たとえ鳥のように羽ばたけなくとも
07:辛い事があった後は笑って締めろ
夕日に照らされるかぶき町。万事屋へ帰る道中、定春の上に跨る神楽の後ろでものんびりと空を眺めていた。
結局今日買った物は無駄になってしまったし、捕まって銀時達に迷惑もかけてしまった。
男たちは捕まっただろうが仕事も住む場所も見つかっていない。これからの事を考えると助かった安堵より、先行きの不安に溜息が漏れる。
「おいおい、せっかく助かったってーのにその溜息はなんなわけ?」
「あ、ごめんなさい」
「違うヨ。こう言う時はゴメンじゃないアル」
「そうですよ、あの男たちだって真選組が捕まえてくれます。もう追われる事は無いんですから、笑って下さいよ」
「・・・うん、そうだよね。皆、ありがとう」
三人の言葉にいつまでもクヨクヨしているわけにもいかないと笑ったは、前方に見覚えのある人物を見つけた。
お妙がまるで出迎えるようにして立っていた。その手にはの落したであろう買物袋。
驚いたにお妙は買い忘れがあり戻ったところに落ちていた袋に気付き、それには見覚えがあったから拾ったのだと言う。
他人の荷物をよく覚えていたものだと、誰しも思ったがけして口にはしなかった辺り懸命だろう。
差し出された荷物を受取ると何度もありがとうと、まさにペコつきバッタの状態のにお妙は構わないと笑顔で答える。
「姉上、さんと知り合いだったんですか?」
「え、新八君のお姉さんなんですか?」
「ええ。初めまして、志村妙です」
二人の言葉とやり取りが新八の質問の答えとなった。経緯を聞けば口元が引きつる新八。しかしお妙の凄さなどこの中の誰よりもよく知っている実弟だ。
けして買物風景に驚いたのではなく、たまごを手にしたという事実に驚いたのだ。
銀時と神楽は内心、たまご料理の矛先がどうぞ自分たちまで向きませんようにとただ祈るばかりだった。
そう思っていた所に笑顔でお願いがあるといってきたお妙に、一瞬びくついたが予想に反してそれは依頼だった。
仕事で人が辞めてしまい人手が足りないから手伝ってくれと淑やかな笑顔で潮らしくお願いする傍ら、その背後には断るわけないよなというオーラが見えている。
どうやら出迎えの理由はそこにあるらしい。仕事など選んでいられるわけも無い銀時達がもちろん断るわけもないが、が何の仕事なのかと聞いてきた。
それに答えたのは新八で、キャバ嬢だと聞いたは少し思案するように俯いた。
「あの、私でも出来ますか?」
「え!? ちょ、ちゃん、お前キャバ嬢やるの!? いくらなんでもキャバ嬢は無ェって、実家でお父さん泣いちゃうよ!」
「でもこの間送った手紙で、そろそろちゃんと仕送りするって書いちゃいましたし。それにキャバ嬢と言っても、ようは接客業ですよね?」
「ええ、ちょっと困ったお客様もたまに居るけれど、ほんの少し痛い目見せてあげれば黙るから大丈夫よ」
「姉上、それはもうすでにキャバ嬢のやる事じゃ無いと思います」
必死になって止めようとする銀時だがは意外と頑固だったらしい。
この後も仕事だからその時に店長に話してみるというお妙の言葉に、宜しくお願いしますと言われてしまえば銀時達ももう何も言えない。
結局は本人の意気込みより能力である。銀時への依頼を共にこなし、その時のの接客振りなどを見て判断するという事だった。
元々楽観的でマイペースの。それでいてみょうに勇気を出す時もある。
困った客への対処もたまに過激な時もあるが、そこそこやっていけそうだと判断されたのだろう。
依頼の後すぐに正式に雇われ暫くして、ある程度お金を稼いだところで銀時達が比較的仕事場に近い家も見つけてくれた。
冬独特の晴れ渡った遠い空が広がる日曜日。とうとうが万事屋から新居へと移る日がやってきた。
「本当にありがとうございました」
「まぁ依頼だったし、ちゃんとオメーも仕事続けられそうだし。よかったじゃねーか」
「、辛い事があったらとりあえずこれ食べるアル! 辛い時には酸っぱいものってよく言うヨ!」
「聞いたこと無いよそんな情報。・・・まあ、姉上も居ますし大丈夫だと思いますけど、もし何かあったらまた何時でも来て下さいね」
「はい。本当に皆さんには色々とお世話になりっぱなしで・・・、」
いつまでも続きそうだったの言葉も、途中で途切れる。
グズッと鼻を啜る音が聞こえたが、俯かせた顔を上げたは泣き顔も隠すことなくそれでも確りと笑って、もう一度ありがとうと言うと階段を下りていった。
手すりにつかまり神楽が身を乗り出して階下を見れば、ちょうど階段を降りたの姿が目に入る。
二人も神楽と同じように去ろうとするその背を見れば突然、が振り返りバッチリと目が合う。
互いに一瞬、動きを止めたがは満面の笑みを浮かべると、最後の一礼なのか。
髪が地面につきそうなほどにお辞儀をすると、とうとう人込みに紛れてしまった。
「行っちゃいましたね」
「銀ちゃん、また会えるかな?」
「会えるだろ。故郷に帰っちまったわけじゃねェんだからよ」
実にあっけないさよならだった。だが別にこれで二度と会えないわけではない。
逆にウダウダしているよりもさっぱりしてていいし、何より湿っぽいのは苦手だと銀時は万事屋の中に入ってしまう。
広いが意外と狭くも感じるかぶき町。同じ町に住んでいるのだからこの先、ひょんな事から出会う事だってあるだろう。
口にせずとも銀時の言いたい事を汲み取ったのか、それ以上は神楽も新八も何も言わず中に入った。
そこで銀時が気付いたのは居間のテーブルの上にちょこんと置かれた何か。見ればどうやら手紙らしいそれは、に宛てられたもの。
この間故郷へ手紙を送ったらしいから、多分その返事だろう。
銀時の手に持たれたそれを見て新八は、そういえば渡すのをすっかり忘れていたと、間の抜けた声を出した。
「しょうがねーな。明日にでも届けに行ってやっか」
どこか抜けててやっぱりお前はダメガネだと罵る神楽と抜けてる事とメガネは関係ないだろうと鋭いツッコミで返す新八。
いつものやり取りと変わりないと言うのに、それでもどこか楽しげに見える二人の姿を銀時は穏か笑みを浮かべみていた。
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