好いて惹かれて







客のこない午後の万事屋。
定春にもたれかかりながらテレビを流し見している神楽に洗濯物を畳んでいる新八。その横で銀時はジャンプを読んでいた。
いつもと変わらない風景に突然玄関を叩く音が響く。
それも普通の叩き方ではなく、まるで借金の取立てかと思えるほど激しい叩き方である。
三人が無言のまま顔を見合わせると、そのまま無言でじゃんけんをする。誰が応対するかを決めるのだろう。
結局負けたのは銀時で、他の二人は視線で早く行けと訴えているのにうんざりしながら、いまだ激しく叩かれる玄関へ向かった。

「はいはーい。今開けっから。つーか、ドア壊すんじゃねー、 
「銀さーん!!」 ・・ウオッ!?

扉を開けた瞬間、飛び込んできたのはだった。
勢いよく飛びつかれ危うく倒れる所だったが、何とか後ろ足を踏ん張り転倒は免れる。

「ちょっと、ちゃん・・・? あのー、離れてくれると銀さん嬉しいんですけど・・・。主に心臓がもたないって言うか・・・」

しかし銀時にしがみついたが離れる様子もなく、ただ震えるばかりだった。
どうしたものかと思っていた銀時の後ろから、二人の様子を窺っていた新八達の視線を感じ振り返ればその目は何処か蔑んだような
冷たい目をしていた。

「おいおい、オメーらなにそれ? 何を疑ってんだオイ」

「だって、銀ちゃんに抱きつくなんてありえないアル」

「しかも泣いてますよその人。何したんですか銀さん。早く罪を認めれば、その分罰は軽いですよ」

「オメーら・・・・俺を傷つけて何が楽しいの? ちゃんはそう言うのじゃなくって、ほら、前に話しただろうが。アレだよアレ」

懸命に弁解しようとする銀時だが、その必死さがかえって二人の疑念の眼差しを深くさせていく。

理由は、今の状況にではなく他にあった。
それは忘れもしない、に依頼を受けた次の日の事である。


結局がしがみ付いていたおかげで共に朝を迎えてしまった銀時は、とりあえずお詫びも兼ねてとしてが作った朝食を食べる事となった。
しかし給料前、しかも仕事もクビになったばかりのにすぐに払えるお金もなく、それは後日改めて持っていくということとなり
銀時もそれで構わないとの家を出て真っ直ぐ万事屋へと帰ったまでは良かった。
朝帰りなど初めてでもなく家に着き中へ入っても、二人は相変わらずの事だと興味を示さず、銀時も特に何も言う事もなくデスクの上のジャンプを取りに
ソファに座っていた神楽の横を通った時である。

「・・・銀ちゃん、なんか甘い匂いがするネ」

「また甘味ですか? 駄目ですよ、医者に止められてるんですから控えて下さいって」

新八の小言にもまるで馬の耳に念仏とばかりに、銀時に一切聞く気はなく。
その様子に深い溜息をついてその話題はそこで終わるはずだった。しかし神楽はそこで終わらせるつもりは無かったらしく、言葉が続く。

「違うヨ新八。これ、食べ物の匂いじゃないアル。確かに食べ物の匂いもするけど、コレ・・・・・香水みたいなそんな匂いネ」

「え、香水・・・・・・・・・銀さん、そう言えば飲んでる様子じゃないですけど、昨日はどこへ・・・」

「おい、何だオメーらその目。違ェから。これは違うんだって。仕事だよ仕事」

まるで汚い物を見るかのような視線に銀時はいつもの調子で返すが、まったく信じられないといった様子の二人に
多少うんざりしながらも何度となく仕事だと言えば、新八からその報酬はどうなったのかと聞かれありのままを話す銀時。
しかし普段の行いゆえなのか、それとも別の所に理由があるのか。銀時の言葉を半分も信じない神楽たち。
最後には神楽がまた昼ドラか何かで吸収したであろう、普段では聞くことが無いような台詞を吐きながら万事屋を駆け出し出て行ってしまった。



