膝枕







夜も更けた頃、は何度目かも判らない寝返りを打った後静かに起き上がると寝間着を整えると部屋を出た。
先日、使い古した枕がとうとう駄目になり新しい枕を買ってきたのだがどうもしっくりこない。
元々枕が替わると中々眠れない、意外と神経質な精神を持っているは、こうして眠れない夜は
眠くなるまで夜の散歩をするのが日課となってしまった。


「・・・あれ?」

、か」


暫く歩いた所で、少し先のほうで見慣れた人物が壁に背を預け座り、窓から月を眺め見ている姿を見つけた。
が歩み寄っても視線を月から外す事はなく、また散歩かと聞いてくる。


「はい。高杉さんはお月見ですか?」

「まあ、そんなところか・・・」


月に思いを馳せているのか。それとも無心なのか。
それはわからなかったが、高杉がこうして月を眺めたりする事事態は珍しい事ではない。

季節の変わり目などに三味線を弾いたり、誰も実際に聞いた事は無いが詩を詠んだりもするらしい。
そういった事を嗜む事を知っているは、今こうして月を眺めているのもその一つなのかもしれないと
あまり深く考えずに、感じたままにそう思った。



それ以上会話が無い二人の間の沈黙は、けして苦しいものではなく。
暫くの間、微妙な距離をとって立っていたが不意に動いた。
高杉の隣に座るとそのまま体を傾がせて、あろうことか高杉の膝に頭を乗せてしまう。


「なんだ?」

「いや、枕が変わると寝れないんですよ」

「ガキだな」

「でも、高杉さんの膝枕なら寝れそうです」


だから少しお借りします。

そう言って高杉の言葉など待ちもせず目を閉じれば、ほんの数秒して聞こえ始めたの寝息。
それを呆れる様子もなく、膝の上に乗せられた頭を無理矢理退かす事もせずただそれを自然のままに受け入れ
高杉はまた月へと視線を向けた。


「俺の膝は高ェぞ、。起きたら覚悟しておけ」


もちろん高杉の言葉など聞こえるはずもなく、ただは幸せそうに眠るばかりだった。
まるで猫が甘えるように、少しだけ擦り寄るような仕草をするが面白いのか、はたまた気まぐれか。
少し優しい手つきでその頭を撫ぜれば、その手に擦り寄ってくる。




「猫って言うのは、こういうもんなのかね」




何処か楽しげに呟かれた独り言を知るのは、月だけだった。





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