諦めの悪い恋







ここは快援隊の船内。は陸奥に呼ばれ操縦室へと向かっていた。用件など聞かずともわかるが、一応は聞きに行く。
今は地球での貿易の途中である。しかしのんびりしている暇もなく、何日か停泊後、また宇宙へと飛び立つ。
だというのに、相変わらず坂本は地球へ着くや否や、ご執心のお相手へと会いにさっさと姿を消してしまう。
溜息が漏れないわけが無い。案の定、陸奥に言われたのはあの馬鹿を連れ戻してこいという指示だった。

探すと言っても会いたい相手がいる事は知っている。しかしその場所までは知らなかった。
大抵その相手に追い出された後、どこかの店で何かを摘みつつ時間を潰していたり、既に酒につぶれていたりと。
そんな状態でしか見つける事が出来ない為、居場所がいまいち把握できない。
仕方なく、久しぶりの江戸の街中を歩きながら坂本を探すべく辺りを見回していれば、見慣れた銀髪を見つけた。
駆け寄って思い切りタックルをかまそうとした、が。



「うおっ! ちょ、銀時、避けんな馬鹿!」

「ウルセー、避けるに決まってんだろ。しかもなに、その手に持った物騒な物は」

「ぶつかったついでにこれで脳天に一撃でも、と。ほら、そしたら衝撃で天パーがストレートになるかもしれないじゃん」

「なるか! それでなったらいくらでも自分の頭殴ってるわ!」



それもそうだと笑い飛ばせば鋭く睨みつけられた。しかしそれものらりくらりとかわして、坂本を見なかったかと本題に入る。
あまり期待していなかっただがそれに反して銀時から意外な言葉が返ってくる。
つい先ほど会ったらしい。相変わらず人の名前を間違えて腹立たしいと、愚痴まで添えられた。
場所を知っているのなら教えてくれと頼めばなにやらニヤニヤしながらどうしようかなどと言ってくる。
自分は万事屋でそれが依頼ということなら一緒に探しても構わないと、まるで人の足元を見たやり方である。
悔しげに顔を歪ませるとふざけるなと怒った。しかし連れて帰らなければ仕事にならないと結局は財布の紐を緩ませるしかなかった。


銀時に連れて行かれた場所はスナックすまいる。
ここに坂本が常に思いを寄せているおりょうが働いているらしい。話しばかり聞いて、その本人には会った事が無い。
とりあえず入り口へと近づけば手っ取り早く入り口横に立っていたスタッフへと聞いてみた。
どうやらすでにここにはいないらしく、派手に蹴り飛ばされて追い出されたらしい。呆れて溜息すらも出てこない。
ここに居ないとなれば、あとは行きつけの団子屋か甘味屋か、もしくはどこかで飲んでいるのだろう。
外で待っていた銀時へ他に心当たりは無いかと聞けば、とりあえず行きそうな場所を探し回るしか無いと言われてしまう。
とうとう盛大に溜息をついてしまった。


結局夕方になった今でも、目的の人物はまったく見つからない。
そんなにキャラが薄いわけでもないのに、探している時に限ってまったく姿が見つからない。
目の前を流れる川に、悔し紛れに小石を投げつけた。小さい音を立ててそれは沈んでいく。



「あーあ、こう言うときつくづく思うよ。何であんなんについてったんだろーって」

「オメーがあいつが宇宙に行くっつったのに我慢できなくてついてったんだろーが」



自業自得だと言われてしまえば返す言葉などありはしない。
あのまま、銀時たちと一緒に戦っていたらまた違う人生を歩んでいたかもしれない。
もしかしたらもう結婚でもして子供も二、三人いたかもしれない。
そう思う事はたまにあるが、けして口にはしなかった。
言っても仕方の無い事だからだ。何より自分の気持ちは自分がよく分かっている。



「本当、あいつは昔から馬鹿みたいに笑って、馬鹿みたいに真っ直ぐで、馬鹿みたいに強くて・・・
 そんな馬鹿を、私は馬鹿みたいにいつまでも好きなんだよね。奇跡だよコレ」

「ま、諦めの悪さがお前の専売特許だろーが。頑張れ頑張れ・・・お?」

「なに、どうし・・・あ」



手すりにもたれかかりながら銀時の見たほうへも顔を上げれば、向こう側から歩いてくるのは坂本だった。
なにやら袋を二つほど持っているが、どうせどこかで買ってきた土産物だろう。
と銀時に気がついた坂本が笑って手を振ってくる。



「おー、金時にじゃなかかー。なんじゃ、わしの事迎えに来てくれたがか?」

「テメーが迷子だから捜すの手伝ってくれって言われたから探してたんだよ。
 それと、俺の名前をいつになったら覚えるんですか。お前は脳みそもモジャモジャですかコノヤロー」

「辰馬ァ、陸奥姐ェが怒ってた。早く帰らないと撃ち抜かれるよ。主に下を」

「そりゃ怖いのー。じゃあ、帰るぜよ」

「うっわ、ちょ、急にひっぱんな馬鹿!」



通りすぎ際に腕を掴みズカズカと歩いていく坂本に引っ張られるは足を縺れさせた。
何とか倒れずにすんだが、ただ黙っているのも癪だった為に目の前で揺れる髪を掴んでみる。
痛いとは言うが、笑い方は相変わらず馬鹿っぽいようで、掴み所が無い。



「馬鹿辰馬。いつになったら諦めるわけ?」

「さぁのー、わしは昔から諦めば悪いぜよ」

「あ、そ。お互い諦め悪いわけね。ならいい、私も諦めませんから」

「何をじゃ?」



その問いに答えることはなかったはつかまれた腕を振り払い、逆に掴むと容赦なく走り出す。
すぐ後ろで笑う声を聞きながら、とりあえず静かに怒っているであろう陸奥の元へ放り投げ、痛い目にあってしまえばいいなどと
なかなかに物騒な事を考えていただった。





<<BACK