歩み進んだその後ろに、道はある

>奴を好きなのは昆虫博士ぐらいだ 01







過ごしやすい陽気の朝。は着替えてから朝寝坊の常習犯である二人に声をかけると、珍しく銀時がすぐに起きた。
昨夜は外にも飲みに行かず、さっさと寝たのが良かったのかもしれないと思いながら、朝食の準備を進める。
その間に銀時はの後ろを横切って洗面所へ向かった。


「銀さーん、私ちょっとゴミ捨ててきますから」

「んー」


まだ多少寝ぼけているようだったが、返事は確りとしている。顔を洗ううちに目が覚めるだろうと、ゴミ袋をもって外へ出た。
店の脇のゴミ捨て場に置くと、万事屋のほうから神楽の叫び声が微かに聞こえた。
外まで聞こえるほどの叫び声など、朝から発声できるなんて元気があっていい物だと、どこか的外れな事を考えながら戻ろうとする。
だが立て続けに銀時や新八の叫び声まで聞こえては、さすがに何かあったのだろうかと思うだろう。
駆け足で階段を上がったが、万事屋が騒がしいのはいつもの事だと思い直し、平常心を保ちつつ扉を開けた。


「皆どうしたんですか、外まで叫び声聞こえましたよ?」

「あ、! きちゃ駄目アル!!」

「オメーはいいから逃げろ!!」

「え、ちょ、本当何があったんですか!?」

「入ってきちゃ駄目ですっ、って後ろォォォ!!!」


居間に続く入り口に三人が転げ倒れている姿に呆れながら歩み寄れば、対照的に三人は慌てている。
後ろを指差して居間へ逃げた新八達。
銀時に手を引っ張られても居間へと逃げたが、あまりの力強さに抗議の声をあげようとした。
だがその前に、扉を勢いよく閉める瞬間、見てはならない黒い塊を見てしまいその言葉は叫び声へと変化する。


「ぎゃぁぁぁぁ!!! へ、ヘルポルスミー!!!!」

「ヘルプミーな」

「なんスかアレ。なんであんなんいるんスか?」

「あれ、ホントにゴキブリアルか」

「しらねーよ」

「知りたくも無い・・・あー、いやだ、夢に出そう」


扉を閉める一瞬見えたのは、新八ほどの身の丈を有する台所の黒い悪魔だのいわれている、ゴキブリだった。
あまりにも大きすぎて、ゴキブリそのものだと理解しがたいし、したくもない。
正直言ってしまえば脳が判断する事を拒絶している。どうせなら全て夢だったで終わらせてほしいのが本音だ。
が現実逃避しつつあるその横では、ゴキブリの急成長に酢昆布が深く関わっていると銀時が仮説を立てた。
その証拠にゴキブリに齧られたであろう酢昆布の切れ端を銀時が持っている。
酢昆布が原因だとしたら軽視できる問題では無い。なにせゴキブリ急成長の張本人になってしまうのだ。
外に出る前にここで何とか食い止め、確実に仕留めなければ自分たちの命が危うい。
こんな事ならば、ゴミ袋代までケチらずもっとこまめにゴミを出せばよかったとは内心頭を抱えた。


「新八、殺虫剤どうした? 恐らく効かねーだろうが、ないよりマシだろう」

「あっ、あっち置いてきちゃった」

「お前勘弁しろよ〜、お前はホント新八だな」

「だからお前はいつまでたっても新八なんだヨ」

「なんだァァ!! 新八という存在そのものを全否定か!! 許さん! 許さんぞ!」

「そうだよ、皆酷いよ! 殺虫剤が無ければ自分の身を使って戦えばいいじゃない! 新八君が!!」

さんもかァァァ!!」


擁護するような言葉のあとに一気に突き放す発言をしたに、とうとう新八が自棄を起こす。
玄関前においてきてしまった殺虫剤を自ら取りに行ってくると、障子を微かに開けると辺りを警戒しゴキブリの姿が無い事を確認する。
身を丸め前転で一気に転げると見事に殺虫剤を手に取る。
だがあの大きな身で一体どこに隠れていたのか。突然現れたゴキブリが新八に襲いかかる。
扉は開け放ったままだったが、壁に背を預けなるべく見ないようにしていた銀時達は、新八の叫びが落ち着いた頃にそっと様子を覗き見てみた。
そこに新八の姿はなく、殺虫剤すらなくなっている。新八がいなければ、もうここに残された自分たちがどうにかするしかない。


「スリッパ、効くかな・・・」

「何も無ェよりマシだろ、行くぞ!」

「死ねコラァァァァ!!!」


右手にスリッパを握り締めて、三人同時に巨大ゴキブリに挑んで行った。
しかしが隙あらば逃げたいとも思っていたことは、秘密である。





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