親子鶴
万事屋の居間。
テーブルの上にはこれでもかと山積みにされた色とりどりの折り紙。
それを中心に、銀時達は皆一様に折鶴を折っていた。
何故そんな事をしているのかと言えば、それはお登勢からの依頼。どうやら知人が先日、病気で倒れ入院したという。
見舞いに行った時、身寄りがないしせっかく入院したのだから、見舞いの品として千羽鶴が欲しい。などと我侭を言い出したらしい。
だがお登勢は夜はスナックを経営している身。とてもじゃないがそれを折る時間はないということで、依頼をしてきたわけだった。
銀時はまるで定規で線を引いているかのような軽快さで一羽、また一羽と折っていってしまう。
速さはないものの、丁寧に折られていく新八の鶴も次々と量産されていく。
「・・・あっ、・・・ぅ? お・・・ぉぉ・・・? ・・・ぅおっ・・・お、おおぉぉ・・・」
「ちゃん、もうちょっと静かに折れないわけ?」
「・・・・・・銀さんみたいに器用に折れればいいんでしょうけどね、世の中器用な子ばかりじゃないんですよ。
世の中は器用と不器用、プラスとマイナスで成り立っているんです。私は銀さんが器用に見えるように存在している不器用な子なんです」
「あー、そう。それはともかくもう少し静かに折ってくれると銀さん嬉しいな」
拗ねたように頬を膨らませて今格闘中の折り紙をまた折り始めたは、今度は口をしっかり閉じていたが
どうやら微妙な声が出てしまうのは癖らしく、暫くして先ほどと同じような声が響く。
再度注意する気はなくなったのか、とりあえずを放っておく事にしたらしい銀時が突然、神楽に呼ばれ顔を上げた時である。
その目の前には神楽の広げた掌と、その上にちょこんと乗っているものは今まで作ってきたもので考えれば、一つしか答えがない。
だがあえてそこは聞いて見なければならないだろうと、銀時はキラキラと「出来たヨ!」と目を光らせる神楽へ恐る恐る問う。
「神楽ちゃん、これ何?」
「何って、折鶴ネ!」
「・・・この鶴は、どこでどうやってこんな複雑骨折したわけ?」
「脊椎動物なんて皆、骨折という宿命と隣りあわせで生きてるアル。
この鶴だってちょっと色々頑張りすぎたヨ。骨折した鶴だって構わないネ」
「いや、神楽ちゃん。病人のお見舞いの品で骨折した鶴って縁起でもないからもうちょっと頑張ろうね」
新八の声に口を尖らせつつ「わかったヨ」と折りなおし始めた神楽。
普通に折ればどうという事はなく、綺麗な折鶴が出来上がるのだがどうやらそれだけでは面白味が無いと神楽なりの工夫を凝らしているらしい。
どうもそれが先ほどから不発である為か、神楽はまだ二羽ほどしか折れていない。
「ぐ・・・・ぐ・・・ぅ・・・・っ、できた!」
「・・・・ちゃん、あえて聞くけど、それ何?」
「なにって、鶴じゃないですか」
「・・・え?」
そう言われ凝視したのは、の指先の上にちょこんと乗っている全長五ミリほどの折鶴だった。
「お前はどこの職人ですかコノヤロー!!!」
「痛っ!! ちょ、殴る事ないじゃないですか!」
「さっき人の事器用だなんだって言ってたけどなー、お前のそれ何? しかもよく見ればピンセットとか用意してるし!
もういい、もう銀さんは知りません。世の中の全てが信じられなくなった! 不器用なお前も可愛いじゃん?とか思った俺の思いやりを返せ!」
「ちょ、何この人怒ってるの? 意味判らないんですけど・・・」
怒りながら次々と折鶴を折っていく銀時に、心底意味がわからないと不思議そうな顔をする。
そんな二人を見て、ただ新八と神楽は呆れた溜息をつくしかなかった。
始終、そんなやり取りをしながら作られた万事屋製千羽鶴は、大きさも形もバラバラで
しかし貰ったお登勢の知人はまるで作った人を形にしたみたいだと、大層喜んでいたという。
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