飴玉でお願い







昼時。銀時は仕事もないのでいつものように、ソファに寝転がりジャンプを読みふけっていた。
毎週月曜(時に土曜)に小脇に抱え、なけなしの金をはたいて買ってくるジャンプ。
それは彼の楽しみの一つだが、何度となくやめよう、これっきりにしようと言いながらも結局は買って来てしまう。
踏ん切りがつかないままにズルズルと買ってきてしまうそれは、しかし端から端まで何度となく読むのだから無駄とも言い切れない。
いつも読み始めれば滅多な事がなければその集中は途切れる事がないのだが、今銀時は気が散って仕方がない。
おかげで先ほどからページが一向に進んでいないのだ。

「・・・・・あのさ、なんなのお前さっきから。俺の横でニヤニヤ笑ってさ」

「な! 失礼ですよ銀さん。せめてニコニコと言ってください」

「いや、その顔は明らかになにか企んでますって顔だ。んなもん、ニヤニヤで十分だってーの」

向かいのソファに座り始終ずっと、本人曰くニコニコと笑いながらただ無言のまま銀時を凝視していた。
怖い事この上ないし、不気味だ。しかし聞いたらなにかやばい事にもなりそうだと聞くか否か、ずっと悩んでいたのだが
流石にそれが30分以上続けば放っておくわけにもいかない。
しかしその理由を聞く前に銀時の言い方が気に入らなかったのか、は頬を膨らませてツイッと顔を背けてしまった。

「ふーんだ。そんな意地悪言う銀さんにはこれあげないですからいいですよーだ」

そう言いながらチラチラ見せたのはイチゴミルク味の飴。
実は先日、安く売っていたのをこっそりと買ってきたのだ。
案の定銀時は激しくそれに反応して起き上がりすぐさま機嫌をとるために猫なで声を出しながら、の隣に座る。

「んな! ・・・ちょ、冗談だってちゃ〜ん。な、機嫌直せって。俺が悪かったから」

「・・・・本当に悪いって思ってます?」

「思ってる、思ってる」

「嘘。だって銀さん、視線が飴ロックオンですよ。私のほう見てません」

そんな人にはあげませんと、後ろ手に隠してしまった。
甘味に関してはこれまでに無い以上に表情の動きが素直になる銀時は、あからさまに残念そうな顔になる。
しかし脳内ではいかにしてから飴をいただくか。その計算で一杯だろう。

「んなこといわねーでよ、飴くれって。な?」

「じゃあ、私のお願い一個だけ、聞いてくれますか?」

「おう。銀さんなんだって聞いちゃうよ!」

飴の為ならば後先考えずに答える。
それを考慮したうえで、は今回の作戦を決行した。作戦名「糖分で銀さんを釣ってお願い作戦」と、まんまなネーミングだ。
実はには前々からやりたいことがあった。だが普通にお願いしてもきっと、却下されるだろう事は目に見えている。
なので懐からなけなしの小銭を出し、買ってきた飴をちらつかせる作戦を思いつき即実行したと言うわけだ。

「やった!」

隠しもせずガッツポーズをとったを見て、自分がはめられた事に気付いた時には既に遅く、しかし飴の為だと腹を括った。

男らしいんだか、らしくないんだか。










「ただいまー」
「ただいまヨー」

「「おかえりー」」

買物に行っていた二人が帰ってきた時、居間から銀時との少し間延びしたおかえりが返ってきた。
買物袋を台所に置き、入れるものを二人で入れた後居間へと入ったがそこで動きが止まる。


「・・・・・なにしてるんですかさん」

「銀さんの膝の上で広告吟味中・・・あ、明日洗剤安い」


「・・・・・なにしてるネ銀ちゃん」

を膝の上に乗せてジャンプ読書中・・・あ、これ来週最終回か」








銀さんのお膝の上に座ってみたいんです!

それがの「お願い」であった。


目をキラキラさせながら言ってきた時には、ただ「・・・どーぞ」としか答えられず、渡された飴を口の中に放り込んでから暫くの間は落ち着かなかった。
しかしそれも時間が経てば慣れてきたようで、銀時はテーブルの上においてあるジャンプをに取ってもらうと徐に読み始めた。
で、前から膝の上に座ってみたいと思っていた為に思いついた今回の作戦。
とりあえず目的は達成したが降りるのももったいないし、銀時もジャンプを読み始めた。ならばもう少し、と近くにあった広告を掴み広げて今に至る。


ソファーに座っている銀時の膝の上に乗っかり、は完全に銀時へと寄りかかっている状態に困惑を隠せない二人はただ無言。
どんな状況なのだとツッコミを入れたかったがなにも言えず。ただ部屋にはコロコロと二人がなめる飴玉の音だけが響いた。





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