冥界の双犬はを纏い

-act 03-







―― 使者として赴かせた者を、二、三日ほど聖域で息抜きさせてやってはくれまいか



それが紙片に刻まれた文字だった。
ハーデスの気紛れか、それとも怒涛の復興作業を終えた今も特に休みもとらずに居るへの気遣いか。どちらにしてもアテナにとってはどうと言うことでなくとも、アテナを守護する者達としてはとんでもない事だった。
正直としては、このまま冥界に帰っても支障はないのだが、帰らなくても仕事がたまるといった事もないため、留まっても支障は無い。
教皇の間の外れにある客室に半ば押し込められるようにして連れて行かれたは、緊急会議をしている黄金聖闘士へ内心、申し訳ない気持ちを抱きつつ、親書を渡された際のハーデスの悪戯めいた笑みはこの事だったのだろうとも結論付けていた。
今頃ジュデッカの奥の間では、今の状況を想像してまた笑みを浮かべているのではないかと、予想しつつ紅茶を啜った。目の前では見張りも兼ねたカミュが座っているが、二人の間に会話は無い。それに居心地の悪さを感じる事もなく、は至極マイペースにお茶請けを口にした。


「あ、このクッキー美味しい。あの、カミュさん・・・これって、包んで持って帰っちゃ駄目ですか?」

「・・・後で聞いてみよう」

「ありがとうございます」


客室でお茶請けをつまみつつがまったりして居るとも知らず、教皇の間では緊急招集された黄金聖闘士が唸りを上げていた。その場に集まったのはシオンとアテナ、黄金聖闘士八人。
五老峰に戻っている童虎や長期任務に出ているシャカにシュラは不在だった。
三界で定期報告の為使者を遣わすのは元々三神によって決めたこと。そこに問題は無いが、突然使者を暫く滞在させてくれ、などと言われれば不審な思いが芽生えてもおかしくは無い。しかしいくら何でも、聖域を探るなどといった事を今の状態でするほどハーデスは愚かな神では無い。そうと分かりつつもやはり心のどこかでは不信感が拭えず、その真意は一体何なのかと誰もが考えるが答えがすぐに出るわけもなかった。


「チッ、これ以上話し合っても埒明かねぇよ。つまりは奴を休ませりゃお互い問題は無ェんだろうが」

「そう簡単な事では無いぞデスマスク。相手の真意が何か分からぬ以上・・・」

「しかし、だからといって相手はあのハーデスだ。そう無碍に断れば後々困る事にもなろう」


サガの言葉を切ってアルデバランが反論すれば、どちらの意見も否とも是とも言い難く、誰しも口を閉ざしてしまう。
先ほどからずっとそんなやり取りが続く会議だが、不毛すぎると、ムウは傍から見て思っていた。
結局は答えは行き詰まり、もしかしたらこうした慌てふためく様をハーデスは想像し楽しんでいるとでも言うのか。それならば趣味の悪い楽しみ方だとけして口にはしないが、かわりに心内での悪態は確りとつかせてもらった。
その隣でミロが自分たちの問答だけではもう纏まらないと判断し、ここは最終決定を下すしかないだろうとアテナへと問う。


「アテナ、如何いたしますか?」

「そうですね、皆さんの言う事もわかります。ですが、これはハーデスからの個人的な願いだと、私は受け取ります」

「では・・・」

「ですがやはり、まだ聖戦が終わって一年。聖域には冥闘士を見て快く思わない者が居るのも事実」


それが後に響く問題となってはどうしようもない。多少窮屈かもしれないが、十二宮内のみという制限付きで滞在してもらおうと言う結論に至った。
何かあったとして、十二宮内ならば黄金聖闘士がいるしすぐに駆けつけられる。逃げ場も早々あるわけでもない。それに十二宮の奥には一応私室を含めた生活空間と、客室が一室も請けられている。部屋の問題もまったく無い。

こうして、暫しの滞在を許されただったが、寝泊りはどなたの所にすればいいのでしょうか?と言う質問に、またその場で会議が始まってしまった。しかしまた、ああでも無いこうでも無いと意見をぶつけても、結局最後はアテナ任せにするならここは公平にアミダクジでいいんじゃ無いかと、正直話し合いが面倒になったデスマスクの提案に、最初は誰もがそんなもので決めるなど、と反論しようとした。
ならば他にいい案があるのか。結局話し合っても意見が纏まらないのは一緒だ。どこに寝泊りさせても結果は同じだろう。
正論と思える言葉をぶつけられてしまえば、言葉を詰まらせるほかなくの目の前で黄金聖闘士九名によるアミダクジ大会が始まってしまった。

正直それは、とても異様な光景だったと傍らで見ていたシオンは後に童虎にもらしたそうな。


公平なアミダの結果、滞在先はデスマスクとなったが、ここで一つの問題が出る。デスマスクは明日になれば任務で聖域を発つ予定だった。ならばもう一度やり直すかと言い出したのはアイオリアだが、それも面倒だだから、一日目は面倒見るが二日目はお前が見ろ、と言われ困惑したのはもちろんアイオリア自身だ。
そこはやはり公平にアミダで良いだろうと一応意見はしたが、誰もが「もう面倒だ」と顔で表していた事と、更にはアテナに微笑みつきで「宜しくお願いします」などと言われれば、それ以上の反論などできるはずも無い。
教皇の間を出る際にアテナはデスマスクとアイオリアへ、くれぐれもと仲良くして下さいと言っていたがそれに元気よく返事をしたのはのみだった。


「一日だけですけれど、宜しくお願いします」

「俺は別に宜しくされたくねぇけどな。いいか、あんまりウロつくんじゃねぇぞ」


巨蟹宮に着いての互いの第一声は、仲良くなるには程遠いものだったのは予想の範疇内だろう。





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