一通り思い出した所で銀時はそれらを払うかのように軽く首を振った。
いまだしがみ付くは何かに怯えた様子で、一向に離れる気配が無い。二人の眼差しも冷たいままである。
このままでは埒があかないと、銀時はをそのままにして居間へと行きソファへと座る。
そこで漸く離れたは自分の状況を見て慌てて銀時から離れると姿勢を正した。

「す、すいませんっ!!」

「いや、まー、いいんだけどよォ。 んで何? またコウモリでもでたのか?」

「は、はい・・・でも、家のコウモリは前に銀さんがつけてくれたアレのおかげで何とかなりましたけど、今度は違う事で困って・・・
うわっ!!

銀時に問われ理由を話そうとしただったがそれは突然、背中に圧し掛かってきた定春によって遮られる。
かなりの重さと大きさのある定春に圧し掛かられ、半分以上は意識が飛んでしまっている
慌てて三人で定春を退かせば息も絶え絶えといった様子で起き上がり、息をついた。

家に来るコウモリは前回、銀時がつけたねずみ撃退用の超音波が出る機械で寄ってこなくなったらしく。
それは無事に解決をして今では夜もぐっすりと眠れるようになったというの言葉に、漸く神楽と新八からの疑念は払われる事となる。
しかし家のコウモリが居なくなった後、かわりに外で追われる羽目になってしまった。つまりは幼少時に体験した恐怖を再び体験しているのだ。
だが睡眠不足も解消しているのだから、仕事に支障は無いだろうと思った矢先。
今度は寄って来るコウモリがまるでのあとを追うようにして動くものだからか、勤め先の者達はを不気味に思い
果てはそれが原因で仕事がはかどらないと言った者まで出てきてしまいまた仕事を辞めさせられてしまった。
おかげで仕事を受けるに受けられない。一体どうしたらいいのかと悩んだ結果、は再びここに訪れることとなった。

話を聞いていた銀時たちはしかし、それだけではどうにも対処のしようが無いとと外へと出る事にする。
どの程度、そのコウモリが寄って来るのか。実際にその目で確かめなければならないとと共に外へと出てみれば、流石にまだ昼間だからか
辺りにコウモリが飛んでいる気配は微塵も感じさせない。

特に行くあてもなく、ただの散歩をするかの様に歩く四人だったがはまるでお化け屋敷を歩くかのように
銀時の腕にしがみ付いてはなれようとしない。
それを振り払う事もせず、気にした様子もなく銀時も普通に歩いているためか自身はその状況に気付いてはいなかった。
途中、鳥が屋根から飛び出す羽音に驚き身を竦めるは、そのまま更に銀時へと体を密着させた。
だがまるでそれを邪魔するかのように突然、定春が二人の間に顔を押し付けて離そうとする。

「ウワッ! ちょ、ちょっと・・・
プッ

「おい定春、何の顔舐めてんだよ! って、ウオッ!?

定春を離そうとする銀時は思い切り体当たりをされて地面へと尻餅をついてしまった。
何をするんだと言いながら立ち上がってみれば、今にもを押しつぶさんとばかりにへ懐く定春の姿。
唖然としながらも、ハッと気付きすぐに三人がかりで定春を落ち着かせ漸く開放されたは、少しばかり定春から距離を取った。
動物は嫌いではないが、その体の大きさで懐かれてはたまったものではない。
そんなハプニングに巻き込まれつつも、街中を歩く銀時たち。
道中、何処かの公園では犬を連れた人とすれ違うたびに犬が寄ってきてその都度、撫でたり少しだけ遊んだりする
時折飛んでいる小鳥がの肩にとまったりもすれば、鳩などが足元によってきたりもした。
果ては野良猫や野良犬までもが寄って来る始末。しかし本人にとってはいつもの事のようで、まったく動じた様子は無い。
その様子を見ていた銀時は徐にの背を押して定春の前に立たせれば、少し加減を覚えたのか顔を摺り寄せてくる定春。
それを見て、何か合点がいったのか一人納得したような顔の銀時に、はどうしたのかと問い掛ける。

