前へ進め、お前にはそのがある

>色取り取り -act01-







異常気象の続く江戸の町。ここ最近降り続けた雪は、ネオンの色で染まる町を見事白で染め上げた。
ただでさえ寒い冬にコタツ以外の暖房機器の無い万事屋。
降雪で更なる冷え込みが襲い掛かり、四人は仕事の無い時はもっぱらコタツにみかんで過ごしている。
普段ならば依頼などあまり来はしないのだが残念ながら、こう言う時に限って仕事が舞い込んできたりするのが世の中の仕組みだ。
一応動き回った事もあってそこまで寒さを感じてはいないものの、お風呂から上がれば向かうはコタツの中。
肉の入っていない安売りの野菜をのみを入れた野菜鍋をつつきながら、いつものように夜が更けていく。
ふと、時計を見ればもうそろそろ新八の帰宅する時間だ。しかし生憎、この積雪で電車が止まっている。
歩いて帰れない距離でも無いが、わざわざ帰るほどの事など無いだろうと、泊まって行くことになった。
窓の外では今だチラつく雪が音も立てず舞っている。


「いやー、それにしても、本当よく降りますよねェ」

「まったくだ。寒くてやる気も起きやしねェ」

「大丈夫ヨ。銀ちゃんは元からやる気なんて無いネ」

「そんな事ないよ。銀さんはやる時はやるもの。やらない時はやらないけど。ね、銀さん?」

「おお、そうだよ。はよく分かってんじゃねーか。オメーらも常に全力疾走はいかんよ。俺みたいに、力を温存するのが大事なんだよ」


自分の言葉に頷きながらもう一つみかんを手に取った。
銀時の切り替えし方などいつもの事で、誰も深くはとりあわず軽くあしらう程度だが、それもいつもの事。
気にした様子もなく、も摘んだみかんを口に入れようとした時、呼び鈴が鳴った。
一瞬にして固まり視線をぶつけ合う四人は、誰がコタツから出て寒い玄関先へと来客の対応をしに行くのかと視線での応酬を始める。
お前は来客対応が仕事だろう、と新八へ視線を向けたが軽く流して、自分がいない時の為にここは神楽ちゃんが練習も兼ねて出るべきだ、と訴える。
私今更だけど日の光だけじゃなくて雪にも弱い設定ネ、だからが行くヨロシ、など明らかに今作っただろう設定を持ち出して最後の矛先が向けられた。
もちろんここで簡単に折れるではなく、ここの家主はそもそも銀さんで、万事屋の社長なんだから銀さんが出るのが一番の道理です。と神楽の視線を弾いた。
そこからはトカゲの尻尾切りの状態が続き、グルグルと同じように視線のみの押し付け合いは終わることは無く、その間にも何度も呼び鈴が鳴り続ける。


「これじゃ埒があきません。こうなれば、最後の手段ですね」

「そうだな、だがあまりこの手段は使いたくなかったが・・・」

「仕方ないヨ。こうしなきゃ何時までたっても終らないアル」

「じゃあ皆、いいですね? ズル無し恨みっこ無しの一発勝負ですよ」


の言葉を最後に一瞬にして張り詰めた空気。全員が神経を研ぎ澄まし、まるで先ほどから鳴り続けている呼び鈴すらも聞こえないとばかりに
四人はコタツの天板の真ん中を睨み据えるようにして、固まっていた。
シンと静まり返った和室。だがそれも一瞬で崩れ去る。全員がコタツの中に入れていた手を、天板の中央へ向かって出した。



「じゃーんけーん、ぽん!!!」



一瞬の静寂のあと、崩れるもの一名に誇らしげに腕を天へかざす三名と明暗がくっきり分かれた。
天板に額をつけ悔しがるは力無く拳を握り、軽く天板を叩く。それを見た神楽が、勝ち誇った笑みを浮かべてニヤリと笑った。


「ふっふっふー、の負けアルナ」

「悔しいー! なんであそこでグーを出したかなァ!?」

「いいから、ほれ早くいけ。今にもうちの呼び鈴ぶっ壊しそうな勢いで押してきてるぞ」

「はーい。勝者は余裕ですね、本当」


ブツブツ文句を言いながらコタツから出たは軽く身震いをして襖に手をかけた。
居間の方はやはり寒い。冷たい床を踏みしめれば、温まった足はより一層その冷たさを体感する事になる。
玄関へ向かう間もずっと鳴り続ける呼び鈴。一体こんな時間にこんなに鳴らしてどこのどいつだ、と口にしながら
妙な勧誘だったら冷水をぶっ掛けて追い出してやる、とまで思いつつ「今開けますよー」と扉に手をかけた。


「はいはい、そんなに鳴らさなくても・・・って、お登勢さん」

「まったく、アンタらは客に対して渋りすぎだよ。もっと早く出な」

「は、はぁ・・・すいません・・・。あの、それで今日はどういったご用件で・・・? お金でしたらもう少し待っていただけると・・・」

「安心しな、家賃の回収じゃないよ。今日は祭りの知らせにきたのさ」

「祭り?」


ここ最近の大雪を利用しての雪祭りを催す事を知らせにきたらしい。
江戸っ子が雪が降ったくらいで縮こまっているなんて情けない、とタバコをふかして言うお登勢だが生憎とその情けない人物は今ここに四人いる。
来客への応対をするだけであそこまで激しいやり取りをしたほどだ。この寒い中、一銭にもならない事に動く事などまずありえない。
そもそも何時ぞやのかぶと狩りの時にだって最初でこそやる気は見せなかったものの、お金が絡んだ瞬間ありえないほどの行動力を見せたのだ。
お金さえ絡めば簡単に動くのだが、などというの考えなど見通していたのだろうか。お登勢は、ただの雪祭りじゃないと、ニヤリと笑った。


「各店で雪像を作って、優勝した者には賞金が出るんだよ」

「賞金?」

「ああ。ま、あの馬鹿も金が絡めば動くだろうさ。伝えといておくれよ」


用件だけ済ましてお登勢は店へと戻っていった。
確かにお金が絡めば動くだろう。しかし、いつも張り切って空回るのが万事屋だ。
今回も、そう上手く行かないんじゃ無いかと思いながらも、出なきゃ貰える物も貰えないんだからとやはり教えておく事にした。
何よりここで教えておかねば、あとでお登勢に何かを言われた時が恐いからである。
結局は自分の身可愛さと言う奴だった。





<<BACK / NEXT>>