愛情表現







ソファに座ってジャンプを読んでいる銀時と、その隣で雑誌を読んでいる
いつもそんな調子の二人は特にお互いを気にせず。それから一時間の間、ページを捲る音だけが二人の間に存在する。
暫くして小さく洩らされた「あ」というの声に銀時はやっとその顔を上げの方を見れば、視線がぶつかった。


「どうした?」

「銀ちゃん髪伸びた?」


言いながら銀時の項部分に手を伸ばし毛先を摘む。
に言われて改めて考えてみれば、ここ暫く切っていなかった事を思い出す。
しかしまだ邪魔というわけでもなく放っておいても構わないと言えば、「ふーん」と気のない返事。
再び視線をジャンプへと落したが、一つの台詞を読みきる前にまたもの声で中断されてしまう。


「ねえ、切ってあげようか」

「え、髪切れるの?」

「こう見えても、美容師目指してたんだよー」


楽しげに言いながらは立ち上がると髪バサミを取りに行ってしまう。
切らなくてもいいと言おうとしたがの楽しそうな様子に言う気が失せてしまい、ここで切ってもらえば楽だろうとも考えた。
しかし何より止めなかった理由は、恋人に髪を切ってもらうのだ。嬉しくないわけがない。


「持ってきたよー」


和室へと向かって新聞紙を引き、その上に座るよう銀時へ言えば見た目仕方なさ気だが少しだけ楽しそうでもあった。
気付いているのかいないのかはわからないが、は鼻歌交じりに銀時にタオルをかけようとしていたがその手が止まる。


「ねえ銀ちゃん。上だけで良いから脱いでくれない?」

「いやだちゃんったら、エッチ」

「別にこのままでも良いけど、そしたら私、手元狂って銀ちゃんの首も切っちゃいそうだなー

いやいやいや。冗談だって、冗談。脱ぎます。脱ぎますよ」


取り留めない冗談を言い合いながらも、準備する手を止めることなくは服を脱いだ銀時の首へとタオルを改めて掛けた。
右手に鋏を持ち左手に櫛。軽く銀時の髪を梳けば、思いのほか櫛の通りがいい事に密かに驚いた。
毛先を整えるだけで良いだろうと鋏を当てると独特な音を立てて髪が切られていく。
シャキシャキと音を立てて切られていく髪は、下に引いた新聞紙や掛けたタオルに散っていくのを、なんとなく銀時は目で追った。


「けっこう上手ェじゃねーか。さすが美容師目指しただけあるな」

「そう? でもね、美容師は諦めちゃったんだよねー」


の言葉に銀時は「なんで?」と聞けば、すぐには答えが返ってこなかった。
聞いてはいけなかったのかと思っていたがそういったわけではなく、調度耳の近くの髪を切っていた為集中していたようだった。
一際大きな音でシャキっという音が響いたと同時に、少しだけ擽ったさを感じ身震いをする。
耳の裏に残った髪の残骸を払っていくの指先の動きが心地好く、思わず目を細めてしまった。


「よし、こんなもんかな」

「・・・あ、あー・・・終わった?」

「うん。あ、さっきの質問の答えなんだけどね、私不器用なもんだからさ」

「・・・・あのさん。不器用って、お前・・・じゃあ何? 今回のこれはたまたま上手く行ったとかそんな感じ?」


予想していなかったの言葉に驚きながら振り返ればそれによって、こびり付いていた髪が少しだけ畳に散ってしまった。
それを手で集められるだけ集め、は首を横に振り否定を表す。
タオルを慎重に外すと新聞紙の上にある程度髪を落として、新聞紙はゴミ箱へ。タオルは玄関先で叩かれてから洗濯へと放り込まれた。
一通り片付けが終わると、いそいそと戻り銀時の隣に座る


「あのね、私普段はあまり料理も上手くいかないし、髪の毛も上手く切れないし。
 それに掃除だって掃除してるんだか散らかしているんだか分からなくなってくるし。結局何においても不器用なんだ」

「え、だってお前たまにうちでも飯作ってくじゃねーか。失敗してるものなんか無かったぞ」


それにたまにやっていく掃除も、綺麗に片付けるものだと感心できるものであったりする。
の言葉のどれも疑問が残るものばかりで銀時は首を傾げながら聞くとで、頭を掻きながら少し照れくさそうな顔をした。


「つまりね。私、銀ちゃんの為なら器用になれるみたいなんだよね。
 他の人じゃダメなの。銀ちゃんだけなんだよ、私が器用になれる人って」

「・・・・なにそれ?」

「うーん・・・・・愛・・・かな?」

「え、じゃあこれって、オメーの愛情表現って受け取っていいの?」

「ご自由に」


切ってもらった髪を弄りながら聞けば流石に照れくさくなったのか、は顔を背けて答える。
その頬は赤く、銀時のほうからでも確りと見えてしまう。
の様子にニヤッと笑みを浮かべると有無を言わさずに抱きしめて頬擦りをすると、当然の事ながらは驚く。


「うわっ! ちょ、銀ちゃん!? え、何コレ!?」

「んー? 俺からの愛情表現。ありがたく受取りなさい」

「えー、あー、・・・・・はい」


赤くなり縮こまってしまっただったが、銀時へと寄りかかるとその温もりを密かに楽しみつつ
今度自分の髪が伸びてきた時は銀時に切ってもらおう、などと考えながら目を瞑った。
暫くして寝息を立て始めたを起こさないように銀時はそっと横になると二人してそのまま眠ってしまい、目が醒めた頃には日が暮れ始めていた。
何もかけずに寝てしまった所為かそれから二人して風邪をひいてしまったのは言うまでもない。





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