前へ進め、お前にはそのがある

>歩き出せ -act10-







銀時の我侭によりは朔の居る団子屋よりはるか入り口の近くにあるりんご飴の屋台を目指し、人波を掻き分けて歩いていた。
もっと手前でも同じりんご飴の屋台はあったが、どこもかしこも売り切れで結局入り口まで舞い戻る羽目になったのだ。
正直この祭会場を行ったり着たりは足にくるものがある。悔しいので自分の分も銀時のお金で買ってやると心に決めた。
だいたい銀時のわがままで何故ここまでしなければならないのだと、は自分へ問いかけたが進む足は止まらない。


「これが、あれかな。惚れた弱み〜とか言う奴? うわ、自分で言うと恥ずかしい・・・無し無し、今の無し!」


首を振りつつ歩いて居たらいつのまにか目的の店を通り過ぎていた。
慌てて戻り目的のものをすぐに購入する。


「お嬢ちゃん可愛いから、でかいのおまけしてやるよ」

「え、あ、ありがとうございますっ!」


おまけと言う言葉に目がキラリと光り満面の笑みを浮かべた。
屋台のおじさんはの様子に人のいい笑みを浮かべて、一際大きいりんご飴を二本差し出した。
受取った時、大きな音が辺りに響き夜空が光った。


「わっ、花火・・・・大きいなー・・・」


空を見上げあがった一発目の花火が消えるまで立ち尽くしていたは、すぐに目的を思い出して銀時の元へと戻ろうとする。
先ほどまで歩いていた人のそのほとんどが足を止め、空を見上げているため来る時よりも歩きやすかった。
だが何度目かの花火が上がったあと、突然花火とは違う音が聞こえる。
しかし舞台から遠く、周りは背の高い大人たちばかりだったためにの居る場所から煙はまったく見えない。
先ほどとは違う仕掛花火か何かかと思ったが、周りがやたらとざわつき、遠くでテロだという声があがる。
立ち止まっていた人たちが突然、ワッと入り口へ向かって逃げ惑う。人の流れの変化についていけないは、そこで肩をぶつけながら混乱するばかりだった。


「え!? な、何!? テロって・・・言ってた? ・・・っ、銀さん!


人波に揉まれながら今の状況を整理すればはすぐに銀時の元へ向かおうとする。
持っていた飴はいつのまにか消えていた。この人波だ、どこかに落したのだろう。
必死に銀時の元へ行こうと進むが、押し寄せた人の流れに逆らうのは容易ではなく、一歩進むことすらままならない。
真っ直ぐと進めているかも分からず、右へ左へと身体は流れ動いてしまう。


「ちょ、退いてくださっ・・! 痛っ、・・・・退いてッ!!」

さん!?」

「し、新八君!」


ぶつかる肩の痛みに耐えながら前に進もうとしていたの横から突然かけられた声に驚けば、新八も同様人波を掻き分けている。
少しずつ逃げる人は少なくなってきて先ほどよりは苦しくはなくなったが、それでも進み辛い事に変わりは無い。
進みながら聞かされ解った事は神楽は沖田と駆け出していってしまったと言う事と、このテロは攘夷派によるものだと言うことだけだった。
それでも進む足は止めずに新八とは櫓の方へと走る。
先ほどは銀時の事が心配で必死だったが、きっと銀時ならば大丈夫だとは言い聞かせ、そして信じた。

櫓の近くまで来ればカラクリと真選組のまさに混戦、乱戦状態。いまだ煙は辺りを漂って居る。
しかしおかしい。攘夷派ということだったがここに居るのはカラクリだけである。
その場の状況をみてなにかに気付いたのか、新八はすぐに舞台のほうへと走り出した。もその後へ続く。
舞台に上がれば源外が三郎の腕に弾をこめていたときだった。


「もう止めて下さい」

「!」

「あの人が・・・」


新八の声に振り返った男を見て、は話に聞いていた平賀源外である事を理解した。
将軍の首を狙ったテロだったがその目標が居なくなった事を知っても、次には真選組を狙うと言い出す。
なぜこんな事を。言いたかったがそれは突然聞こえた銀時の台詞によって遮られる。


「オウ、オウ。随分と物騒な見せもんやってんじゃねーか。」


「!」


「ヒーローショーか何かか?」


平然とした顔で現れた銀時の姿を見ては安心した。信じたと言っても、心配である事には変わりは無い。
ふたりの会話を黙って聞いている。銀時の言葉から聞こえた敵討ちという単語がやけに耳に残った。
生き残った事を苦しんで、こんな事をしようとしている源外の気持ちはにはわからない。



「戻らねーモンばかりながめて生きていくのは、もう疲れた」



源外にとっての居場所はなくなってしまったのかもしれない。道を踏み外してでも、ただ自分の中の何かを守りたかっただけかもしれない。
事情を知らないは憶測でしか判断できない。それは自身解っていたからこそ、口を挟む事はせずただ聞いているだけだった。
それでもその手から零れたものを追いかけて、追いつかなくて、置いて行かれて苦しい気持ちは、少しだけ解る。




「だからどけ。邪魔するならお前でも容赦しねェ」

「どかねェ。俺にも通さなきゃならねー筋ってモンがある」




それでもきっと、最後にはその苦しみを忘れこそできないが、和らげる事が出来る時がくるかもしれない。




「撃てェェェ!!」
「らァァァァ!!」




銀時が三郎へと切り込み、三郎が構えた腕を下げるその一連の動作が全てスローモーションのように見えた。
崩れていく三郎に源外が駆け寄り何故だと問えば、途切れ途切れに聞こえた言葉は、確かな心だったのだろう。
苦しいと叫んでいた源外の心が、それをさせたのか。それを助けたいと思っていた者の想いがそうさせたのか。
真実など誰にもわかりはしない。



・・・・なんだってんだよ、どいつもこいつも。 どうしろってんだ!? 一体俺に、どーやって生きてけっていうんだよ!



「さーな。長生きすりゃ、いいんじゃねーのか・・・」



項垂れる源外へ、は言葉をかけるかどうか悩んだ。
苦しくて、苦しくて。もがいて、足掻いて。溺れそうになっていた源外へ、最後に三郎が救いを与えたのだ。
きっと、差し伸べられたそれを掴み取るのを、途惑っているのかもしれない。意を決して前に出る。



「・・・源外さん・・・苦しくてもいいじゃないですか」

「?」

「苦しくても、悲しくても、もがいても、足掻いても。 いつかその分、楽しく笑える時がきっと来ます」




今、自分がきっとその時なのだろう。
苦しいと叫んで、悲しいと叫んで。暗い海に沈んでいた自分を引き上げてくれたのはここにいるかけがえの無い人たちだから。
いつかこの人にもそう言う日がくる事を願って、は静かに微笑んだ。





<<BACK /TOP/ NEXT/ Ex04-10>>