「つまりな、あれだよ。体質的に動物を寄せ付けるって言うか、好かれる奴なんだよ。ちゃんは」

「ああ、たまに居ますよね、そう言う人」

普段定春が普通の犬のように、他人に懐く姿など見た事はない。その怪力などをものともしない神楽だからこそ大人しくしてはいるが、それでも噛みつく事もある。
しかしに対しては本当に犬のように可愛げのある仕草をする。それは普段の定春を知っている銀時たちにとって信じがたいものであった。
最初でこそ不思議に思っていた事だったが、ここにくる途中の寄って来る動物などの様子を見ていればその理由なども見えてくる。
時折、動物に異常なまでに好かれる者が居るが、それが普通よりも強すぎるのだろう。警戒の強い野生の動物すらも寄って来るなど、まずありえない。

日も沈み始め、辺りに何か黒いものが飛び交っていた。
それはを悩ませているコウモリであるが、それらは自由に飛び回っているように見えてその実、よく見ればの頭上を飛んでいる。
気付いたは驚き身を竦めるがしかし、コウモリはただ飛び交っているばかりである。それでもに惹かれて飛んでいるのだろう、離れる気配が無い。
たとえ理由がわかったとしても、体質では解決のしようが無い。が慣れるしかないのだ。
しかし同じ動物でも幼い頃に追い掛け回された恐怖のおかげで、なかなか好きになれない。
どうしたらいいのかと、銀時に縋りつくようにして言えば暫く考える仕草をする。

「んじゃ、ウチ来る?」

「え?」

「まー、根本的な解決にはなってねーけどな。仕事ぐらいだったらウチにくりゃいいよ。
 といっても、仕事はそんな頻繁にくるわけじゃねェし。金も定期的に入るわけじゃねェけどさ」

「でも・・・いいんですか? だって、コウモリとか、色々引き寄せちゃうんですよ?」

「ウチはその前に色々引き寄せちゃうからね。それぐらい、どうって事ねェよ」


何の問題も無いという言葉に目を見開いて驚くは、軽く唇を噛み締めて少しの間、考える仕草をする。
それを黙って見ていた銀時だったが、はゆっくりとお辞儀をして「よろしくお願いします」とだけ言った。

「それじゃ、早速歓迎会な。ババアん所行くぞー」

「やったアル! お米が食べられるネ!」

「神楽ちゃん、ちょっとは遠慮しようね」

ほんの暫くしては顔を上げたが、内心今が夕方でよかったと思う。
周りが赤く染まっているおかげで火照った頬に誰にも気付かれずにすんだ事を、安心していたを他所に銀時たちは歩き出した。
慌てて後を追うようにして小走りになったは、そっと銀時の裾を掴んで歩く。
長く伸び、重なった影を見て少しだけ裾を掴む手の力を強くした。



「・・・こう言うのも、一目惚れって言うのかな・・・?」



「・・・ちゃん、今なんか言ったか?」

「っ、いいえ、何でもありません!」




小さく呟かれたの言葉が、銀時に実は聞こえていた事を知るのはこれからほんの少し後の話。





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甘くなーれ☆と脳内で己に呪文を唱えつつ書きました、「眠れない夜」の続きでございます!
毎度毎度、スクロールの長い事・・!どうしてもっと短く纏められないのだろうと、思い悩む今日この頃です。
しかし内容がけっこう無理矢理くさいところがある気がしますが、そこは目を瞑っていただけるとありがたいです。
最初、ヒロインが万事屋へお引越し!みたいな展開も考えてたんですが、あまりにも無理矢理すぎなのと意味がわからないのとで
とりあえずこれで落ち着きました。もう出勤って言うか、通い妻でいいかと(え)
これから先の糖分100%なお話は、皆様の心の中で思い描いて下さいませ・・!


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