貴方と二人で
暖かい風も過ぎ去り、今の時期は誰しも身を縮こまらせて道を歩く時期。
しかしどんな時期だろうと仕事の忙しさは相変わらずの土方は、今日も自室にこもって書類の処理に追われていた。
その大半が沖田の攘夷浪士捕縛の際に起こす過激な行動に関しての始末書。
いい加減灰皿も灰と吸殻でいっぱいになってきた頃、が小脇に書類を抱えてやってきた。
寒い廊下から若干は温かいだろう土方の自室に足早に入ると、少しだけ乱暴に障子を閉める。
注意しようとして振り返ろうとしたが、それは突然のの行動で阻止されてしまった。
「うはァ〜、やっぱ副長の背中暖かいですなァ」
「・・・おい、叩ッ斬られたくなかったら、さっさと離れろ」
「えー、嫌ですよ。もうちょっと暖を取らせて下さいよ。このかじかんだ手じゃ、書類捌けないし」
「ならいっそ全身冷たくなるか? そしたらもう寒いなんていわなくて済むぞ」
ドスの利いた土方の低い声に寒さとは違う意味で身を縮こませ、冗談だと言いながら素早く離れていく。
溜息と共に吐き出されるのは吸ったタバコの煙。一気に部屋の中が靄が掛かったようになってしまった。
「ゲホッ、副長、タバコいい加減止めたらどうです? 体にも悪いし、火事の元ですよ」
「俺がそんなヤワな体してると思ってんのか? それにそんなへまはしねぇよ」
「まあ、そりゃそうですけどね・・・」
口を尖らせながらは土方の横に積まれた書類の山へ、持ってきた書類も追加すると溜息をついた。
土日も祝日も関係なく、仕事の毎日である事に不満が無いわけではない。
しかし休日だからこそ、自分たちが動かなければならないというのは判っているし、そこにいつまでも愚痴を零すつもりもない。
そもそもそれが嫌なら真選組になど入ってはいないのだから、それこそお門違いと言うものである。
ならがこうもあからさまに溜息をついているのは何故か。それは目前に迫ってくるとあるイベントに関連している。
それに関係した書類を一枚手にとり、マジマジと見つめるの目はうんざり、と言ったのがあっているだろう。
「本当にこれ、やるんですか?」
「近藤さんがやるっつってんだから、やるんだよ」
「でも、イヴとクリスマスの二日連続で市中見回りの上、はめ外さないように街頭キャンペーンなんて・・・」
一番人が浮かれる時期である年末。イヴにクリスマス。大晦日に正月と一気にやってくる行事。
何よりクリスマスは恋人同士で甘い一時を、というものが大多数だろう。それゆえに事件もおきやすい。
その道理はわかるが、これは些か一般人から反感されるのでは、という危惧。
別にはこの日を過ごしたい恋人がいるわけでも、今までいたわけでもないので、予定が崩れたなどという事はない。
むしろ仕事が入ってきてくれて嬉しいと言うのが本音。好きな人と過ごしたい、という願望がないわけでもない。
「まあ、今年はクリスマスは一人で過ごすことにならなくてすみましたけどね」
「なんだそれ?」
「皆が居ますから。屯所って一人身の人間の集積所見たいな感じだし。ほら仲間がいっぱいなら私寂しくない」
「馬鹿言ってねェで、そっちの書類分けとけ」
「はーい」
後ろで書類の仕分けをし始めたはこっそりと土方を見たが、相変わらずくわえタバコで書類に何かを書き込んでいる。
二人きりと言うわけではない。
しかしどんな理由だろうと一緒にその日いられるならそれでいいと、前向きなのかそうでないのかわからない事を思いつつ
本人には絶対知られたくはない仄かな恋心と言う奴である。他の隊士達の殆どにはバレているのだが。
それでもやはり、少しの時間でもいいから二人きりになってご飯でも食べてみたいなと思うのも複雑な女心だろう。
「副長ー、このキャンペーン終ったら、副長と二人でご飯食べたい。奢って下さいよ」
「意味がわからねーぞ。なんで俺がお前に飯を奢らなきゃいけないんだ」
「もう、副長はわかってないなー。そう言う空気を味わってみたいんですって!
二人きりが嫌なら沖田隊長でも山崎さんが一緒でもいいから!」
土方スペシャルでも何でもいいから、ご飯を奢れと土方に背中を向けて座り書類で畳を叩きながら文句を言うに、あからさまな溜息が聞えてきた。
それにも構わずたまにはそう言うのもしてみたい、と飽くまで自分の気持ちは隠しつつわがままを言えば突然立ち上がった土方は部屋を出て行く。
締められた障子を呆然としてみながら、少しやりすぎたかと反省しつつ書類を纏め始めた。
暫くして部屋に戻ってきた土方は突然の目の前に丼を差し出す。それは誰が見ても判る土方スペシャル。
一応それを受取ったが一体どうすればいいのか分からず、また背中を向けて座った土方にこれは一体何だと問えば暫く答えは返ってこなかった。
「もしかして・・・食べろと?」
「土方スペシャルでもいいって言ってただろうが」
「や、言いましたけどね。でも、え? なんで?」
「テメーの出した条件には一応見合ってんだろーが。黙って食え」
「あ、は、はあ・・・」
確かに考えてみれば今は仕事中といえど二人きりである。キャンペーンは終ってないが条件としては殆ど揃っている。
土方にとってはいい加減駄々をこねる子供をあやす程度の行動なのだろうが、にしてみればこんな些細な事でも優しい、と惚れ直すには充分だった。
仄かに温かい丼はどうやら冷凍ものをチンして暖めた丼物なのだろう。一緒に渡された割り箸を割って、恐る恐る口にする。
「・・・脂っこい・・・」
「文句言うな。黙って食え」
の声だけを聞いた土方は、の表情はしかめっ面をしているだろうと捉えただろう。
それに反しての顔は、言葉とは裏腹に笑みと言うにはあまりにも締まりのないニヤけ面だった。
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