前へ進め、お前にはその足がある
>歩き出せ -act06-
昼も過ぎた頃、万事屋のインターフォンが一度鳴った。
新聞の勧誘かと思いながら新八はいつも通りドアをあける。
開けた瞬間後悔した。
「家賃回収にきたよ」
深く吸ったタバコの煙を吐き出しながら、お登勢ははっきりと述べる。
新八は口元を引きつらせ「どうぞ・・・」としか言えなかった。
「んだよババア。家賃もクソも出せるもんなんざ何もねーぞ」
「ふざけんじゃないよ! アンタ一体どれだけためてると思ってんだい! 三ヶ月だよ三ヶ月!」
「ウッセーな。あんまいきり立つんじゃねーよ」
「立たせてんのはオメーだろーがァ!!」
部屋に入って開口一番がそれだった。お登勢は家賃を払えと言うものの、当の銀時にはまったくその意志がない。
耳のゴミを指でほじくりながら偉そうにふんぞり返りつつソファーに座っている。
そのやり取りをは隣で視線をけして上には向けず、ただ黙って聞いてるばかりだった。
誰も止められるわけもなく、いまだ二人の激しい家賃の支払いについての応酬は続いている。
「・・・ったく、しょーがねーな。わーったよ。払えばいいんだろーが」
「なんだい。いきなり素直になったね」
まあ、払うもん払えば文句は言わない。それがお登勢の言葉だ。
銀時は神楽に「例のもん持ってこい」と言えば神楽は急いで居間から出て行き隣の和室へと入った。
そのあと起こるであろう事態を予想し、と新八は静かにそこから離れる。
少しして神楽は「ある物」を持って再び居間に戻ってきた。慎重に持っているそれをテーブルの上に置く。
聳え立つその赤いものに視線を向けながら、暫し皆沈黙していた。
「・・・・・なんだいコレ?」
「酢昆布城ネ!」
「そうかいそうかい、さしずめアンタは酢昆布の城のお姫様かい」
「違うヨ! 私は酢昆布王国の工場長アル! 毎年酢昆布を上納して国を支えている影の支配者ネ!!」
「まあ、つまりだ。この城を売るからよ、家賃の件は大目に「見れるかこの阿呆天然パーマがァァァァ!!!」
怒号と共に決まったのはお登勢の右ストレートだった。
銀時はそのままソファーごと後ろへと吹っ飛ばされる。それを見ていたは、やはり避難しておいてよかったと胸を撫で下ろした。
「・・・ってーな、クソババア! 何しやがんだオイ!!」
「そりゃこっちの台詞だよ! こんな酢昆布の空箱で作った城のモニュメントでどうチャラにしろってんだい!
こんなもん作ってる暇あるなら働いて金つくりな!金!!」
「あーあー、やだねー。年とると金にがめつくなっていけねーや」
「すぐ金できないなら、体の中身売ってでも作って来な」
凄んでそう言うが銀時はまったく意に介さない。そろそろまた本気でお登勢が掴みかかってくるかもしれない。
だが変わらない銀時の態度にお登勢は言っても無駄だと悟ったのか、新しいタバコに火をつけると溜息と共に煙を吐き出す。
「しょうがない。出せるもんがないならタダ働きしてもらうよ。どっちにしろあんたらに頼もうと思ってたことだからね」
「なんだ? 依頼か?」
倒れたソファーを直し足を組んで座りなおす。聞けば騒音被害を止めてほしいと言うものだった。
確かにここ最近、やたらとガシャンガシャンとすごい音があたりに響いている。現に今もそうだ。
その騒音を止めればとりあえず一月分は目を瞑ってやると言う依頼内容だった。
タダ働きではあるが、一月分の家賃がなくなるならそれにこした事は無い。
「とりあえず明日の朝、源外庵まで来ておくれ」
「え”、明日!?」
お登勢の言葉には思わず声を上げた。実ははここ最近、毎日バイトに出ては夕暮れまで働いてくるのだ。
朔の経営する団子屋は祭の時には出店を出す為、その準備も手伝っている為である。
四日後に控えた祭にむけて、今はラストスパートといった所だろう。
のあげた声にお登勢はなにか都合が悪いのかと聞いてきたため、そう説明をすれば感心したような声が漏れる。
「アンタ、バイトやってんのかい」
「そうだよ、ちゃんはウチの家計を思ってバイトを頑張ってくれてるのよ〜?」
どう、すげーだろ。と自慢気に銀時は言うが、残念ながら真実を知っているものからすれば自慢できる要素が見当たらない。
お登勢も呆れた目線で銀時を見るが何を言っても聞きはしないだろうと、言葉をかけるのは諦めた。
に関してはバイトの方が大事だろうから、と言うこともあり免除と言う事となった。
「真面目に働いている奴に罪はないよ。頑張ってきな」
「ありがとうございます!」
とりあえず言う事は言ったのだろう。お登勢は玄関へと向かっていったが、草履を履いた所で肩越しに振り返ってくる。
その目は鋭く、さらに逆光が味方をしてその眼光はキラリと刺すように光ったかのように見えた。
「テメーら明日逃げでもしたら・・・・・・容赦なくその体内にあるもんうっぱらってもらうから覚悟しとく事だねェ」
捨て台詞を吐き、お登勢は玄関を閉める。
その後、その言葉にただ恐怖し固まった四人は玄関を凝視していた。
こ、こここ、怖えェェェェ!!!
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