冷たい理由







最近銀時は気になっていることがあった。それはの事である。
行動にあからさまに出ているわけではないが、しかしどこか冷たいのだ。
例えば朝起こしてくれるときも、銀時が起きたとわかった途端に顔を見ることなくさっさと居間へと姿を消してしまったり。
ご飯を食べている時も神楽の隣に座ったり斜め前に座ったりと、絶対に目の前には座らない。
普段も心なしか1m以内に近づこうとしない気がする。


「・・・俺、何かしたかな?」


しかし思い出そうとしてもこれといって何もしていない。
過度なスキンシップだってしていない。せいぜい肩に手を置くぐらいだ。
けして道端で手を繋いだり、抱きついたりなんて事はしていない。
むしろ出来るもんならばしたいぐらいだが、下手な事をして嫌われたくは無い。
だがする前にこれでは、希望すらなさそうである。


「もしかして酔った勢いで何かしたのか?」


それならば記憶がないのは納得がいく。
だがそれならば酔った勢いとは言えあんな事するなんて!とでも言ってくれれば対処のしようがあるのだが
如何せんからの動きがない。
そうなるとこちらから聞くしかないのだが何か聞こうとしても実は最近、まともに会話した事がないのだ。
何度かこちらから「何かしたか」と聞こうとしたことがあるのだが、ああだこうだと理由を作りさっさと逃げてしまう。


「銀さーん、今夜のお味噌汁の中身、葱で良いですか?」


材料もお金もないんで。
そう言いながら廊下から顔を出してきたのは今銀時の頭を悩ませている本人。
暢気に聞いてくるの態度に、人の気も知らないで・・・と思いながらも一応質問には返事をする。
また顔を引っ込めたは今頃葱を切っているのだろう。微かに音が台所から響いてくる。

特にこれといて、あからさまに嫌われているわけでは無いらしい。
ならば時折見せる、あの微妙に冷たい態度は何なのか。
嫌いなのか嫌いじゃ無いのか。


「あーっ! 何なんだよ一体!」

「ど、どうしたんですか!?」


モヤモヤし始めた自分の頭の中の色々な思考を振り払うように頭を掻き毟って叫べば
目の前には豆腐を持ったがいつのまにか立っていた。
だがそれを気にもせず、銀時はもうこうなれば悩んで居ても仕方がないと立ち上がっての目の前に立つ。
しかし近づいた分、は後ろへと下がり距離を取った。
開いた距離分また縮めればまた離れ。それを繰り返せばこの狭い部屋ではあっという間に壁に追い詰められてしまう。


「な・・なんですか・・・?」

「おい。何で逃げんだよ。俺お前に何かしたか?」

「え、あ・・・いや・・・・・・・っ、あの! 味噌汁の中身葱だけじゃアレなんで、豆腐も入れて・・・」

「んな事聞いてねーだろーがっ!」
「っ!!」


目の前まで来てまた話を逸らそうとするに苛立って思わず声を荒げれば、息を詰めて驚き目を見開く
壁に音が出るほどに手をついてを見つめて、内心では「しまった」と思うが反面口を次いで出てくるのはたまりにたまった疑問の数々。


何で離れるのか。


何で目を合わせてくれないのか。


何で話を聞いてくれないのか。


グルグルと頭の中で繰り返される疑問を言葉にしてぶつけて。
今まで逸らされていた目線は今は確りとかち合っていて。
その目は戸惑いを見せている。

傍から聞けば構ってくれないと泣き叫ぶ子供の我侭のようだと頭の端で思っている。
なんと大人気ない事を言っているのだろう。
も困っているではないか。

理性では分かっているが、気持ちがそれを受け入れてくれない。


「・・・怒鳴ったりして、悪かったよ・・・。
 でもな、・・・ガキみてェな事言うけどさ、冷たくしねーでくれよ。
 好きな奴から冷たくされるのって、すっげー痛ェし、辛ェんだよ・・・」

「ぎ、銀さん・・・え、あの・・・・」

「何かしたってんなら言ってくれればいい。好きになってくれなんて無茶はいわねーから」

「あの、だから・・・」

「せめて普通に接してほしいんだよ・・・でも俺が嫌いって言うなら・・・ 「だから、銀さんっ! 私の話も聞いてくださいよ!」


の肩を掴んで足に力が入らなくなってきた銀時はしゃがみこんでしまった。
自分の言葉に段々と項垂れていく銀時にはとうとう痺れを切らして言葉の途中で怒鳴り返してしまった。
少し泣きそうな顔を上げて銀時はの顔を見れば、今まで見た事がないほどの。
例えて言うならば茹蛸のような真っ赤な顔をしていた。


「あのですね・・・今までの態度は、自分でも酷いと思います、ごめんなさい・・・。
 でも、ちゃんと、その・・・理由がありまして・・・」

「理由?」

「だからっ・・・・ぎ、銀さんの顔見ると動機が激しくなったり、顔が赤くなったり大変なんですよ!
 むしろ声聞くだけでも心臓が五月蝿くなるんですよ!
 いちいちそれじゃ私の心臓がもたないから、だからあまり顔見ないでおこうかと・・・・」

「え、あー・・・・それってつまり・・・どう言う事?」


なんとなく答えは見えてきていた。
それでも聞かなければそれはただの希望、願望でしかない。
我ながらに意地の悪い質問だが、思い込みだけで終わらせてしまいたくは無かった。


「つ、つまりですね・・・私も銀さんが好きですって事で・・・・。
 あー! もう、言わせないで下さい! 顔見ないで下さい!」


恥ずかしい!といいながら顔を隠したくとも手に持った豆腐がそれをさせてくれない。
この場から今すぐにでも逃げ出したかったが、腰に抱きついてきた銀時のせいでそれも無理だった。
それに抗議しようとは口を開いたはいいが、言葉は出てこなかった。
自分のお腹に顔を埋める銀時の顔は見えなかったがかわりに。



「・・・・銀さん、耳が真っ赤ですよ・・・」

「うるせー、オメーだって顔赤ェじゃねーかよ」



互いが同じ様に茹蛸状態では反論も揚げ足取りも出来ず、暫しそのままで。
二人が体を離すきっかけは台所でけたたましく沸騰を知らせるように鳴り響く、吹き零れる鍋の音だった。





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