないけれど、どうぞ我が家だと思ってゆっくりしていってね」



日常によくあることなのだろう。むしろ先ほどの事は無かった事にされている感も否めない。
薙刀を手に振り返り微笑むお妙の言葉に、はただ小さくありがとうございますと呟くのが精一杯だった。





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