坂田家の食卓、冬・夕食編







今日はこの冬一番の冷え込みだとお天気お姉さんが言っていた。
それはできれば外れてくれたら嬉しかったけれど、現実はそう上手く行くわけもなく。
万事屋の和室では四人がコタツに丸くなって口々に寒いと言っている。
しかし時間はもう夕方。そろそろ夕食の準備をしなければならないが、ここから出て寒い台所へいくのにはかなりの勇気と気合が必要だ。
もちろん四人の誰もが他人任せ。自分が作ると、絶対に言いはしないとわかりつつも僅かの希望を持って先ほどから相手の顔をチラチラ見ている。
いい加減そのやり取りも疲れてきたのか、とうとう新八が夕食は誰が作るのだという話しを切り出す。



「私が作るとたまごかけご飯になるネ。こんな寒いのにたまごかけご飯は無いアル。だからお前らが作れヨ」

「寒いから行きたくありません。
 そもそも銀ちゃんの懐が寒いのが寒さの原因であってこの世に寒さをもたらしている冬将軍は銀ちゃんなんだよ」

「おいおい、ワンブレスで何とんでもねェ事言ってんの?」

「まあ確かにいつも銀さんの懐は寒いですよね。この中で一番寒さに慣れてるんですから、銀さんが行くべきですよ」

「無理矢理すぎなこじつけしてんじゃねーよ。 そもそもさー、仙人ってスゲーよな。霞み吸っておけば腹が膨れるんだよ。これぞまさしく地球に優しいエコだよ。
 ゴミも出ねェしガスも使わねェし水も使わねェ。ほら、何て素晴らしいエコ対策。万事屋は今日からエコ対策をしようと思います!
 つーことで新八、お前作れよ」

「エコはどこにいったんだよ。そもそも地球に優しくても胃に優しくありませんよそれ。何の解決にもなってないですから」



互いの言葉に意見やツッコミ。反論をぶつけるばかりで誰一人、身動ぎ一つしない。
視線をぶつからせ、ほんの少しの間を作る。突然全員が片腕をコタツの中から出せば天板の中心に向かって伸ばす。
暫しの沈黙の後、銀時は忌々しげに自分の掌を睨みつけた。他の三人はニヤけ面である。その顔の横には勝ち誇ったようなチョキ。
じゃんけんで見事に負けた銀時は仕方がないと渋々コタツから出れば身を震わせた。
まともな暖房などありはしない万事屋は屋内でも冷え切っている。
襖に手をかけて何を作るかなどとブツブツと独り言を言い始めた銀時の背に向かい、新八達の声が投げかけられた。



「贅沢は言わないヨ。たまご使って欲しいアル」

「たまには大根とかもいいですよねー」

「あ、私はんぺんとこんにゃくでいいよ!」

「つまりはおでんじゃねーか! しかもはさり気に二個言ってるし!
 いいよ作ってやるよ! こうなりゃすっげーの作ってやるからな、大人しく待ってろコノヤロー!」



半ばやけくそ気味に言われた銀時の言葉に三人は心の中で万歳三唱。
しかし暫くして天板の上に布巾を投げられれば、その頃からモソモソと思い思いに動き始める。
漸く全員がコタツから出てテーブルを拭いたり食器を出したりなど動き出した所で、神楽が鍋敷きを持って台所から戻ってきた。
その後ろから大きい鍋を持ちやってきた銀時。期待の眼差しが向けられる。
全員座った所でやっとその蓋が開けられた。しかし、開けて中を覗き見た瞬間銀時以外の動きが止まる。



「ん、どうしたお前ら?」

「・・・銀ちゃん、これ・・・」

「たまごがなんか、やたらと白いって言うか・・・」

「たまごも大根もはんぺんとこんにゃくも、ちゃんとオメーらの言った奴は入れたよ。何? なんか文句あるわけ?」

「大有りコノヤロー! ふざけるんじゃないアル! たまごはたまごでも殻付じゃねェかァァァァ!!」



天板の上に乗りあがらん勢いで掴みかかる神楽の意見にと新八も頷く。
しかし銀時の態度は変わることなく、寒い中作ってやった事にむしろ感謝しろと言う勢いだ。
それは確かに感謝する。しかし殻付は無いだろう。なんのいじめだこれ。



「言ったろ? 今日からエコ対策するって。 お前ゆで卵作る場合その分水とガス使うだろーが。
 これならおでんを作る分の水とガスで賄えるし、その分料金もほんの少しでも浮くだろ? 塵も積もればってやつだよ?
 必然的に万事屋の家計事情にも優しいエコ対策だよ」

「とどのつまりはめんどくさかったって事ですよね。何がエコだよ、僕らの心にはがっつりオゾンホールが出来上がったよ。
 おでんの中身を期待したこの純粋な気持ちを返せよチクショウ」

「すごいの作るって言ったじゃん」

「色んな意味ですごいよね。すごいけど、なんだろう。泣いていいかなこれ」

「もういいアル! こうなったら意地でも食べてやるネ!」

「あ、ちょっと神楽ちゃん! 僕の分のたまごまでとらないでよ!」



器を持ち勇む神楽は放っておけば全てを持っていきそうな勢いだ。それを宥めつつ阻止しつつ、銀時たちもそれぞれが器に盛ると食べ始めた。
普段やる気がないが銀時は基本器用だ。大抵の事なら難無くこなしてしまう。
作ったおでんもとてもおいしかった。寒い冬にはやはりおでんなど、温かい汁ものである。
食べ終わった後四人の中で特に、銀時はしみじみと思った。



「・・・今度から横着しねーで殻、剥くわ俺」



やっぱり殻を剥いて味が染み込んでこそおでんのたまごであると。





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