前へ進め、お前にはその足がある
>目を逸らすな -act03-
「・・・・というわけでして、バナナに滑ったらあそこに居たんですよ。ここがどこかもわからないし、見たことない生物は盛りだくさんだし。
空には未確認飛行物体が確認できるしで、困った事尽くしでどれから解決したらいいのやら。
流石の鋼鉄のハートもこれには参りそうですよ」
「そうですね・・・それは困りますよね」
静かになった後、は神楽に出会うまでの事を話した。包み隠さず。
それを三人は相槌をうつ意外返事などしない。どうやら先ほどのあれが効いたらしい。むしろ効きすぎた。
目もあわせてくれない。
しかし内心では『鋼鉄のハートってなにそれ?しかもいまどきバナナってお前ね・・・』などとツッコミは忘れない。
ただ恐くて口に出せないだけだ。下手な事言ったらこの頭蓋骨が先ほどの林檎の二の舞となりそうで恐い。
ちらりと視界に入った林檎の残骸。思わず背中に寒気が走った。
「あのー・・・本当に分かってます? と言うか目ぐらいあわせて下さいよ。なんか淋しいです。
・・・って、あれ? なんで皆さん涙目なんですか?」
「いや、あの、ちょっと、目にゴミが入っちゃって」
確実に嘘だろう。目が泳いでる。
気付いてもあえてそこには何もツッこまずは更に続けた。
「とりあえず一番気になってることなんですがね、何であんな色々地球外的な生物が二足歩行で歩いているのかと。
むしろあれは何?という気持ちなんですが」
「何って・・・・・ありゃー・・・天人だよ」
「あまんと?」
銀時からの返答を鸚鵡返ししながら、やっとまともに話しが進むと安心する。
「そう、天人。
あんたが言ったとおり、この星の奴等じゃねぇよ。まぁ、あんま詳しく話すと長ェからな、そこらへんはまた追々説明してくよ」
「はぁ、助かります」
いまだ微妙に目線を合わせてくれないが、それにめげずはこの町の事、軽い情勢。
その場その場で気になった事を聞いていった。
万事屋へ来てもう3時間は経っているだろう。その頃には大方の事はわかったが、同時にの頭はこんがらがっていた。
もう結論としてあげるならばここは知らない場所、など小さな問題では無い。
まったく違う、異なる世界。何の冗談だと叫びたい気持ちが少しだけ湧き上がった。
バナナに滑って転んで落ちた先が異世界でした、だなんて本気で笑えない。
あんな所にバナナの皮捨てた奴出て来い。今ならその体から血液を3分の一抜くだけで勘弁してやる。
「あの、大丈夫ですか?」
物騒な事を考えて押し黙っているをみて、落ち込んでいるのかと勘違いした新八は気遣って声をかける。
その心配もよそに、は顔を上げて意外とあっけらかんとした口調で答えた。
「ええ、まぁ。
突然こんな事になってしまった原因の一つであるバナナの皮捨てた奴を脳内で殺・・・お仕置きしてましたけどね」
「そうですかすいません邪魔しちゃって本当ごめんなさい!!!」
一瞬漏れた不吉な単語に過剰に反応する。
やっとあわせてくれた視線がまた外れてしまった。
「つーか、なんであんたそんな平然としてるわけ?
普通そんな摩訶不思議な事に巻き込まれたらさ、もっとこう「なんじゃこりゃぁ!!!」みたいにならねぇ?」
「その台詞を言う時はどてっ腹に手を当ててブルブル震えるのがツウのやりかたネ!」
「あー、まぁなっちゃったもんはしょうがないかなーと。慌てても何もいい事ないですし、気にしないのが一番です。
何よりも今はこの後の事を考えなきゃいけませんから。住む所とか色々。
あと、正直そちらからは言いにくいかと思うんで言わせてもらいますけど、私の話は半信半疑じゃないですか?」
つらつらと述べられるの言葉に呆気に取られながらも、最後の言葉に新八は思わずグッと息を飲んでしまった。
確かに半信半疑だ。突然そんな「異世界からやってきたぜ、ヘイ!」みたいな事言われても困る。
だがこうも気にしてる様子が無い言い方をされると逆に気になってしまう。
もしかしたら自分たちに気を使っているのかもしれない。
「その、えっと・・・・」
の言葉に正直に答えていいものか迷った。
だからといってそんなことは無い、などと言ってもあまりにも見え透いている。
言い方一つでもしかしたらを傷つけてしまうかもしれないと、気を使って色々と言葉を捜していた新八の努力は
隣からの突然の返答で無惨にも打ち砕かれた。
「まぁ、そうだな」
あまりの事に言葉もだせず、横からただいつもと変わらない表情の銀時を凝視した。
視線に気付いているだろう。しかし銀時はまったくそちらには目もくれず、真っ直ぐにを見据えた。
「異世界だぁ? んなもん、突然言われたってねぇ。こちとら今の現実受け止めて、精一杯生きるのでもう必死なんだよ」
「ちょ、銀さん!!」
「ババァは毎月家賃家賃ってうるせぇし、大喰いのガキと犬が居るし。
そのくせ仕事だってまともに入ってこねぇし、糖分とれねぇしでイライラす ゴベフッッ!!!!」
言葉の途中で銀時は右から新八の右ストレート、左からは神楽のハイキックが見事に顔面へ決まった。
浮いた体が大きな音を立ててソファの背凭れを越えて後ろへと落ちていく。
突然の事には目を見開いて固まった。
「イライラすんのはこっちだこの駄目人間!!! アンタ最低だ! 本当最低で最悪な天パーだ!!!」
「お前はもう一回糖分から人生やり直すネ! の気持ち考えろヨ!!! この社会の負け組みが!!!」
怒り心頭の神楽の新八は床に倒れた銀時を一瞥して罵声を浴びせると、踵を返した。
玄関へと向かう過程で神楽はの腕を掴むとそのまま外へと出て行こうとする。
「あの、え、ちょ、いいんですか!? さ、坂田さんあんな状態で・・・」
「良いんですよ、あれぐらいしなきゃあの駄目天パーは自分のした事気付かないんですから!」
「行くアル。ここに居たら天パーが伝染するアル。定春、そいつ噛み付いてやるヨロシ」
「ワン!」
「アギャー!!!!!!」
ぐいぐいとの腕を引っ張りながら、銀時へとトドメを刺してとうとう、外へと出て扉を閉めてしまった。
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