この心に刺激を
「お化け屋敷に行きたい。むしろ晋助さんと一緒に行きたい」
「・・・突然何言ってやがる」
は窓の外をなんとなく見ながら、思った事を何も考えず口にする。
隣で煙管を咥えながら呆れたように、それでも律儀に答える高杉は煙を吐き出した。
特に理由は無い。ただそう思っただけだ。そう口にすれば「馬鹿だろう」の一言が投げつけられる。
「なんかスリルが足りないんですよね。刺激が欲しいんです」
「だったら背中に爆弾でも抱えて、真選組の野郎どもに突っ込んでったらどうだ?」
作り物よりよほどなスリルが味わえるだろう。言いながら鼻で笑う様子は、少し小憎らしい。
冗談で言っている事など百も承知だが、そのまま無視をするのもなんだか勿体無いとあえてそれにノッてみようかと立ち上がった。
部屋を出て行こうとするへ、どこへ行くんだと視線だけで問い掛けてくる高杉に、実行してみますとだけ言い残して歩き出す。
扉に手をかけたところで後ろから聞こえた溜息に、足を止めた。
「テメェは冗談もわからねぇのか」
「分かりますけど、あえてノッてみるのも一興かと」
「・・・わかった、連れてけばいいんだろ」
「え、マジですか!? ヤッホゥ!!」
喜び腕を振り上げたを、やはり呆れた眼差しで見る高杉は心底めんどくさそうだった。
それでも一度行くと言ったら行くのだろう、この男の妙な所で有言実行はある意味貧乏くじを引く。
だがそれを、貧乏くじだと思っているのかいないのかは、本人にしかわからない。
目の前を歩く高杉の後ろを、まるで遊びに連れていかれる子供のようにワクワクしながらついて行くは、ご機嫌なのか鼻歌まで歌い出す。
一体どこへ連れていってくれるのだろうか。そう遠い場所では無いだろう。たとえ子供だましでも構わない。
そんな事をついて歩きながら高杉の背中を見つめるは、その時の暢気な自分を今現在、呪っていた。
「・・・あのぉ、晋助さん。ここって・・・」
「スゲェだろ。巷じゃ有名な、幽霊屋敷だって言う噂だぜ。まあ、結構ヤバイらしいがな」
「いやいやいや!! あの、私が言ったのはお化け屋敷であって幽霊屋敷は望んでないんですが!」
「どっちも同じだろうが。なんだ、。恐いのか?」
「恐いに決まってます! 平然とこんな所連れてくるあなたも恐いです!」
朽ち果てた廃屋。元はきっとお金持ちでも住んでいたのだろう、無駄に広い敷地内は、草も生えほうだいで烏も飛んでいる。
雰囲気だけでもかなりヤバイものであるが、はこういったところは昔から遊び半分で来るのはよくない、と言い聞かせられていた。
それこそ作りもののお化け屋敷ならいざ知らず、こんな物はたとえ信じていようといまいと、来たくは無い。
敷地内には足を踏み入れずに立ち止まる。門の前だと言うのに敷地全体から感じられる雰囲気は、嫌なものばかりだった。心なしか寒気もする。
自分の腕を掴んで必死にその場から離れようとするを、後ろでただ楽しげに見ている高杉はいい退屈しのぎになったものだと暢気に煙管を吹かした。
路地裏のような人の少ない場所に入った所で、の足は止まる。
うずくまり心底疲れたような溜息を零すと同時に、全身から力が抜けていく。
そんなを横目で見ながらクツクツと笑う高杉を軽く睨み見るが、反論の言葉は出てこなかった。
「どうだ。少しは刺激はあったんじゃねェのか」
「少しどころじゃないですよ。まあ、ありがとうございます。でも二度とあそこには行きたくありません」
「そうかい。俺はテメェとならまた行ってもいいがな」
「じょ、冗談じゃない!」
もう二度とあんな所に行ってたまるか、という意味で言ったのだが高杉は自分と一緒に行くのが嫌だと捉えたような態度をとった。
目の前まで顔を近づけて、一緒は嫌か。などと聞いてくるあたり、本当に意地が悪い。
の言葉の真意など分かってはいる。からかっているだけだ。ムキになって反論してくるを見て、また高杉は楽しげに笑みを零す。
「たまにはこんな日も良いかもしれねぇな」
「私は疲れただけなんですが・・・」
グッタリとしながら隣を歩くを一瞥して、吐き出した煙は浮かべた笑みと共に流れていった。
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